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異世界侵略  作者: ShiRi


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絆の証明(テスト・リザルト)

F4クラスの教室。

F1への移動が決まった僕とフェイの前に、あの時背を向けた四人が立っていた。


「……ティア、悪かった。」


態度が悪かったカイゼンが、バツが悪そうに頭を掻いた。


「俺たちは最初から諦めてた。だけど、あんたらの戦いを見て……少しだけ、魔法に向き合ってみようと思ったんだ。すぐには無理でも、まずはF1まで這い上がってやるからな。」


ルナも不機嫌そうに爪を見つめながら、「……せいぜい、上でもその生意気な顔を通しなさいよ」と、彼女なりのエールを送ってくれた。


「待ってるよ、みんな。」


僕は短く答え、フェイと共に上位クラスのエリアへと足を踏み入れた。


F1クラスの扉を開けると、そこには懐かしい顔があった。


「…………ティア。フェイ。……待ってた。」


ミアだ。猫獣人の彼女は、僕たちの姿を見るなり、小さく、だが嬉しそうに尻尾を揺らした。


「ミア! 会いたかったよぉ!」


フェイが駆け寄り、ミアに抱きつく。ミアも拒むことなく、その小さな体でフェイを受け止めていた。


「……うん。ここ、席空いてる。……座る?」


彼女が指差した先には、確かに僕たちの分の空席があった。

僕が近づくと、彼女は琥珀色の瞳で僕をじっと見つめ、小さく「……強くなった」と呟いた。

その言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じる。


僕たちが彼女のいるパーティの席へ合流し、ほどなくして講義が始まった。


内容は魔法理論の座学。

魔力の流動と術式の構造についての難解な講義は、僕にとって呪文のように聞こえ、気を抜くと意識が遠のきそうになる。


「……魔力の波長と相関関係を数式に当てはめると……」


「……うぅ。ティアくん、顔が真っ青だよぉ。……ここは風の流れをイメージすると分かりやすいんだよ? ほら、空気が揺れるのを想像してみて!」


隣でフェイが小声で優しくフォローしてくれる。

一方、ミアは無言でノートに音符のような独特な記号を書き込んでいた。

彼女にとっては、魔法も一種の旋律メロディなのだろう。


「ミア、それ……もしかして魔法の計算式なの?」


僕が覗き込むと、ミアは少しだけ頬を染めてノートを閉じた。


「……ん。魔法、リズム。数式、苦手。だから、歌にする。……そうすれば、忘れない」


「なるほど……。ミアらしいね。ねえ、良かったら僕にもその『歌』の覚え方、教えてくれないかな?」


ミアは驚いたように目を瞬かせたあと、小さく笑って「……いいよ」と頷いてくれた。


お昼休み。学食の喧騒の中、ガルスたちが盛大に僕たちを迎えてくれた。


「ガハハ! やったな二人とも! まさか一日でF1まで駆け上がるとは思わなかったぜ!」


ガルスが豪快に僕の背中を叩き、山盛りの肉料理を差し出してきた。


「本当、ティアのあの『紅炎』は反則級だよね。俺たちも負けてられないよ。なあ、ガルス? ……って、おいガルス、ティアにばかり肉をやるなよ! 俺の分が減るだろ!」


ゼノが角から雷を少しパチパチさせながら、不敵に笑う。


「うるせえ、成長期のドワーフにはたんぱく質が必要なんだ! ティア、お前は痩せすぎだ、食え食え、もっと食え!」


賑やかな彼らのやり取りに、張り詰めていた僕の心も自然と緩む。

ミアも無言ながら、自分のトレーから一番大きなソーセージを僕の皿へスッと乗せてくれた。


「……あ、ありがとう、ミア。」


僕がお礼を言うと、ミアは少し照れくさそうに猫耳をピクリと動かし、こくりと頷いた。


「ねえねえ、昇格のお祝いに、今度みんなで寮の裏庭でピクニックしようよ! フェイが特製のフルーツサンド作るから!」


フェイの明るい提案に、シエルが珍しく食い気味に反応する。


「……ピクニック。氷でキンキンに冷やした飲み物が必要だね。用意する。……ティアの炎で飲み物を温めさせないように、私が守る。」


「おっ、いいな! 俺は酒……はまだ早いから、最高のジュースを持参するぜ! ついでに戦略会議もやっちまおう」


皆に祝福されながら囲む食卓は、これまでに味わったことのない温かさがあった。

復讐のために凍りついていた僕の胸の奥が、この騒がしくも優しい時間によって、少しずつ確実に溶かされていく。


「……ありがとう。みんなに追いつくのに必死だっただけだよ。」


「謙遜するなって! これでパーティの平均ランクも上がった。夏の大会が楽しみだぜ!」


ゼノが不敵に笑い、ガルスと拳を力強く合わせる。

彼らが僕を「一人じゃない」と証明してくれているようだった。


午後の講義は、僕にとって最も重要な内容だった。

『対機械兵団特殊演習:基礎理論』。


教壇に立った講師が、黒板に巨大な魔導投影を映し出した。

そこに映し出されたのは、無機質な灰色の金属で覆われた、あの「鉄の悪魔」の姿だった。


「機械兵団。奴らは感情もなければ、痛みも感じない。奴らの動力源は、胸部中央の『コア』にある。魔法を反射する装甲をどう剥がし、どうコアを破壊するか。それが君たちの生存率に直結する。」


講師の低く重い声が、教室の空気を一気に引き締める。

投影された機械兵団の目が、不気味な赤い光を放った瞬間、僕の視界が歪んだ。


鼻腔をつく焦げた肉の匂い。耳の奥で鳴り止まない故郷の人たちの悲鳴。

(……あいつだ。あいつらが、僕の家を……。)


無意識に握りしめた拳から、バチバチと小さな火花が漏れ出す。

隣に座っていたフェイが、僕の震える手にそっと自分の手を重ねた。

彼女の体も、微かに震えている。


「落ち着いて、ティアくん……。ダメだよ。」


フェイの小さな囁きに、僕は我に返った。

見れば、周囲のF1クラスの生徒たちも顔を青くしている。

中には、あまりの恐怖に目を逸らす者さえいた。


「……怖がっている暇はないな。」


僕は深く息を吐き、講師が語る「効率的な破壊方法」のすべてを、一文字も漏らさぬよう脳裏に刻みつけた。

奴らの構造、装甲の厚さ、感知範囲。


それは僕にとって、魔法の知識などではなく、復讐を成し遂げるための「地図」そのものだった。


数週間後、学園で最初の学年テストが行われることになった。

座学が壊滅的で落第の危機にある僕は、リナに勉強部屋へ無理やり連行されていた。


「……いい? この魔法循環の式を理解しないと、実技の出力も頭打ちよ。ティア、あんたの紅炎は魔力のロスが多すぎるわ。ただでさえ魔力が少ないんだから。」


リナがペン先で黒板を叩き、厳しい口調で説明する。

その隣では、ガルスが分厚い参考書を広げ、ゼノが難しい顔で首を傾げていた。


「いや、ここんところは『魔導具の熱処理』の考え方を使えば、もっと効率よく魔力を練れるはずだぜ。ほら、こうやるんだ!」


ガルスがガシガシと計算式を書き足すと、リナが「なるほど……その視点はなかったわ」と感心したように頷く。

そんな中、シエルが氷で冷やした果物を皆に配り、フェイは僕の隣で一生懸命に自分のノートを開いていた。


「ティアくん、ここはね、こう覚えるといいよ。風精霊の呼吸に合わせて唱えるの……っ、……ああっ、また間違えちゃった!」


フェイがふんわりと宙に浮きながら、悔しそうに頭を抱える。

ミアは、シエルが配った果物を口にしながら、僕の隣で教科書を指差し、「……ここ、重要」と無口なりのヒントをくれる。


「そうよ、ミアの言う通り! さすがね。」


リナが我が意を得たりと声を弾ませ、僕のノートに鋭い赤字を入れる。


「ティア、あんたは直感に頼りすぎ。試験では『なぜその魔法が発動するか』というプロセスが問われるんだから、そこを叩き込みなさい。……ほら、ぼさっとしない!」


「あ、ああ……わかった。」


部屋に集まった面々を見渡し、僕はふと不思議な感覚に陥った。

そもそも、プライドの高いSクラスの首席であるリナが、なぜFクラスの僕たちのためにここまで親身になっているのか。


そのきっかけは、数日前の放課後だった。

僕がガルスたちと中庭で自主訓練をしていた時、通りかかったリナをガルスが強引に呼び止めたのだ。


「おい、そこの首席さん! ティアの魔法の練り方、なんか不自然じゃねえか? ドワーフの俺から見ても危なっかしくて見てられねえんだ。あんたなら、理論的に説明できんだろ!」


初めは「なぜ私がそんな……」と冷たくあしらおうとしたリナだったが、フェイが「リナちゃんも一緒にやろうよ! お願い!」と無邪気に袖を引くと、毒気を抜かれたようにため息をついた。


そこにゼノが「首席の知識、俺の戦略に組み込ませてくれよ」と不敵に笑い、ミアが「……聞きたい」と静かに見つめる。


リナは、家柄や成績で自分を判断するSクラスの生徒たちとは違う、純粋に「強くなりたい」と願う僕たちの熱量に、少しだけ心を動かされたようだった。

気づけば、彼女は僕の相棒としてだけでなく、この凸凹なパーティの「家庭教師」のような立ち位置になっていたのだ。


「いい? 勘違いしないで。私が教えているのは、ティアが足を引っ張って私のルームメイトとしての評価が下がるのが嫌なだけよ。」


その口調には、出会った頃のような刺々しさはない。

リナの熱血指導に圧倒されながらも、僕は必死にペンを走らせた。


それからのテスト当日までの数日間は、まさに嵐のような日々だった。


朝は早くから図書室の隅でリナに数式を叩き込まれ、お昼は学食でガルスやゼノと、魔法の効率的な運用についてパンを片手に議論した。

夜は自習室で、フェイやミア、シエルと共に、静まり返った学園の中で魔導灯の光だけを頼りに教科書をめくり続けた。


時には疲れ果てて机で寝落ちしてしまいそうになることもあったが、誰かが眠そうにすれば、シエルが容赦なく氷魔法で冷気を飛ばして目を覚まさせ、フェイが「あともう少しだよ!」と明るく励ましてくれた。


復讐のために一人で荒野を歩いていた時とは違う、心地よい疲労感。

仲間たちと知識を共有し、互いの苦手な部分を補い合う中で、僕の中にあった「力さえあればいい」という考えが、少しずつ形を変えていった。


そして迎えたテスト当日、僕はかつてないほどの自信を持って、試験会場の扉をくぐったんだ。


結果、僕のテストの点数はなんとか平均点を超えた。

だが、掲示板の前で一人、絶望に打ちひしがれている少女がいた。


「…………シエル?」

「……ティア……。悪魔は……暗記が苦手なの……。」


シエルがDクラスからFクラスへと降格した瞬間だった。

彼女は平然を装っていたが、いつもより少しだけ肩を落としている。


「次は僕が教えるよ。だから、一緒にまた上がろう。」

「……甘いかき氷、奢ってね。」


帰宅路。

夕焼けに染まる廊下で、僕はフェイと二人きりになった。


「ティアくん、テストお疲れ様。……あのね、少しだけ、私の話をしてもいいかな?」


フェイの声が、いつもより低く震えていた。


「実はね……フェイの故郷も、機械兵団に襲われたんだ。お父さんも、お母さんも……フェイを逃がすために……。」


フェイの告白は、静寂に包まれた校舎に溶けていった。

彼女の瞳に、大粒の涙が溜まる。


「お父さんも、お母さんも……私を逃がすために、鉄の塊に立ち向かって……。私だけが、生き残っちゃった」


僕は言葉を失った。フェイのいつも明るい笑顔の裏側に、僕と同じ、いや、僕以上に深い喪失感があったなんて。


「……フェイ」


「私、本当は怖くて仕方ないの。人体改造魔法なんて、聞くだけで身がすくむよ。でもね、何もしないで隠れてるのはもっと嫌なの。あいつらを許すなんて、絶対にできないから……」


彼女は震える小さな肩を抱きしめた。僕は、彼女の涙をそっとぬぐってあげた。


「フェイ、僕も同じだ。復讐なんて綺麗事じゃないし、きっと心も体もボロボロになる。……でも、一人じゃないなら、少しはマシかもしれない。」


「……ティアくん。」


フェイが顔を上げ、潤んだ瞳で僕を見つめる。

その瞳に映る僕の顔は、故郷を失ったあの日の少年ではなく、未来を見据える者の顔だった。


「僕たちは、機械兵団にすべてを奪われた。だからこそ、僕たちが奪い返すんだ。僕たちの未来を。」


「うん……そうだね。私たち、もう逃げない」


フェイが少しだけ、本当に少しだけ微笑んだ。

沈む夕日が僕たちの影を長く引き伸ばす。

復讐という暗い目的を共有しているはずなのに、今はなぜか、心が不思議と穏やかだった。


「ねえティアくん、人体改造魔法、受けたらどうなっちゃうのかな。私、今のままのティアくんが好きだけど……」


「僕は、フェイが変わっても変わらなくても、ずっと味方だよ」


「……えへへ。今の、ちょっとかっこいいね。……じゃあ、寮に着くまで競争! 負けた方が明日の朝の飲み物奢りね!」


フェイは涙を拭い去ると、いたずらっぽく笑って廊下を駆け出した。


「おい、待てよ!」


僕は彼女の後を追って走り出す。

笑い声が静かな校舎に反響する。

それは、復讐を誓った二人にはあまりに眩しい、ありふれた日常の光景だった。


寮の部屋に戻ると、リナが机にテストの結果表をこれ見よがしに広げてふんぞり返っていた。


「見て!? 全科目満点、理論も実技も完璧よ! ティアもとりあえず平均は越えたみたいね。さすがは私。あんたに教えてあげた時間が無駄にならなくて良かったわ!」


「ああ、本当にすごいな。おめでとう。リナのおかげで僕も助かったよ。」


僕が心の底から感服して称賛すると、リナは勝ち誇ったような笑みを浮かべたが、それも一瞬のことだった。

彼女は途端に顔を曇らせ、力なく椅子に沈み込んだ。


「……でもね。これだけやっても、Sクラスはみんなバケモノなの。誰一人として順位を落とさない。私の定位置も変わらない。……私、このままじゃ、あいつの背中に一生追いつけないかもしれない……。」


「首席だからSクラスの一番上じゃないの?」


「入学試験では、結局全体的に見て首席なだけであって、戦闘能力はSクラスでは中の中。戦闘能力を上げないと、Sクラスの首席になれない。今は二つ下がってて3位なの。」


リナの瞳には、元首席という華やかな称号とは裏腹な、深い焦燥が宿っていた。

彼女が言っている『あいつ』。

それが誰なのかは分からないが、その存在が彼女を追い詰め、男装してまで力を求めさせる理由なのだろうか。


「リナ。僕は魔法のことはまだよく分からないけど、これだけは言える。リナは僕に教える時、自分の知識を完璧に理解して、僕みたいな無知な人間にも分かるように噛み砕いてくれた。それはただの『点数』以上の実力だと思う。」


「……ティア。」


リナは顔を少し赤らめ、そっぽを向いた。


「な、何よ。弟子の分際で生意気なこと言わないで! ……ふん、慰めなんていらないわよ。あんたは自分の心配だけしてなさい。」


彼女は小さく呟くと、照れ隠しにパサリと参考書で顔を隠した。

窓の外では、夜の学園に静かに風が吹いていた。

明日からまた、地獄のような訓練が始まる。


次の日、掲示板に、大きく一枚のポスターが貼り出された。


『夏季新入生魔法大会・開催』


復讐を果たすための力。仲間と守るべき絆。

それらが複雑に絡み合いながら、僕の物語はさらに加速していく。

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