12、鳴海
~陰の巻~
密書を持たせた使者が帰ってきた。
伝言はなかった。かわりに、書状を携えてきた。
使者が言うには、父は眉をひそめて火鳥からの手紙を読むと、無言のままその場で墨を磨り、荒々しく書状を書き始めたという。
書状は、織口和颯あてだった。
~陽の巻~ 書状
織口和颯殿
我が愛する娘・火鳥が尾張に嫁いで3年が過ぎた。
残念ながら子宝に恵まれず、火鳥の父として申し訳なさでいっぱいである。
ふたりの間に子が生まれなかったのは、ひとえに妻である火鳥の責任であり、ひいては火鳥の父である、儂の責任である。
今にして思えば、火鳥の体つきは貧弱で、子供を生むには適さない。
美濃には家柄がよく美しく、健やかな子供を生めそうな娘がたくさんいる。そのうちの一人、あるいは側室を含めて数人を、貴殿の下に嫁入りさせるので、速やかに火鳥を里帰りさせてほしい。
斎藤道三
※※※※
いつか、このような書状が来ると分かっていた。
その時は諦めようと思っていた。
だけど……。
嫌だ―――!
俺は意を決して、筆をとった。
※※※※
斎藤道三殿
義父である道三殿に、孫の誕生を知らせることができず、火鳥姫の夫として大変心苦しく思っています。
ですが、火鳥姫は正室として精一杯の働きしてくれており、那古野村の皆にも慕われています。子宝に恵まれなかったからと言って簡単に離縁しては、織口和颯は薄情であると世間に後ろ指をさされてしまうでしょう。
この先一生子宝に恵まれなかったとしても、火鳥姫を大切にし続けることをお約束します。このまま火鳥姫を、この地に留めることをお許しください。
側室を迎えるつもりもありません。よって新しい娘の輿入れは不要です。
織口和颯




