手紙
三題噺もどき―ななひゃくきゅうじゅうさん。
カチカチと忙しなく時計の針は進んでいく。
カタカタとキーボードを叩いてはやめ、叩いてはやめを繰り返している。
クルクルとマウスを動かしては、クリックをして画面を開いたり閉じたりしている。
「……」
光のない暗い部屋では、パソコン画面は目に痛いほどに光を放っている。
もう少し光度を下げてもいいのだろうけど、そうすると逆に見えづらくなるのだから扱いづらいところだ。
「……」
仕事でこうして、パソコンを使ってはいるが、別に専門知識があるわけではないのだ。仕事に必要最低限の知識しかないので、これがどうすれば丁度良くなるのかとか、そもそもそんなことができるのかも知らない。困っていないから、知ろうとも思わないのだが。
「……」
それに、役に立っているかは分からないが、ブルーライトカット加工のされた眼鏡はしているので……そこまで目に悪いような状態にもなっていないだろう。実感はないけれど。
私の性質上、暗闇でもよくよく見えるように、光は取り入れやすい。その量を調整することは出来るが、仕事をしているとその調整が狂うことがあるので―集中しているとどうしても―その補助として眼鏡をかけている。今のところこれで困ってはいない。
「……」
まぁ、そんな私の仕事事情はさておき。
―それにもう、今進めている仕事はもう終わりに近づいて来ている。
あとは最終確認をして、先方にデータを送るくらいだ。
「……ふぅ」
そう思い始めた瞬間、体の緊張はほどけ、前のめりになっていた体を、椅子の背中に預けた。
ギシ―と小さく悲鳴を上げる椅子をよそに、小さくマウスを動かしていく。
最終確認をしているのだが、思考は別のところへと飛んでいた。
「……」
今朝がた―と言っても、世間一般では夕方の方が正しいのだが―起きて、いつも通りにリビングに向かったところ、机の上に一通の封筒が置かれていた。
シンプルな白い封筒。封は―少し前にも見た、アレの紋章。
「……」
端の方が軽くはがれていたから、先に見つけた家の従者が中身を確認したのだろう。本人は読んでないと言って渡されたが。そんなわけがないんだよな……。
それが少しでもネガティブなモノであれば、こんなところに置いたりはしない。早々に捨てるだろう。……ここ数日、外に出ることをしなくなった原因は、アレのせいだから。接触がなくなった後でも、まだ少し躊躇っている。
「……」
それが突然、手紙をよこしてきたのだ。
いいような気分はしないが、ここにある以上見た方がいいのだろう。
どうせたいしたないようではない。意外と、誰もがもらうような普通の内容だったりするかもしれない。そんなに―怯えることはない。
「……」
そう言い聞かせながら、封筒を手に取り、蝋をはがした。
「……」
中身は。
まぁ、案外。
拍子抜けするような内容だった。
「……」
それと。
どうやら。
未だに、この辺りに潜んではいるらしい。
「……」
曰く―いつまで引きこもりをしているつもりなのかな。ほんの少しだけ話をしたいのだけれど、君の従者が目を光らせているからね。何、ちょっとしたプレゼントだよ、クリスマスももうすぐ来るしね。気が向いたらあの公園に来ておくれ―だと。
「……」
まぁ、信用はしていなかったが、いきなりあんな手紙をよこす意味も分からない。
しかし、その従者が良しとして机の上に置いていたのだから、会う事自体は許容している……のだろうか。判断基準がよく分からない。
「……」
その時は、どうせ一緒に来るつもりだろうから……その気になるかどうかは別として。
未だに外に出られていないのは、確かだし、そろそろ出た方がいいことも確かではある。別に出なくても問題はないのだけど……気分的に、引きこもりはよくない。
「……、」
「ご主人」
そうは言ってもなぁと、仕事から思考が完全に離れて、手が止まったあたりで、声がかかった。―部屋の戸には小柄な青年が、エプロン姿で立っている。裾の方に大き目の椿のイラストがプリントされているようだ。ホントにどこから見つけてくるのだろう。
「休憩にしましょう」
「ん……あぁ、」
もうそんな時間だったか。
まぁ、アレの事は、コイツと考えた方がいいな。
「……あの手紙、どう思う」
「どうと……言われましても」
「……あった方がいいと思うか」
「……読んでいないので分かりませんが、ご主人の好きにしてください」
「あとで見せてやろう」
「……いりません」
お題:椿・ネガティブ・紋章




