表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の妻は忍(しのび)ですか? ――でもって、もしや、次に殺される男は俺ですか?? ええ〜っ! 俺、まだまだ生存希望ですけどっ!?  作者: ひの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/237

合戦

 俺たちは勝家の進言するとおりに軍を3つに分け、3か所を同時に攻撃した。

 

 俺は勢いよく馬を走らせ、先陣を切った。

 俺の部下たちが後に続く。


 不意に死角から、敵の槍が伸びてきた。

 まずい。

 避けきれない。


 そう思った時には槍を持った敵が倒れていた。

「ちゃんと見ておけ!」

 血塗れの太刀を持った一益が怒鳴った。

「だが、勢いを殺すな。突き進め!」

 ――むちゃくちゃだ。

 だけど、血が騒ぐのはなぜだろう。


「分かってる!」

 俺は怒鳴り返した。

「突撃だ! 進めっ!」

 俺は後ろを振り返った。仲間たちに向かって声を上げる。

「応!」

 俺が、ボスだ。だから俺が先頭に立って、仲間たちのために血路を開く。

 俺は槍を構え、勢いに任せて敵を突きまくった。

 俺は身体が大きくないし、力も弱い。だから、勝家のように一人でたくさんの敵を倒すことはできない。一対一の勝負だったら、きっとすぐに負ける。

 だけど、俺の剣幕に感化されるように、皆がが一丸となり、がむしゃらに突き進んでいく。その迫力に、敵が驚き怯んで、じりじりと後退していく。

 一益が俺にぴたりとくっついて、四方に気を配っているのが分かる。俺の死角にいる敵を、冷静に排除していく。

 

 真夏の太陽がじりじりと俺たちを照り付ける。

 合戦は朝から始まり、昼頃まで続いた。

 俺たちは優勢だった。

 三か所で死んだ敵は100人。

 敵は、昨日占領したばかりの、松葉砦と深田砦を捨てて、逃げていく。


 やった! 俺たちの勝ちだ!!


 ――俺、戦で勝ったの初めてかも……!


 これは、俺の実力じゃない。

 信光叔父さんと、勝家のおかげだ!



「撤退だ!」

 坂井大膳が叫んだ。

「清州へ!」

 生き残った者たちが、どっと清州に向かって走って行く。


「よし! 清州まで追い詰めるぞ! ひとりも打ち漏らすな!」

 俺は叫んだ。

「応!」

 声が答える。

 俺は信光叔父さんと柴田勝家を見た。二人とも俺を見て頷いた。


 清州には、尾張の最高権力者である守護・斯波義統さまがいる。

 清州まで追い詰めれば、斯波義統さまの軍と挟み撃ちにできる。

 さすがの坂井大膳も、清州の軍と俺たちに挟まれたら勝ち目はないだろう。


 ――清州が、裏切り者全員の墓場になる。


「清州で、一網打尽にするぞ!」

「応!」

 俺たちはひたすら裏切り者の後を追った。




 清州の町が見えてきた。


 清州は守護がいる尾張の首都。街の周りは、ちょっとやそっとでは突き崩せないほどの、頑丈な壁で取り囲まれている。

 街の周りは刈り取りを待つ田が広がっていて、清州の豊かさを物語っている。


 坂井大膳は清州の町を取り囲む壁の、開いた門に向かって馬をすすめている。

「清州の門はもう少しだ! がんばれ! 走れ! 急げ!」

 部下を応援する声が聞こえる。


 ――させるかっ! 


 俺は息を吸い込んだ。

 大声で清須の門番に向かって叫ぶ。

「裏切り者・坂井大膳だ!! 門を閉じろ! 清州の町に入れるな!

 清須の兵を集めろ! 挟み撃ちにするぞ!」


 ところが門は閉じない。それどころか、先ほどよりより大きく開いたような――。


 聞こえなかったのだろうか。

 俺はもう一度同じことを叫んだ。

「門を閉じろ! 裏切り者を、清州の町に入れるな!!」


 何かがおかしい。


 俺は祈るような気持で叫んだ。

「門を閉じろ! 裏切り者を、清州の町に入れるな!!」


 だが俺の声はむなしく響くだけだ。

 坂井大膳の軍は、次々と清州を取り囲む壁の内側に吸い込まれていく。


「くそっ! どういうことだ!?」


 敵の最後の一人を塀の内側に飲み込んで、清州の門はぴたりと閉じた。


「――こ……これは……」

 柴田勝家が声を震わせた。


 俺の背筋に冷たいものが流れる。


 ――坂井大膳が、清州の守護・斯波義統さまを裏切ったんじゃない。

 坂井大膳率いる清州が丸ごと、守護・斯波義統さまを裏切ったんだ――



 俺たちは、清州の実権を握っているのは守護・斯波義統さまだと思っていた。

 坂井大膳たちは斯波義統さまを裏切ろうとしてはいるものの、それは清州の中では少数派だと思っていた。


 だが、門番たちの対応は、()()()()を握っているのが既に斯波義統さまではなく、()()()()であることを物語っている。

 ()()()()()であるはずの()()()()さまは、清州の中で既に()()()にまで追いやられ、さらに()()している!


 ――なんてことだ!!



 塀の上の物見やぐらに坂井大膳が、悠々と現れた。

「織口信光と――信秀の息子か。残念だったな」

 口元に勝者の笑みを浮かべている。


「見ての通りだ。清州の軍は俺が掌握している。

 今からここで一戦交えるつもりなら、こちらも受けて立つが――」


 ちらりと後ろを振り返る。


「守護・斯波義統はこの奥にいる。

 斯波義統の命が惜しければ、軍を収めるがいい」


「くそっ!」


 俺は毒づいた。


「どういうことだ!? 主君を裏切ってどうするつもりだ!!

 斯波義統さまがいなくなったら、困るのはお前も同じだろう!」


 坂井大膳は確かに権力者だ。

 だがそれは、守護・斯波義統さまの家臣だから権力を持っているだけだ。


 俺たち武士は、主君の血統を重んじる。

 坂井大膳個人が独立しても、今までのように皆が従うとは思えなかった。


「俺は困らない」


「――お前ごときに、斯波義統さまの代わりが務まると思うなよ。

 俺たち織口家一門は、お前になんかには従わない!」


「――勘違いしてもらっちゃ困るんだよ」

 坂井大膳はさげずむような笑みを浮かべた。


「俺の後ろには、もっともっと、ずっと大きな後ろ盾がいるんだ」


 ――なん……だと……?


 坂井大膳は楽しそうに目を細めた。

「知りたいか? 教えてやろうか――

 俺の後ろにいるのは、()()()()()だ」


「なっ――!」

 俺は絶句した。


 はるか東の大国、駿河。

 しかし、その勢力はこの近くにまで及んでいる。俺たちは鳴海砦を奪われたばかり。

 治めるのは駿河の守護・今川義元。

 今、もっとも勢いのある武将のひとりだ。

 義元の義の字も、斯波義統さまの義の字と同じく、将軍家から賜った文字だと聞く。


 血統という意味では、申し分ない。


「若造。今日は帰れ。

 頭を冷やしてゆっくり考えろ。

 没落しかけた尾張の守護・斯波義統につくのがいいか、

 破竹の勢いで勢力を伸ばしている駿河の守護・今川義元様につくのがいいか。


 ――もっとも、考えるまでもなく答えは出ているがな」


 坂井大膳は俺が唖然としているのを見て、さも気分良さそうに唇をゆがめた。


「さっきはよくもやってくれたな。

 俺の屈強な部下たちを次々と殺しやがって――。


 こちらも、すっかり油断していた。

 深田砦も松葉砦も、昨日占領したばかりだったのに、今朝攻められるとは思わなかった。

 その素早さは見事だったと言ってやろう。


 それから、お前のその威勢の良さ。

 無礼極まりないが、若いやつはそれでいい。

 俺は嫌いじゃない。

 跪いて許しを請えば、今日のことはなかったことにしてやる。

 

 織口和颯、と言ったな。

 俺たちの仲間になれ」


「何だとぉっ!! 誰が裏切り者の仲間になるかっ!!」


 俺がいきり立つのを、目を細めて見下ろすと、坂井大膳は出てきたときと同じように、悠々と物見やぐらを降り、塀の奥へと戻って行った。


「くっそぉぉぉぉぉぉぉっ!」



 俺たちは悔し紛れに、清州の城壁の外に広がる田んぼから、刈り取り間際の米を全部刈り取って持ち帰ってやった。持ち帰った米は、今日参加した全員で分けた。



※尾張の首都・清州が今川方の手に落ちる

挿絵(By みてみん)

濃い緑・織口家

赤・今川家

(黄緑・尾張)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ