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交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」  作者: ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
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第4楽章 Allegro – Presto

春の風が、音楽室のカーテンを揺らしていた。

窓の外では桜が舞っている。

まるで、今日という日を祝ってくれてるみたいだった。


「じゃあ、最後の楽章……始めるよ」

大河の声が、少しだけ震えていた。

でも、その瞳は、まっすぐ俺を見ていた。


俺は、チェロを抱えながら彼女を見つめ返す。

もう迷ってなんかいない。

この気持ちは、ずっと前から決まってた。

ただ、言うタイミングを探してただけだ。


「竜児くん、がんばってね〜!」

実乃梨が、フルートを抱えながらにこにこ笑う。

その笑顔は、まるで春の陽射しみたいに、部室を明るく照らしてくれる。


音楽が始まる。

テンポは速く、力強く。

でも、俺の心臓の鼓動のほうが、もっと速かった。


大河の指揮は、いつもより少しだけ優しくて、

俺のチェロは、彼女に届いてほしくて、

実乃梨のフルートは、まるで祝福の風みたいだった。


三人の音が、ひとつになる。

でも、俺の心は、彼女だけを見ていた。


音楽が高まる。

俺の気持ちも、もう抑えきれない。


そして——


「……好きだ」


演奏の途中だった。

でも、もう我慢できなかった。

音じゃ足りなかった。

言葉で、ちゃんと伝えたかった。


大河の指揮棒が止まる。

彼女が、俺を見つめる。


「……私も。ずっと、竜児くんのこと、好きだった」


その瞬間、世界が変わった。

音楽室が、桜が、風が、全部、俺たちのためにあるみたいだった。


実乃梨が、フルートを口元から外して、満面の笑みを浮かべる。

「やった〜! ついに告白成功〜! 青春って最高〜!」


俺は、チェロをそっと置いて、大河のそばに歩いていった。

彼女の手を、そっと握る。


「これからも、ずっと一緒にいたい」

「うん。ずっと、隣で音を重ねていきたい」


音楽が終わる。

でも、それは終わりじゃない。


それは、始まりだった。


恋のフィナーレは、恋の序章。

交響曲第5番は、俺たちの青春のテーマになった。


音楽室の扉が、静かに開く。

振り返る必要なんてない。


俺たちは、前へ進む。

恋とともに。

未来とともに。

そして、これからの物語へ。

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