ファニルside
グロ有り注意
「ここまでで良いだろ」
高貴な鎧を纏った騎士達が一人の女を放り投げる、公爵令嬢であり新たに王太子妃になるリーエルを陥れようとした悪女ファニルである。
「痛ぇーな!女性はもっと丁寧に扱えや!それでも騎士か!」
これから罰を受ける人間とは思えない暴言を吐くファニル、スラム街で育ったこの女はこちらが素なのだ。
「あのさぁ~平民が貴族に逆らった時点でその場で殺されてもおかしくないんだよ、慈悲まで貰ってその態度は救えないねぇ~」
「まぁ一思いに殺した方が幸せだろうけどな、餌として化物に捧げますって言ってるようなもんじゃん」
一切反省していないファニルに呆れかえる騎士達、手錠が解けた瞬間にリーエルを殺しに向かうだろうなと思う程の執念だ。
「なぁ?ちょっと分からせない?自分の立場って奴をさ?」
「だな。こんな山奥までこさせられたんだ、多少の手当てくらい欲しいもんだよ」
そう言って騎士4人はファニルの衣服を剥こうと手を伸ばす、騎士達の玩具にされる事も恐らくリーエルの思惑の中にも入っていたであろう。
しかしファニルは途端に何も言わなくなる。騎士達はついに諦めたと思ったが彼女の目には映っていたのだ····騎士達の後ろで獲物を見据えるこの峠の狩人の姿が。
「顔だけは良いんだよなぁ~持ち帰って奴隷に····グベェ」
「流石に奴隷商行けばもっと性格良いのいる····えっ?」
騎士の一人の首が無くなる····残された胴体からは血が噴水のように飛び出し辺りは血の雨模様となる。
「ラ····ラスティ!」
「何者だ!?俺達は王家直属の騎士だぞ!」
ラスティと呼ばれた騎士の苦悶に歪んだ首をムシャムシャと食べていたのは巨大な虎の化物であった。
生物学的な名前はフニールと呼ばれるセウルム峠だけに棲む個体だ、それ以外は一切謎に包まれている····まぁそれはそうだろう出会った者はみんな死んだろうから。
「ば····化物!」
「落ち着けよ、陣形を組むぞ!俺達は王家直属の騎士だ!」
「ペットの猫みたいに飼い慣らしてやんよ~」
3人は1ヵ所に固まり大盾を構え身を隠し魔法の詠唱を始めるが····
「ガウァ!」
「ギョエエ!」
貴族のみが買える最高の素材を使った鍛冶師が打った高級大盾はフニールの腕の一振りで一刀両断され中央のリーダー格が胴体ごと真っ二つにされる。
「ヒイイイ!やべェよ!逃げんぞ!」
「こっち来んなぁ!」
魔力を出鱈目に撃ちまくる騎士2人だがフニールは避けると言う動きは見せず僅かに微動しただけで全てかわす、素人目に見れば動いていないのに魔法が一切当たっていないと言うチート具合だ。
そして魔力が切れた二人を絶命させ、次のターゲットにファニルを捉えた。
騎士達の命を奪った爪をファニルに下ろすが彼女は手錠でガードし鎖を粉々にした。
自由になり死んだ騎士の得物である槍を手にしたファニルは次々と繰り出されるフニールの波状攻撃を全て受け止め僅かな隙を突き手刀を腹部に見舞う。
フニールは痛みに悶絶しダウンする。
「ギャウン!」
「手錠解いてくれてありがとね~んじゃ死ねよ畜生が」
勝負は決しファニルがトドメを刺そうとしたその時····
「待ってください!」
「あぁ?」
林の中から飛び出しフニールを庇ったのは白色の髪をした美少年であった、小柄で華奢だがしっかりと筋肉の付いた身体である。
「お仲間を殺してしまった事はすみません!この子は僕の大事な家族なんです!償いとして僕の命を····」
「いらんいらんいらん、コイツら敵だし殺してくれて丁度良かったよ」
「そうなんですか?なら良かったです!」
ニッコリと天使のような笑顔を向ける少年、どす黒い貴族社会で戦っていたファニルは心が洗われるようだった。
「つーか?何でアンタこんな山ん中いんの?人間の家族は?」
「家族には捨てられました····お前は出来損ないだからって····」
こんな天使を捨てるとは何て酷い親だとファニルは自分の所業を棚に上げ怒りに震えるのであった。
「だからこの子達が今の僕の大事な家族なんです···」
「ほほー、まぁ立ち話も何だしアンタの家行かない?」
「あっ!そうですね!こっちです!」
明らかに迎えられる側の態度では無いがファニルは少年の家に上がり込みお茶と山菜スープを一瞬で飲み干した。肉は無いのかと図々しくも要求したが山にいる家族達を食べる訳には行かないための隣国のテルバ共和国にある麓の村まで肉は買いに行ってるらしい。
「丁度肉は明日買いに行く予定で····」
「植物も生きてるだろ」
揚げ足取りをスルーした少年は名をジャラオックと名乗りファニルも自らの名前を名乗った。
肉も食べないと流石に力が出ないため明日ジャラオックに付き合い肉を買いに出る事にした。ファニルも流石に少年から家族を奪うほどの外道では無い。
腹が一杯になったらやる事は決まっている、ダスクァ王国に戻りクソ女リーエルを血祭りに上げて王族貴族共を皆殺しにするのだ。
「おはようございます!ファニルさん!」
流石に昨日の今日で疲れが抜けきってないファニルは布団に潜りたい衝動を抑え顔を洗い出かける支度を整えた。
村に向かう途中の山道はジャラオックの家族である野獣達がいたが彼と一緒にいたため敵意は一切見せ無い、死の山として恐れられたセウルム峠とは思えない光景だ。
そして村に着き山で取れた山菜や薪を売りに向かうが井戸端会議をしていた婦人達がヒソヒソとしかし聞こえるような絶妙な声で陰口を言う。
「またあのガキが降りてきたよ!」
「あの白い髪といい気味が悪い····子供達を家に寄せなきゃね!」
女子供はみんな家の中に入り武器を持った男達がこちらを警戒し睨んでいる。
ファニルは学園入学前は冒険者をしており野獣退治の為に地方の村に行った事がある、そこでも余所者に対する警戒心は相当の物であった。
「田舎なんてどこも同じかぁ····」
「こんにちは!これ換金してくれますか?」
「ちっ!」
舌打ちをした男は山菜を奪うようにジャラオックから引き剥がし薪はそこに置いとけと怒鳴り叩きつけるように金を置く。
明らかに価値に見合わないはした金だ、これじゃ腐りかけの肉を一週間分くらいしか買えない。
「おいオッサン····」
「やめて!ファニルさん、余計な事しないで!」
「文句あんなら来なくて良いんだよ?」
納得が行かずに肉屋に向かったが同じような対応をされ腐りかけの肉を買うジャラオックを見て「人の食うもんじゃねぇよ」と薄ら笑いする。
自分一人だけなら村ごと魔法で焼いていたであろうと思ったファニルであった。
その後、山に帰った二人は食事の準備に取り掛かる。久々のお肉だからとジャラオックも気合いを入れて調理を始める。
「う····美味い!腐りかけの肉でしょ!?コレ!」
ファニルは腐りかけの肉でここまでの美味い料理を作れるのかと感動する、ファラリスと行った王都の高級料理店の味より遥かに上だったのだ。
「大袈裟だよファニルさんは」
ジャラオックは謙遜をする。あの馬鹿な村の連中に見せびらかしてから食いたかったと悔しがるファニルは火魔法で風呂を沸かして入り、その日は眠りに就いた。
美味しい料理を食べて元気になったファニルは王都へ復讐に向かう気が無くなった訳では無いが暫くジャラオックと暮らしても良いかなと思い始める。
まず彼女は金も好きだがイケメンが大好きなのだ、ダスクァ王国はイケメンの貴族が少なかったためイケメンで王太子のファラリスをリーエルから奪い取ったのだ。
結果ファラリスを手放す事になったがソレを越える美少年がここにいる、リーエル達を殺すのは何時でも出来るため暫くジャラオックで目の保養をしようと考えた。
半月ほど過ぎファニルは木を切っていたら麓の村から轟音が聞こえた、ジャラオックはここで待っててと言い渡し麓の村へと大急ぎで向かった。無論ファニルもこっそり付いていく、村などどうでも良いが美しい少年に傷一つでも付けたくなかったのだ。
麓に降りたファニルは村が雇ったであろう冒険者二人が倒れているのを発見する。
「傾国の悪女ファニルは何処だぁ!生け捕りにすりゃ一生遊んで暮らせる額の金が手に入るんだよ!」
ファニルはテルバ共和国の情勢を知っていた為にすぐ分かった、プロゴドファミリー····共和国の裏社会を牛耳る残虐なギャング一味だ。ファニルに付いているキュウクィの精霊により既に生きている事は王国側に察知されている、だがセウルム峠を越える事が出来ないため裏社会とも成通しているキュウクィがプロゴドファミリーを差し向けたのだ。
ジャラオックへの仕打ちを鑑みてもこの村を助ける義理など無いファニルだったがジャラオック本人が村を襲うのを止めるように既に飛び出していた。
「もう止めてください!ここにそんな人は居ません!」
「嘘つくんじゃねぇよ!村の連中の証言でテメーが匿ってるってのは分かってんだよ!」
村人から売られた形だがファニルは特段ショックを受けた様子も無かった、もし同じ状況なら間違いなく同じ事をするからだ。
「ちっ····気持ち悪りぃ白髪だぜ」
「自分の顔を鏡で見てから言いなさいな」
ジャラオックの美しい髪を悪く言われファニルは賊達の前に姿を表す、少なく見積もっても100人の兵隊がいる。
「ファニルさん!来ちゃダメだ!」
「峠に入る手間が省けたぜ!魔力を封じろ!」
数人が村全体を囲み陣形を組む、腕に付けたブレスレットから光を出現させ結界を作り上げる。
「魔法が出せない····魔封じのリングと同じ原理か····」
「魔法が使えなきゃただの小娘よ!やっちまえ!野郎共!」
盾持ちの兵隊達の後方からボウガンが放たれるが一本だけ掴み残りを全て交わすファニル、ちゃんと狙えと声を荒らげるボスを横目に掴んだ一本をボウガン持ちの兵隊に目掛け投げ付ける。ボウガン兵の喉元に矢が当り苦しみながら倒れる、気を取られている隙に一気に盾持ちの前まで距離を詰め盾ごと兵隊を羽交締めにして骨を砕いた。
空いたスペースから陣形内に侵入したファニルは骨を砕いた兵隊の盾を奪い豪快に振り回し盾持ちとボウガン持ちを全員蹴散らす。
「ちっ!役立たず共が!近接部隊!行け!」
剣槍斧を持った兵隊達がファニルを殺そうと襲いかかるが斬撃は全て盾で防がれる、首の骨を折った兵隊の得物を奪い次々と兵隊達を斬り刻んで行く。
「う····嘘だろ····」
村は血の海に染まった、ギャング達の肉塊があちらこちらに散らばっている。
100人いたプロゴドファミリーは幹部数人とボスだけになっていた。
「雑魚共を蹴散らしたぐれーでイキがんなよ!?真打ちはこっから····ギョべェ!」
ボス達も肉片にしたファニル、村を囲っていた魔封じ部隊は山に逃げて行ったがジャラオックの家族達の食卓に運ばれる末路だろう。
「凄いです!ファニルさん!魔法を使わずに····」
「魔法よりこっちのが得意なのよん」
魔法を封じられたまま100人規模のマフィアを壊滅させたファニル、だが村人達にとっては恐怖の対象でしか無かった。
「結局お前らのせいでギャング共が攻めて来たんだろ!?」
「白髪に殺人鬼に····あぁおぞましい····」
村長と思わしき老人が前に立ち、毅然とした態度で口を開く。
「出ていけ!二度と村に立ち寄るな!化け物共!」
ジャラオックの目から涙がボロボロ流れる、何かがプツンと切れたファニルは持っていた刃で村長の喉を斬る。
「ぐべぇ!」
「な····何を!?」
「危険な山から物資を運んで来てくれた子供に散々お世話になっといてさぁ?恥ずかしくないの?」
恐怖のあまりに村人達は逃げ出すがファニルは誰一人逃すつもり等無い。
「許してぇ!謝るからぁ!」
白い髪と蔑んでいた婦人を滅多刺しにすると白目を剥きながら絶命した。
「俺は坊主に金くれてやったんだぜ?他の奴らとは違う!」
換金所の男の首を一太刀ではねる、苦痛に歪んだ表情で息絶えた。
「助けてください!最高級のお肉あげますから!」
腐りかけの肉を売っていた肉屋の店主は村人の死体の肉を口に詰められ窒息死した。
どれくらいの時が経っただろう村に立っていたのはファニルとジャラオックの二人だけであった、彼女達の周りにはかつて人間だった者達の肉塊が転がっていた。
「えっと····ゴメン····」
「良いんです····僕の為に怒ってくれたんですよね····嬉しかった」
泣きじゃくり目を真っ赤に腫らした天使の言葉にファニルは自分の行いは間違いでは無かったのだと安心する。
「冒険者さんは気の毒だけど····」
かつての同業者である冒険者二人の遺体を見て残念がるファニル。
「あっ大丈夫ですよ」
そう言ったジャラオックは二人の亡き骸の上に手をかざす、すると手は発光し二人の傷は癒え生き返ったのであった。
「あれ?俺ら生きてんのか?」
「傷も治ってる!」
生き返った二人は驚いていた、絶対に助からない傷だったのだか無理は無い。
「えっ?ジャラたん?」
「僕も魔法が使えるんですよ」
続く
テルバ共和国····ダスクァ王国の隣国だが国境のセウルム峠に恐くて入れないため存在を認知していない。そのため一般国民どころか貴族ですら知らない者もいる。
プロゴドファミリー····カタギに手ぇ出さないなんて事は無いよ。収入源はナ薬(ナーロッパの○薬)
キュウクィ王子はイケメンじゃないん?→雰囲気····はっ?普通なイケメンなんだが?平民ごときの価値観だと安っぽいイケメンのファラリスがモテるだけなんだが?




