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「犯人」

はじめに、この物語はフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません。ご理解いただいた上でお読みください。


アパートの入り口を睨みつけながら張り込みを続ける二人。静寂の中、清真がぽつりと話し始めた。


「ねえ、須見さん なんで俺たちこの事件にこんなに興味持ったんだろうね?」


真尋は、視線をアパートから外さずに答える。


「私は仕事よ 廃刊寸前の雑誌を立て直すため!それに、記者として、未解決事件の真実を暴くことには使命感みたいなものがあったわ」


「須見さんも未解決事件か 俺はさ、YouTubeで未解決事件の動画を見るのが好きでさ」


清真がそう言うと、真尋は興味深そうに顔を向ける。


「そうだったの? じゃあ、もしかして、清真もオカルトとか都市伝説に興味ある?」


「オカルトや都市伝説を信じてるわけではないんだけど動画は面白いよね 小学生の頃にやってた地域の触れ合いイベントで、紙芝居を読んでくれてた田中のおっちゃんがこの事件の話をしてくれたんだ すごく怖かったけど、なんか忘れられなくて」清真は続けてポツリと呟いた。「おっちゃん、確か犯人は自転車で逃げたって言ってたな」


その言葉に、真尋の体がピクリと反応した。彼女は、警察や被害者関係者にしか知り得ない「未公開情報」をいくつか把握していた。それは、彼女が雑誌の特集を組むにあたり足で稼ぎ、裏で繋がった情報筋から慎重に、そして苦労して手に入れたものだった。[犯人はピッキングで被害者宅に侵入している可能性が高い事][被害者の顔には白い布が被されていた事]そしてその中に逃走経路付近で[不審な自転車に乗った人物が目撃されていた]という事もあった。自転車に関しては警察内部でも確証が得られず公表されなかった情報だったのだ。清真の何気ない一言が、真尋の持つ未公開情報と繋がり、彼女の中でパズルのピースが急速に埋まっていく感覚があった。


「……清真。その田中のおっちゃんって普段何している人?」真尋は、冷静を装いながら尋ねた。


清真は、アパートから視線を外して真尋の顔を見た。「えっと、田中のおっちゃんは病院で先生やってると聞いたよ…背はそんなに高くないのに髪は少し長めで変わってたけどでも優しい人だったよ!」


その瞬間、真尋の脳裏に電光石火のように一つの情報が閃いた。「病院」「女性」「自転車」。一つ一つの情報が、欠けたピースがはまるように真尋の脳裏を貫いた。


犯人像の「女性」という目撃証言と、現場に残された「O型の血液」という決定的な情報、「顔に布を被せる死者に対しての弔い」


真尋の顔から血の気が引いた。ぞっとするような寒気が背筋を駆け上がる。信じたくない。だが、目の前の事実はあまりにも整合性が取れていた。


「清真、被害者の自宅に残されていた犯人の血液はO型だった…もし犯人がO型じゃなく…その血液をわざと残したものだったら?病院なら、輸血用の血液も手に入れられる。小柄で長髪だと、暗がりで女性に見間違えられる可能性もある」


清真は、真尋の発言、表情の変化から何か恐ろしいことに気づいたような顔をしていた。二人の間に重い沈黙が流れる。そして、その沈黙を打ち破るように午前2時半頃、アパートの入り口に一人の男の影が映し出された。その男は周囲を窺うようにあたりを見回し、ゆっくりとアパートの中へと入っていった。


「う、嘘だろ…!? あれ、田中のおっちゃん…!」清真の声が、恐怖と絶望に引きつり、掠れて漏れた。


清真と真尋の視線が、男の背中に吸い寄せられる。清真の語る田中のおっちゃんの具体的な情報、田中の小柄で長髪という特徴と犯人像の「女性」という証言、犯人しか知り得ない「自転車が逃走手段」という田中の発言。結びつく。                 全てが、一つに繋がっていく。

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