水野
そんな中、突然、俺のもとへ、水野信元から手紙が届いた。
水野信元は、知多半島の真ん中あたり、西の海沿いの緒川に住んでいる。
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織口和颯殿
突然の手紙をお許しください。
我々は、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされております!!
織口信秀殿が亡くなってからというもの、我々には今川家から『織口家を見限り、今川家に寝返らないか』という誘いが、ひっきりなしに来ております。
今川家の提示する条件は非常に魅力的で、『今こそ今川家につくべきだ』と進言する家臣は、日ごとに増えております。
しかしながらわたくしは信秀殿の生前、多くのご恩を受けております。
信秀殿が亡くなったからといって、どうして直ちに、織口家を裏切ることなどできましょう。
目下、水野家は、今川家の誘いを断り続けております。
ですが今川家が、鳴海と沓掛を手に入れたのはご存じの通り。
先日とうとう今川軍は、村木に、極めて強固な砦を作りました。
村木砦は難攻不落。しかも、我々のいる緒川から、わずか3Kmしか離れておりません。
既に寺本寺は今川に寝返りました。
近隣から緒川へと続く道は遮断され、我々は既に孤立。
田畑も荒らされて食料も乏しく、じわじわと追い詰められています。
我々は何度も使者を立てました。
数人の使者は命がけで包囲網を突破。織口家の跡取り・信勝様に窮状を訴えましたが『何とか耐えてほしい』のお返事をいただいただけで、援軍はいただけておりません。
このままでは、我々はあと1ヶ月も持ちこたえることはできないでしょう。
和颯殿こそ、我々を救ってくださる、最後の頼みの綱と思い、こうして涙を流しながら、手紙をしたため、慈悲におすがりしております。
あなたのお助けがなければ、我々は、あとはもう死を待つばかり。
人が死ぬのはこの世の理。
名誉のうちに死ぬであれば、この命など惜しくもありません。
しかし、緒川砦が落ちれば、いずれ知多半島が落ちます。知多半島が落ちれば、熱田も落ちる。
熱田が落ちれば――次は、織口家本家。
水野家の滅亡は、織口家にとってもけっして看過できるものではないはずです。
織口和颯殿!
どうか我々をこの窮状からお救い下さいませ!!
緒川砦 ・ 水野信元
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(参考)
鳴海ー沓掛 8Km
村木ー緒川 3Km
緒川ー寺本 10Km




