第3楽章 Allegro. Attacca
放課後の音楽室。
静かな空気を、実乃梨の声が破った。
「ねえねえ、竜児くんって、大河ちゃんのこと好きなんでしょ?」
俺は、チェロの弓を止めて顔をしかめる。
「……は? 何言ってんだお前」
でも、耳が熱い。
自分でもわかるくらい、赤くなってる。
「ふふっ、図星ね」
大河が、指揮棒をくるくる回しながら笑う。
その笑みは、どこか挑発的で、まるで音楽のリズムに乗ってるみたいだった。
いたずら心と駆け引きの楽章。
音楽も、恋も、軽やかに、でも確かに心を揺さぶる。
「じゃあ、今日の練習は“恋のかけひき”モードでいきましょうか」
大河がそう言って、指揮棒を振り下ろす。
音楽が跳ねる。
リズムが転がる。
まるで、心の中でくすぐったい何かが踊り出すようだった。
俺のチェロが、低く、でもどこか楽しげに唸る。
実乃梨のフルートが、くすくす笑うように旋律をなぞる。
大河の指揮は、まるで恋の罠を仕掛けるように、軽やかで鋭い。
音楽室が、迷宮になる。
音が鏡みたいに、俺たちの気持ちを映し出す。
一人は笑い、一人は黙り込み、一人は目を逸らす。
それぞれが、それぞれの気持ちを隠しながら、音に乗せて探り合う。
「竜児くん、さっきのパッセージ、ちょっと甘すぎたわよ。まるで告白みたい」
「……お前がそう聞こえるように指揮してんだろ」
「ふふ、バレた?」
顔が熱くなる。
でも、もう逃げない。
俺は、チェロの弦を強く弾く。
その音は、まるで「好きだ」と叫んでいるようだった。
実乃梨が、にこにこしながら言う。
「ねえ、これってもう付き合ってるってことでいいのかな〜?」
「ち、違うっ!」
「違わないっ!」
俺と大河の声が重なる。
音楽もまた、重なり、跳ね、弾ける。
まるで、恋のいたずらが止まらないように。
でも、ふとした瞬間、音が止まる。
それは沈黙じゃない。問いかけだった。
「本当の気持ちは、どこにあるの?」
俺は、静かに息を吐く。
音楽が再び動き出す。
今度は、少しだけ深く、少しだけ真剣に。
笑いの裏に、確かな気持ちが隠れていた。
練習が終わる頃、音楽室には笑い声が満ちていた。
でも、その笑いの奥には、誰にも言えない想いがあった。
「……次は、最終楽章ね」
大河が静かに言う。
その声は、どこか照れくさそうで、でも嬉しそうだった。
俺は、チェロを抱え直す。
実乃梨は、フルートを磨きながら、そっと呟く。
「次は……きっと、ハッピーエンドだよね?」