一益
「おっ!」
和颯が明るい声を上げた。
「俺は浮かんだぞ! 北の対岸から、船橋をかけるのはどうだろう?」
船橋は、船の上に板を乗せて固定させた橋だ。
「熱田で何度も船橋をかけている、熟練の奴らを連れて行こう」
いやいや……。
「全兵を、北に配置。
夜明けとともに、川に船橋をかける!
敵は俺たちが北から攻めるなどとは、夢にも思っていないに違いない。
慌てふためくところを、一斉攻撃!
――どうだ!?」
「あ~……。和颯殿……?」
俺は遠慮がちに言った。
「いくら熱田の者が素早く船橋をかけられるとしても、この長さの橋を架けようとすれば、かなりの時間がかかります。
さすがに最後まで、守備兵に見つからずに橋を架けられるとは思えません。
見つかれば――火矢を放たれ、終わり。ではありませんか?
悪くすれば、皆が橋を渡っている間に橋を断たれ、全兵が川に落ちるかもしれません」
和颯は目を泳がせた。
「あ~……。
そうしたら、これはどうだ!?
いっそのこと、最初から全員、川に入ってしまえ!
全兵、水泳の特訓をする。で、夜の闇に紛れて、川を泳ぎ、村木砦に侵入。
敵が寝ている間に火攻めにする!」
……火攻め、か……。
悪くない。が……。
「それなら全員で行く必要はないな。数人で十分だ。
――だけど、泳いでいくんだろ? 上陸した後、どうやって火を起こすんだ?
火打石は湿ってるぜ?」
「あ~……。そうか。火はダメだな。
――そうだ! やっぱり川は全員で渡る。
で、敵が寝ている間に、一斉攻撃!」
「全員が上陸する前に、誰か一人でも見つかったら、全員が弓で射殺されて、終わりです。
上手く上陸できたとしても、この距離を泳いだら、疲れ切って戦闘どころではなくなります」
「いや、そこはこう――根性でさ。みんなで力を合わせて頑張って……」
「根性万能説を捨てろ。さすがに無理だ」
「ん~~……。一益は厳しいなぁ。
あ! じゃあ、これはどうだ? まず――」
「和颯殿」
勝家が声を上げた。
俺と和颯が、同時に勝家を見た。
勝家は、ガチガチに緊張したような顔をして、目線をさまよわせた。
「――申し上げても、よろしいでしょうか?」
固い声。
「もちろんだ!」
和颯が機嫌よく答える。
勝家はまだ、逡巡している。
「――何を申し上げても、笑わないと、約束してくださいますか――?」




