~カワセミの唄~
情報ってのは、集めてみるもんだな。
意外なところから、思いもよらない事実の、尻尾の先が出てくる事がある。
知らなかったぜ。水野信元が、徳川家康の叔父だったとはな。
水野信元が今川家につかないのは、ただの気まぐれか、つまんねぇ忠誠心だと思っていた。だが、甥が人質になっているとすれば、話は別だ。
彼がそうまでして今川につこうとしない理由。今のうちに探り出しておくべきだ。
――まあいい。
いずれにしても、和颯は緒川砦を助けに行く気満々だ。
あいつのことだ。止める人間を引きずってでも、緒川砦に行くに違いない。
行くからには、勝たなければ。
キーマンは……この男・柴田勝家。
俺は和颯に向かって、からかうように言ってやった。
「残念ですねぇ、和颯殿。
ここで水野信元を見殺しにしてしまっては、水野信元が、そこまでして今川に抵抗しようとした理由が、分からずじまいになってしまいます」
勝家の反応を注視する。
勝家のゴワゴワとした眉が、じわりと動いた。
――興味を持っている……。
「だ――っ!
なんてこと言うんだ!
そんなこと言われたら、気になっちゃうじゃないかっ!!
一益。その理由、探ってこい!」
――よし、チャンス。
「無理でございます。
村木砦の構造であれば、現地に行って偵察してきたので分かりますが、人の心の中までは覗けません。
人の心を覗くには、心を開かせなければ――」
勝家がこちらを見た。
「――村木砦の偵察に、行ったのか……?」
―――かかった!!
「はい。先日行って参りました」
俺は、用意しておいた紙と筆を出した。
「これが、村木砦の構造です。
砦の周りに、川の水を引きこんだ、かなり攻めにくい砦です。
岸に接しているのは南側のみ。
ですが、その南側には、弓も届かないほどの巨大な落とし穴(堀)が彫られています」
南側の塀には、落とし穴から攻めてくる敵を、塀の中から弓で狙い撃ちにするための、小窓(狭間という)もたくさん空けられていた。
「川の深さは?」
「少し潜ってみましたが、足がつきませんでした」
「出入口は?」
「門は二か所。東側が表門、西側が裏門のようです。南の岸とは、堀の縁の橋のようなものでつながっています」
「首尾兵は?」
「砦の規模としては、1000人は収容できそうです。ですが、実際に砦の中にいたのは400人ほどでした」
砦を攻める場合、攻め手は、守り手の3倍の人数を用意すれば互角に戦えると言われている。
「むむむ……」
勝家は、俺の描いたへたくそな絵とにらめっこしている。
和颯が動かせる兵は、親衛隊の700人ほど。
和颯が出陣するなら、当然、第一家老の貞じいも出陣するだろう。
それに、現地にいる水野信元の部下を合わせて。――……1200人に達するだろうか。
だが、この砦は、びっくりするくらいハイスペックだ。
川、堀、橋、狭間――。
どう考えても、3倍の人数ではとても攻め落とせそうもない。
俺が和颯なら、少なくとも5倍の人数は欲しいところだ。
「守りに特化した、難攻不落の砦……」
勝家の眉間の皺が深くなる。
左右の太い眉が、ぐぐぐっと寄せ集められて――ふっと離れた。
「――いい案が、浮かびましたか?」
勝家が何も言わないので、俺は遠慮がちに声をかけた。
「――いや。……何でもない」
絶対に嘘だ。
だが、口にする気はないらしい。




