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俺の妻は忍(しのび)ですか? ――でもって、もしや、次に殺される男は俺ですか?? ええ〜っ! 俺、まだまだ生存希望ですけどっ!?  作者: ひの


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聖徳寺のはなれ

「入る」

 声をかけ、扉を開いた。


 座敷には火鳥が一人、床に手をつき、頭を下げて待ち構えていた。

「父上……。お久しゅうございます」


「5年ぶり、だ」


 道三が上座に座ると、火鳥が顔を上げた。

 道三の記憶の中の火鳥は13才。だが顔を上げた火鳥は18才になっていた。

 記憶と現実とのギャップに、軽いめまいを覚える。


「尾張での任務、ご苦労であったな」

「ありがたいお言葉でございます」

 火鳥は小さく視線を下げた。


「苦労しただろう」

「いえ、そんなことは……」


 道三は、心を込めて尋ねた。


「火鳥……。

 美濃に――帰りたい、か?」


「え?」

 動揺し、道三を仰ぎ見た瞳。

 ――答えは、そこに書いてあった。

 道三は、切なさの宿る、娘の瞳から目をそらした。


「……いや、今はまだ、帰らなくていい。

 尾張で――……まだ――やり残したことがあるのだろう」


「………はい……」

 消え入りそうなが答えた。 

 


 道三は、火鳥を見た。

 彼女は、落ち着かない気配で、自分の手元に目を落としている。


 道三は心の中で小さくため息をついた。

 娘の姿をみてもう一度、覚悟を決める。

 懐から一本の懐剣を取り出した。

「――これをお前に、渡しておく」


 火鳥はそれを、両手で押しいただいた。礼儀通り、間を取ってから懐剣に目をやる。火鳥の顔が輝いた。

「……わあっ…………。

 …………きれい……」


 火鳥のため息が漏れ、道三の口元がわずかに緩んだ。


「甲賀の里からお前を引き取るとき、渡された懐剣だ。

 もっとも、渡されたのは刀身だけだったが――」


 鞘と柄は、道三が作らせた。金も時間も惜しまなかった。

 いつか、火鳥が嫁ぐときに持たせようと思っていた。

 ……そしてそれは、はるか遠い未来のいつかだと思っていた。



 火鳥が、鞘を抜いた。


「めったに拝見できないほどの、見事な、懐剣でございます。

 さぞかし、切れ味も良いのでしょう」


 火鳥は刀の角度を変え、刀身を眺めている。


「その懐剣はもともとお前の物だったのだそうだ。

 おそらく大切なものだったのだろうと聞いた。

 だから、これからはお前が持っていると良い」


 火鳥が道三を見た。

「その時、わたくしは、この懐剣の刀身だけを持って甲賀の里へ流れ着いたという事でしょうか?」

「いや、柄と鞘は『もう無い』と言っていた」


 『もう無い』ということは、『最初はあった』という事だろう。

 柄と鞘だけなくした、という事だろうか。

 どんな状況なら、そんなことが起こりうるのか。


 道三は続けた。

「儂にも良く分からない。

 ただ、あの日一緒に小屋にいた、黒トカゲの一番弟子。

 あの忍が、何か知っていそうだった」


 道三は冗談めかして言った。

「お前が必要だと思えばいつでも、その懐剣を、織口和颯の胸に突き刺すがいい」


 道三がそう言うやいなや、火鳥の(まと)う空気が突然ぴりりと引き締まり、たちまち冷気を帯びた。


「いえ――」

 ひとかけらの感情もない、くのいちの声が答えた。


「刺殺だと、()り損ねる可能性が――。

 織口和颯を殺すなら……毒殺」



 道三は、目を丸くして火鳥を見つめ、一瞬の後に爆笑した。



「――何か、おかしなことを申しましたでしょうか?」

 火鳥が怪訝な顔をした。

「――いや……」

 道三は涙をぬぐいながら言った。

「――さすがは、儂の娘だ、と」


 道三は真顔に戻って火鳥の目を見た。

「この先何があっても、決して忘れるな。

 火鳥は儂の、自慢の娘だ」


 火鳥は深く静かに、頭を下げた。



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