「2人の決意」
はじめに、この物語はフィクションであり実在の人物や団体などとは関係ありません。ご理解いただいた上でお読みください。
清真は、自分がタイムリープしたことを誰にも話せなかった。話しても信じてもらえるはずがない。それに彼がタイムリープで見た光景は、あまりにも恐ろしいものだった。あの悲劇を何とか止めなければならない。しかしどうすればいいのか、大学生の彼には皆目見当もつかない。事件の真相を調べるには情報が少なすぎる。そして、もし、あの事件が起こる前に戻れたら自分は何ができるだろうか。彼の脳裏には言いようのない不安が募っていた。
真尋もまた困惑と焦燥の中にいた。記者としての本能がこの異常事態の真相を突き止めろと囁く。しかし、一人ではどうすることもできない。あの時、アパートの階段で触れ合った少年、彼も同じ現象を体験したのだろうか。もしそうなら彼と再会し、情報を共有する必要がある。真尋はこれまでの取材で得た事件の情報を整理し、今後の行動を慎重に練り始めた。今回タイムリープした2005年という年は、真尋にとって不吉な予感を呼び起こす年でもあった。
清真は再びあの事件現場のアパートに足を運んでいた。もしかしたら、もう一度あの場所であの女性に会えるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、階段を上っていくと、そこにあの時の女性が立っていた。彼女もまた、清真と同じように何かを探しているような眼差しで周囲を見回している。
目が合った瞬間、二人の間に確信が走る。
「あの時のおばさん!」清真は思わず声を上げた。
真尋もまた清真の顔を見て安堵と驚きの混じった表情を浮かべた。「やっぱり…あなたも…って誰がおばさんよ!失礼ね!」
互いの顔に安堵と、そして確信の表情が浮かんだ。僕たち、私たち、は間違いなくタイムリープしているのだと。アパートの近くにある公園で二人は初めて向き合った。清真は、口下手ながらも自分が体験したことを懸命に伝えようとした。その時の彼の声は、微かな震えを帯びていた。一方、真尋は冷静にしかし確かな目で清真の話を聞き、自身の体験と照らし合わせる。大学生とオカルト雑誌記者、年齢も立場も全く違う二人が、一つの異常な体験によって繋がっていることを理解した。
「あの事件止める方法があるかもしれない」と真尋は静かに切り出した。「あなたもあの現場に何か思いがあって来たんでしょう? 事件を止めたくないですか?」
清真は頷いた。あの光景が脳裏から離れない。
「でもどうすれば…」清真が不安げに問うと
「もう一度時間を巻き戻すんです 事件が起こる前に」真尋が答えた。その声には、確固たる決意が込められていた。「このメカニズムはまだ不明だけど、もしかしたら時間を巻き戻せるかもしれない」
二人はそれぞれの胸の内に宿る強い「想い」清真の、臆病な自分に打ち勝ち犯人を捕まえたいという想いと、真尋の真実を暴き、誰かの命を救いたいという記者の使命感を共有した。
「よし」真尋は小さく息を吐くと清真に向かってまっすぐに手を差し出した。「私たち協力してこの事件を解決しましょう 過去を変えて未来を救うために」
清真はその真剣な眼差しに応えるように迷わずその手を取った。彼の掌と真尋の掌には熱が帯びていた。強い決意を込めて、二人は固く握手を交わした。その瞬間、再び、あの眩い光が二人の視界を包み込んだ。