〜斎藤 道三〜
御堂の隅に置いた屏風の陰で、道三は外の様子をうかがっていた。
目の前にちらつくのは、先ほど見た織口和颯の、ぶっ飛んだファッションだ。
――火鳥も火鳥だ。情けない。
思い出すだけで、また、こめかみがピクピクと痙攣し始めた。
――思えば10才で土岐頼純に嫁がせてから、ほとんど稲葉山にとどまることなく、ずっとあちらこちらへ嫁がせっぱなしだった。
それでも各務野が傍にいれば問題ないと思った。
だが、その各務野も、尾張で死んでしまった。
火鳥とは、血は繋がっていない。
だがあれほどまでに冷静で賢く、度胸のある娘を、道三は知らない。
今日は必ず連れて帰る。
もう一度、手元に置いて頭を冷やさせ、正気に戻す。
御堂の先の廊下の奥から、人の気配がする。
――やって来たか――
青二才め。
百戦錬磨のこの斎藤道三との、圧倒的な力の差を思い知るがいい。
――再起不能になるまで、叩きのめしてやる……!
御堂に入ってきた男を覗き見た時、道三は息をのんだ。
頭の先からつま先まで、非の打ちどころがないほど立派な正装で現れたのは、間違いなく先ほど目にした織口和颯。
先ほどとは打って変わった見事な出で立ち。
顔も引き締まり、醸し出す雰囲気まで変わっているようだ。
――ふ……ふざけた真似を!
織口和颯は、鮮やかな袴さばきで、するすると床を滑るように廊下を進んできた。
だが、御堂の前でぎょっとしたように足を止めた。
当然だ。
御堂には道三が着るような立派な盛装をした武将たち700人がずらりと並んでいる。
真ん中には、特に豪奢な着物を着た3人の重鎮がででん、と座っている。
『――この中から、本物を見つけられるか?』
誰が見たって、そう試されていると思うだろう。
だが、見つけられるわけはない。
この中に、本物の道三はいないのだから。
さあこい、見掛け倒しの未熟者。
700人の武将の前で赤っ恥をかくがいい。
――さあさあ、どうする。若造?
道三は口の端で笑った。
織口和颯が動揺を見せたのは、一瞬だった。
ぐっ、と口元に力が入り、彼が何かを決意したのが分かった。
全身に、白く輝くような覇気がみなぎった。
700人の武将たちが、わずかにたじろいだ。
彼は御堂全体に溢れるようなエネルギーを発散させながら、ゆっくりと滑るように武将たちの前を横切っていく。
3人の重鎮たちの前でも、立ち止まることはなかった。
最後の一人の前を通り抜けた時、彼の全身から、ふっと力が抜けた。
織口和颯は憤慨したように眉を寄せると、御堂の隅の柱に背中をつけて、どかりと座り込んだ。
700人の武将たちの間に、動揺ととまどいが広がる。
『ここに、斎藤道三はいない』
彼の態度は、それを見抜いたことを示していた。
――若造のくせに。よくもやってくれたな……!
恥をかいたのは、こちらのほうだ。
道三は、荒々しく屏風を押しのけた。




