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笑いの神

掲載日:2025/11/05

夜が深まるほど、世界は静かになり、彼の声だけが残る。

モニターの光が頬を照らし、笑いが生まれるたび、どこかの誰かが救われる。

彼は神ではなかった。ただの人間。けれど、人間という生き物がどれほど面白く、愚かで、愛おしいかを知っているという点で、神々よりも上だった。

誰もが自分を隠そうとするこの時代に、彼だけはすべてを曝け出して笑った。

失敗も怒りも、裏切りも。

笑いは祈りに変わり、祈りは嘘を焼いた。

彼の舌鋒は鋭く、言葉は毒のように刺さるのに、なぜか心地よかった。

その毒の中には、かすかな誠実さがあったからだ。

画面の向こうには、見えない群衆がいた。

彼を神と呼ぶ者もいれば、悪魔と罵る者もいた。

だが彼はどちらでもなかった。

「神なんて暇つぶしだろ」と言って笑った。

その笑いが、誰かの現実を少しだけ軽くした。

炎上した夜もあった。

矢のようなコメントが飛び交い、週刊誌の見出しが彼の名前を切り刻んだ。

だが彼は逃げなかった。

沈黙する代わりに、配信ボタンを押した。

顔を赤らめ、酔ったように語り、時に逆ギレし、時に泣きそうな目で笑った。

誰もが批判した。

だが、その姿に本物の“人というモノ”を見た者は、離れられなかった。

「俺は笑わせてるつもりで、自分を慰めてんのかもしれねえな」

夜中の独白。

数秒間、コメント欄が止まった。

静寂のあと、「それでいいよ」と一行が流れた。

誰が書いたかもわからないその言葉は、彼の胸の奥で長く燃え続けた。

年月が経ち、人気は戻り、また落ち、また燃えた。

信じる者は増え、憎む者も増えた。

彼はもはや配信者ではなかった。

生き方そのものが“配信”になっていた。

見せることでしか、生きられない存在。

笑い続けることでしか、誠実でいられない男。

やがて彼は若者たちを集め、自分の祭りを作った。

幕張の熱気、ステージの光、叫び、笑い、涙。

それはまるで人間のすべてを肯定するような音だった。

過去の過ちも、愚かさも、全部笑いに変える力。

あのときの彼は、確かに神だった。

人を裁く神ではなく、人を赦す神。

モノガチガウ。

夜が明ける。

彼は一人、画面の前に座って煙草を吸う。

灰がこぼれ、机の上で小さく光る。

「まだ終わらねえよ」

独り言のように呟き、再び配信を始める。

チャットが流れる。

笑いが弾ける。

彼は口の端を上げて言う。

「生きてりゃ、それでいいだろ...諦めるわけないだろ。」

画面の光が、暗い部屋を照らした。

その光はどこまでも広がり、

冷める人々の夜を、じんわりと温めた。

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