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異世界侵略  作者: ShiRi


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巨蟻の迷宮と六人の絆(ファースト・ダイブ)

「学年テストお疲れ様。今回下位のクラスではかなりの昇格・降格があったみたいだ。昇格したものはこの調子で頑張れ、降格したものはもっと精進しろ。」


教室内には、張り詰めていた糸が切れたような安堵の溜息が漏れる。


隣の席では、フェイが、自分の机の上で「ふぅ……」と大きな息を吐き出していた。


「ティアくん、ようやく勉強の日々が終わったね!」


「そうだね。今日はいっぱい眠りたいよ。」


学問も魔法も、僕にとってはすべてが「復讐の道具」としての価値しかなかったが、こうして「学生」としての平穏な瞬間を突きつけられると、妙な違和感を覚える。


だが、教師が次に発した言葉が、そのわずかな平穏を切り裂いた。


「だが、浮かれるのはここまでだ。本番はこれからだと言ってもいい。3ヶ月後、『夏の新入生魔法大会』が開催される。」


教師が指先を弾くと、黒板に魔法の文字が浮かび上がる。

大会の詳細について書いてあるみたいだ。


「これは単なる腕試しではない。成績優秀なパーティーには上位クラスへの昇格、さらには騎士団や学会から注目され、支援を受けることもできる。逆に、無様な姿を見せれば、この学園に居場所はないと思え。」


教室の空気が、ピリリと凍りつく。


「明日からは特別編成期間に入る。講義は午前のみだ。午後は各自、パーティーごとにダンジョンへ潜り、実戦経験を積め。実力主義のこの学園において、ダンジョンこそが最高の教室だ。死なない程度に、精々連携を深めておくんだな。」


教師が教室を去ると同時に、静まり返っていた教室が爆発したような騒がしさに包まれた。


「ついにダンジョンかよ! 腕が鳴るぜ!」

「午後は全部特訓か。厳しいけど、燃えるな……」


そんな中、ティアは静かに立ち上がった。


「……行こう、フェイ。シエル」


「ええ。準備はできているわ」


いつの間にか背後に立っていたシエルが、冷徹な、しかしどこか好戦的な瞳で窓の外を見ていた。


午前の講義後。

ティア、シエル、フェイの三人は、同じくFランクダンジョンへ向かうガルスたちと、転移門前で合流した。


「よお、お前たち早かったな。」

ガルスが豪快に笑い、大きな盾を背負い直す。


「Fランクとはいえ、ダンジョンは遊び場じゃねえ。今から行くダンジョンでは女王蟻が出る下層まで行くつもりだから、油断するなよ。」


「ああ、分かっている。油断するつもりなんてさらさらない。全力で臨む。」

ティアが短く答えると、ガルスは少しだけ表情を和らげ、ティアの肩を力強く叩いた。


ダンジョンはクラスと同じくFからSまでの階級で厳格に区別されている。

今日僕らが挑むのは、巨大な蟻塚のようなFランクダンジョン『巨蟻の迷宮』だ。


転移門をくぐると、湿った土の匂いと薄暗い空気が一行を包んだ。


「ここは安全地帯だ。あそこより先は蟻共がいる。では、役割を確認しよう。」


「私は中衛兼後衛よ」

シエルが氷の杖を構える。

「氷魔法で敵の動きを封じ、場をコントロールする。範囲攻撃してほしかったら合図して。ただし、正面からの殴り合いは専門外だから、そこは頼むわね。」


「私は空中からの索敵と支援を担当するよ!」

フェイがティアの肩のあたりで羽を震わせる。

「索敵といっても、このダンジョンじゃあまり役立ちそうにないね。」


「俺は中衛で、みんなへの指示。そして雷魔法で後衛に敵が近づかないようにする。」

ゼノは雷を纏い、戦いに備え始めた。


「ミアは狂歌魔法で、敵を狂わせて同士討ちさせる。......後みんなの強化も。後衛だね。」

あまり自信がないのか、うつ向いているみたいだ。


「分かった。俺は前衛アタッカー兼盾でみんなを守る。」

ガルスは重そうな盾を構えた。


「僕は、前衛アタッカーとして最大火力を叩き込む。ガルスの隣で敵を削り、突破口を開くよ。」


「よし、大丈夫だな!行こうかお前たち。」

ガルスが豪快に笑い、重厚な盾の縁を地面に叩きつけて音を鳴らす。


「役割は決まったわね。このダンジョンは上層・中層・下層に分かれているけれど、転移地点は『中層』に設定されているわ。まずは簡単な上層へ向かって、このパーティーでの連携を体に覚え込ませましょう。」

シエルは案内板を見ながら、上層に行こうと提案した。


中層から上層へ向かう道中、さっそく迷宮のモンスターたちが姿を現した。


「来るよ! 正面の曲がり角、それと右の壁の穴からも!」

フェイの鋭い叫びと同時に、巨大な兵隊蟻が次々と這い出してくる。


「ガルス!まずはお前が相手してくれ。」

ゼノの指示でガルスが動き出す。


「おうよ! まだ俺の得意魔法を教えてなかったな。獣魔法、挑発の咆哮!」

ガルスが盾を打ち鳴らすと、蟻たちの殺気が一斉に彼へと向いた。

殺到する大顎をガルスが受け止める。


「援護する。氷魔法、氷結の鎖。あなたたちはもう逃げられないわ。」

シエルが杖を振ると、地面から伸びた氷の鎖が、ガルスに群がる蟻たちの動きを封じ込める。


最後方でミアが震える声で歌い出す。

「狂歌魔法、狂乱の円舞曲。」

不協和音を伴うその旋律が響いた瞬間、鎖に繋がれた蟻たちの一部が正気を失い、隣の個体に噛みつき始めた。


「よし、ティア!敵の塊に魔法を放て!」


ゼノの指示で、僕は魔法を唱えた。

「すべてを焼き尽くす。炎魔法、紅炎の噴火!」

轟々と燃え盛る炎が、蟻たちの密集地帯で炸裂する。

炎は凍りついた敵を包み込み、迷宮の通路を赤く染め上げた。


「……ふぅ、今のところは順調だな。」

ティアが右腕の熱を逃がしながら言うと、ゼノがニヤリと笑った。


「悪くない連携だったぜ。これなら明日、最下層の『女王蟻』を拝むのも夢じゃなさそうだな。」


初日の特訓は、上層での手応えを掴んで終了した。


翌日。

僕たちは、迷宮の最深部向かうべく、下層へと足を踏み入れた。

だが、昨日のようにはいかず、苦戦を強いられることになる。

「みんな、気をつけて! 何か、昨日とは違うのが来る!」

フェイの声に緊張が走る。


闇の中から現れたのは、通常の兵隊蟻を遥かに凌ぐ巨体。

全身を鈍く光る黒銀の甲殻で覆った、特殊個体『鉄鋼蟻アイアン・アント』の群れだった。


ガルスの咆哮が響き、鉄鋼蟻がガルスに群がる。

「……っ、こいつらの攻撃、俺の盾を削ってやがる!」

鉄鋼蟻の突進は重く、一撃ごとに盾が火花を散らす。

シエルの氷魔法も、その重厚な体を拘束できず、ゼノの雷も決定打にならない。


「ミア、もっとだ! もっと歌え!」

「う、うう……やってる、やってるけど……っ!」

恐怖でミアの声がかすれ、魔法の効力が安定しない。

ティアの攻撃が唯一の決定打だったが、連発できず、連携が乱れ、疲労だけが蓄積していく。

結局、初日は最下層の入り口を拝むことすらできず、撤退を余儀なくされた。


「……明日だ。明日は必ず、最深部へ行こう。」

ティアの言葉に、全員が重く、だが確かな決意で頷いた。

しかし、思ったよりも疲労が蓄積されていたため、翌日は講義だけ受け、翌々日に再度ダンジョンに挑んだ。


最初の反省を生かし、ティアの紅炎の一槍にみんなの最大火力を載せ、合体魔法を放った。

その後も同様に戦い、死力を尽くして道を切り拓いた。


最下層の広間。

そこには、巨大な岩塊のような『女王蟻クイーン・アント』が、重厚な守護蟻ガード・アントたちを従えて鎮座していた。


「……守護蟻は僕がやる! みんな、女王を抑えてくれ!」

ティアが叫び、最前線へ飛び出す。


「分かった、ここは俺たちが食い止める! 行け、ティア!」

ガルスが盾を構え、女王蟻の猛攻を正面から受け止める。


「シエル!氷の壁でガルスを援護しろ!俺はティアが苦戦してそうだからそっちを援護する。」

ゼノの指示で、シエルは氷の壁を次々と作り出し、ガルスの盾が壊れないように時間稼ぎをする。


ゼノの援護があり、ティアは重厚な盾のような前足に、炎を叩き込む。

一撃では倒せない。

二撃、三撃と装甲を破壊し、最後に頭や胸を狙って、確実に守護蟻を排除して回った。


ミアもゼノから敵を混乱させるように指示を受け、やっているはいるが、まったく効果を得られず、困惑していた。

「……負けない……! みんなを、守るんだから!」

ミアが喉を枯らさんばかりに、せめてと思い、守りの旋律を響かせ続ける。


一方フェイはというと。

「どうしよう。フェイ、何もできないから、ゼノから指示来ない。」

フェイは入り口で、パーティーの見ていることしかできずにいた。


「……これで、終わりだぁぁ!」

最大出力の紅炎の一槍が、最後の守護蟻を倒し、ついに守りの壁を崩壊させた。


「今だ! 全員で女王を叩くぞ!」

ティアが加わったことで、戦力バランスが劇的に変化した。


シエルは氷で女王の関節を凍らせて動きを多少封じ、ゼノは雷で目を中心に狙い、視覚を奪う。


「――おおぉぉぉぉ!」

好機を逃さず、ガルスが地を蹴った。

重厚な盾を構えたまま、弾丸のような速さで女王の首元へ飛び込む。

盾の縁に魔力を集中させ、渾身の力で振り抜いた一撃が、女王蟻の巨大な首を鮮やかに跳ね飛ばした。


地響きを立てて巨体が倒れ、静寂が広間を支配する。


「……やった……な」

ガルスが肩で息をしながら、落とした首を踏みしめた。

ボロボロになりながらも、彼らの顔には「自分たちの力で攻略した」という確かな自信が宿っていた。


「……終わった、んだよね?」


ミアがおずおずと声を出すと、ガルスが血のついた盾を誇らしげに掲げた。


「ああ。俺たちの勝ちだ!」


その咆哮のような叫びに、全員の緊張がようやく解ける。

一人では、この場所に辿り着くことすらできなかっただろう。

今回の攻略で、仲間の絆がより一層強まったと思う。


「でも、これで満足しちゃダメだよ。ティアくん、次のダンジョンも難しいと思うよ!」


フェイが明るく励ますように周囲を飛び回り、シエルも小さく口角を上げて頷いた。


「ええ。次は別のダンジョン。さらに過酷な場所へ向かうわ。鍛えるためにね!」

僕たちは、倒れた女王蟻から得た戦果を手に、再び転移門ゲートへと歩き出す。

アルトラを覆う絶望を打ち破るための特訓の成果、今、確かに芽吹き始めていた。

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