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俺の妻は忍(しのび)ですか? ――でもって、もしや、次に殺される男は俺ですか?? ええ〜っ! 俺、まだまだ生存希望ですけどっ!?  作者: ひの


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13、松葉砦と深田砦 ・ 坂井大膳

 八月。暑い日だった。

 信勝が、柴田勝家を連れて俺の屋敷へやってきた。


「兄上」

 顔が強張っている。


「先ほど、松葉砦と深田砦の屋敷から連絡が来ました。

 坂井大膳が挙兵し、松葉砦と深田砦を占領。人質を取って立てこもっているとのこと」


 松葉砦には俺たちの甥が、深田砦にはおじさんがいる。見殺しにするわけにはいかない。


「何だって! すぐに出陣だ!」


 俺が踵を返し、鎧を取りに行こうとすると、信勝が俺の腕をがしっと掴んだ。


「待って兄さん! 話はそれだけじゃないんだ!

 もっと大事な話がある。

 できれば――中で話したい」


 


 俺たちが座敷に上がると、火鳥が冷たい水を持ってきた。

 信勝は眩しそうに火鳥を見て礼を言うと、旨そうに水を飲んだ。

 火鳥は座敷の隅で正座している。


 水の入っていた湯呑を床に置き、信勝は、懐から大切そうに書状を取り出した。

「実は……守護殿から、密書が届いていたのです」


 ――守護殿から直接書状が届くなんて……


 俺は驚いた。

 

 さすがは父上の跡取りだ。



 ※※※※


 俺たちは、尾張の武士だ。

 そして、尾張の武士の頂点に立つお方が、守護・斯波(しば)義統(よしむね)殿だ。

 俺にとっては父上の、主君の、そのまた主君。

 雲の上の存在だ。


 だが、父上は守護殿の信頼が厚く、守護殿の名のもとに兵士を集め、尾張のために隣国(美濃・斎藤道三 駿河・今川義元)と戦ってきた。本当にすごい。


(ちなみに斯波義統殿の「義」の文字は、京の都におわします武士の最高指導者・将軍足利家より使用を許された、むちゃくちゃ格式の高い文字だ。

 これだけでも、尾張の守護がどれだけ高貴な身分かが窺い知れる。

 俺なんか、多分、一生、お目にかかることもできないほどのお方だ)


  

   ※※


 守護・斯波(しば)義統(よしむね)殿は、清州に住んでいる。

 清州は尾張のほぼ中央。

 『清州』は尾張の『首都』というわけだ。


 ちなみに清州から俺の屋敷までは7km。歩いて2時間の距離にある。


 織口家本家は、清州から見ると、俺の屋敷よりさらに熱田寄りになるからちょっと遠い。

 それでも清州から10km。歩いて2時間30分だ。



  ※※


 今日攻撃を受けた松葉砦と深田砦も、尾張のほぼ中央に位置している。

 清州から、6km。

 俺のいる那古野から8km。

 ちなみに松葉砦と深田砦は近い。歩いて2分。





 ※※※※



 信勝は父上の跡取りだから、守護殿から直接書状が届いた、という事なのだろうが――。

 そんな大切な書状を、俺なんかが見てもいいのだろうか。

 

 俺は、震える手で、守護殿の書状を受け取った。


『織田信勝殿


 まずは御父上・織田信秀殿のお悔やみを申し上げる。


 跡取りである信勝殿もご存じの通り、信秀殿は朕の忠実な家臣であり、たいへん立派な人物であった。


 父上の葬儀も終わったばかりで涙もまだ乾ききっていないところ、若き後継者・信勝殿にこのようなことを頼むのは心苦しいのだが――どうか、朕を助けてくれないか?

 


 どうやら、朕の家臣の中に、反乱を企てている者がいるようなのだ。



 首謀者はおそらく、坂井大膳。だが、清州にいる大勢の家臣達の中で、誰が朕に忠誠を誓っていて、誰が大膳の味方をしようとしているのかが分からない。

 疑心暗鬼の中、朕は動けずにいる。


 今はまだ、嵐の前の静けさを保っているが、いずれ、何かが起こるに違いない。

 その時は織口信勝殿。朕を支え、逆臣どもを蹴散らしてくれないか。



 そなたを、武勇に優れた織口信秀殿の跡取りと見込み、折り入って頼みたい。

 どうか、朕の味方となり、尾張を守ってほしい。


                   尾張守護・斯波義統 』






 書状を読んで、俺は唸った。

 

 なんてことだ!

 この平和な尾張で、こんなにドロドロした勢力争いが繰り広げられていたなんて!



「とにかく、松葉砦と深田砦を助けなければなりません」

 柴田勝家が言った。


 信勝が俺を見た。

「兄さん、勝家と一緒に出陣してくれる?」


 もちろんだ。


「明日の早朝、でどうだろう」

 俺が言った。

 待つのは、苦手だ。

 

「え? あした? いきなり?」

 信勝は驚いたようだった。

 勝家もちょっとぎょっとしたような顔をしている。


「――でも、兄さんがそう言うなら……。

 分かった」

 信勝は、俺の顔を見て、素直に頷いた。


 信勝が続ける。

「父さんは亡くなる前に、『困ったことがあれば信光を頼れ』と言っていた。

 自分が死んだ後は、信光叔父さんを、俺たちの父親だと思えと」


 信光叔父さんは、父の弟だ。

 歳は36才。那古野の北西5㎞の、守山という場所に住んでいる。

 (ちなみに俺は18才。信勝は16才だ)


 信勝が言った。

「オレは今から信光叔父さんの所へ行く。

 明日、信光叔父さんも出陣してもらえるよう、お願いしてくる」


「分かった。頼んだぞ」

「じゃあ、明日の早朝に」

「よし、明日の早朝に」

「うん。夜明けとともに」


 俺たちは腕をぶつけあう挨拶をして別れた。

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