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第三章③ ちっこい仲間がさらに増えました?

YouTubeにて音声動画上げてます


OP「なりたい自分になればいい」


https://youtube.com/shorts/dFH4la04NC4


お手数ですがブラウザでコピペしてお聴きください

「ミキ先輩。フルルさんのこともそうですが、ヒミコさんも…」

 ユーリの視線の先には相変わらず粘液まみれのヒミコがつっ立っている。まるでゾンビだ。

「…あのままになってますんで、ロッジ、出しちゃいませんか?」

「そうねぇ…ちょっと早いけどこの辺をキャンプ地としようかー」

「ロッジ? キャンプ地?」

「ええ、見ていてください」

 と、背負っていた荷物を下ろし、上ブタを開けて中の引き紐を引っ張る、と。

「おお、おおおおおお、すげー!」

 なんとそれはそこそこ大きいロッジに。パイセンのリュックもそうだったが、完全に物理法則が無視されている。これも【設定】のなせるワザか? むしろ無視するために【設定】があるというか。この世界、魚が飛んで鳥泳ぐくらいは造作もないだろう。

 部屋はダイニングキッチン以外に6部屋。ちょっとしたアパートだな。一人一部屋は余裕で割り当てられる。シャワールームは別にある。現在、ヒミコがパイセンとヌメリ取り中。

 メルリは手の上にフルルを乗せ、目をキラキラ輝かせて部屋から部屋をパタパタと駆け回っている。

「ほらー。見て見てフルルちゃん! すごーい! ほらー、こっちこっちー!」

 このあたりはやっぱ女の子だな。

「食事はどうすんの?」

「僕、できますけど」

「マジか。家庭的だな。パイセンたちは」

「カナっち。命が惜しくばそれ以上は」

 パイセンがオレの言葉を遮る。…どういう意味だ? 言えば死ぬのか、食えば死ぬのか…

「材料はどうすんだ?」

「食材ならありますから」

 と冷蔵庫を開ける。なるほど、これだけの備蓄があればしばらくは大丈夫そうだ。

「あの、メルリもできますけど…」

 部屋の内見を堪能したメリルが戻ってきて手を挙げる。さすがウチのメイドは良いメイド。かわいさ余って溢れ出てるぜ。

「…ねぇ、メルリぃー。カナートはひとりごとがおおいのでして?」

「フルルちゃん! しーっ!」

 …まぁ、そんなわけで野宿とはならなくて済んだわけだ。ありがたい。



 部屋割り決まって夕食前、フルルの姿が見えない。パイセンとヒミコは自分の部屋のようだが。

「すまない…フルルはどうした?」

 キッチンで晩メシの支度中だったメルリに声を掛けてみる。

「今はお部屋で眠っていると思います」

「そうか…ちょっと様子を見たいんだが…そのー、メルリ、一緒に来てくれるか?」

 ニンフとはいえ女の子だ。しかも寝ているのがメルリの部屋ともなれば、勝手にズカズカ入るってわけにもいかんだろう。そのくらいの常識は、あるんだよ。

「ふふっ。はい、ご一緒します」

「僕もご一緒しても?」

 メルリと一緒に料理をしていたユーリが声を掛ける。

「はい。それでは参りましょう」

 メルリはコンロの火を止め、にこやかに部屋へ向かう。


 ドアを開けた隙間からそーっと様子をうかがい

「まだ寝てますね」

 ひそひそと小声で伝える。

「静かに…そーっと入りましょう」

 なんだか赤ん坊が寝ている部屋に入るみたいだ。

 フルルはベッドで寝ていた。小さな…ホントに小さな寝息を立てて。身体がこのサイズだ、たとえイビキをかいてもかわいい音なんだろうな。

「ご主人様!」

 小声でメルリに叱られた。なんかこう、「めっ」とか言われてる感じだ。

まぁ女の子相手にイビキがとか言っちゃ、やっぱダメだよね。

 しかしメルリに叱られるって…なんかゾクゾクくるものがあるんだが。

 オレの中で何かが目覚

「ごーしゅーじーんーさーまーっ!」

 あ、また。そうだよ、漏れてるんだって…

 フルルの枕元にしゃがむ…と言ってもサイズがサイズなので全身が目の前なわけで。…いや、小さすぎて逆に機械仕掛けなのでは?…という疑問が。

「そんなわけがあるかい!」

 ん? 今の、誰?

 メルリを見るが、メルリもこちらを見ている。

 お互いの目が同じセリフを発している。

 曰く「あれ? 違った?」

 同時に後ろ、ドアを見る。

 そこでユーリが後ろで様子を見ていたのだが、ヤツも「お前じゃないのか?」という目でこっちを見ている。

 まるで出来の悪い演出のドラマのように同じ動作をしたメルリと、再び目が合う。

 まさかこれは、幽霊?

「そんなわけがあるかいっ!」

 捻りもなくまた同じセリフが。

 一体どこから?

「ここじゃい!」

 フルルの上にふわふわと光の蒸気のようなものが立ち登り、上へ伸びると徐々に形を成していく。ついには…ヒトの形…杖を持った老婆の姿になった。ちっさいけど。

「幽体離脱だとぉっ?」

「誰がエクトプラズムじゃい」

 ツッコむ。ツッコむぞ、このオバケ!

「誰がツッコミオバケじゃい。ワシはこの娘の中に眠るもう一つのパーソナリティ。俗にいう『神』じゃ」

「え? 神の出現がお手軽過ぎね?」

「返す返すも失礼なヤツじゃな。神と言ってもニンフの一族を束ねる神。名をナハルルという。この世界全てを統べるなどの大それた存在ではないがな。お主、失礼なヤツではあるが、礼をいう。この娘、フルルを助けてくれてな」

「その礼はオレじゃなくて、こっちのメルリに言うべきだな」

「そうじゃったな。娘さん、フルルを見つけ出し、助けてくれてありがとう」

「いえ、メルリはそんな…」

 メルリは照れっテレだ。まぁカワイイわけだが。

「それで、ニンフの神様がなんでお出ましに?」

「うむ。一つには礼を言う良い機会じゃからというのがあるが、もう一つ、これからのことも話しておければ、と思うてな」

「これから?」

「お主たちは我らの仲間を探してくれるそうじゃが」

「神様の仲間かは知らないが、とりあえずフルルの家族は探すつもりだ」

「まぁそれでよい。それでもありがたい。なんでもニンゲンの世界では我らニンフを愛玩動物として飼うのが流行っているのだそうじゃ」

「愛玩動物…ペットか。いやしかし、そんなことが許されるのか?」

「無論許されてはおらぬ。しかし儲けになるともなれば血相を変えるのがニンゲンでもあってな」

「ひでぇ話だ」

「我らは食事などはそれこそニンゲンと同じに摂れるが、森の中に住んでおらねばやがて精気が枯れ、死んでしまう。じゃから…捉えられた者たちはいずれもやがて…それでも一人二人ならまだしも、此度は集落丸ごとじゃからな…種としての存亡に関わる話じゃ。森もまた我ら無くてはいずれ枯れてゆく」

「あのナハルル様…それではこのままフルルを連れて行くというのは…」

 不安げにメルリが尋ねた。そりゃそうだ。一緒に旅なんてできるのか? そもそも今目指しているのは街。森とは正反対な土地だぞ?

「フルルに関しては…ワシが憑いとるからの。それほど心配はないが、それでもたまには森の空気を吸わせてやって欲しい。ワシも潤うからの」

「分かりました。必ず…って、すみません勝手に。あの、ご主人様?」

「約束する。メルリはもっとわがまま言ってもいいくらいなんだぞ?」

「わがままだなんて、そんな…」

「なぁ神様。フルルの羽ってのは、また生えてきたりするのかい?」

「どうじゃろうな? 本人も言っておったが、根本から丸ごとじゃと難しいかもしれん。まぁしばらく様子は見る必要があるかの」

「そうなのか…」

「それでこれからのことじゃが」

「ん? 今の話がそうじゃなかったのか? 森林浴的な話が」

「いや、それは単なるお願いじゃ。それで、本人はまだ知らぬことなのじゃが、フルルは魔法が使える」

「魔法?」

 【設定】関係の話だとユーリの食いつきがいい。

「ワシが憑いている関係でな、使えはするが封印しておった。間違って使われても困るのでな。それに一人で使えるものでもないのじゃよ」

「一人で使えない魔法、とは?」

「本来ニンフは信頼できる狩人などに憑いて、その手助けをするものなのじゃ。そうして手伝う代わりに森を護ってもらってきた。共生というやつじゃ。つまりはそうした者を手伝う支援魔法ということじゃな」

「ふむ…」

「ワシもタダで護ってもらおうとは思っちょらん。この者が役立てる場面が来たら、役立てて欲しい。我らも自分らのことは自分らで護りたいのじゃ」

「なるほど…委細承知しました。どう扱っていいものかは分かりかねますが」

「まぁ本人が魔法の使い方どころか存在すら知らんからの。いずれ時が来れば全てを悟る時も来るじゃろうて。そうならぬのが一番ではあるがの。ともかく使えるようにはしておく、ということじゃ。それと…手伝ってもらうお礼も兼ねて、そこの失礼な若者よ」

「ん? ああ、オレのことか」

「お主、思うことがちと口に出過ぎじゃ。失礼なのもあるが、そもそも知られたくないことまでもが漏れても困るじゃろうて、ワシの力でそいつを封じてやろう」

「マジで? それはありがたい!」

「どれ、こっちへ頭をよこしてみい」

「こうでいいかい?」

「そうじゃ。そのまま動くなよ」

 …なんか不穏なこと言ってない?

「どれ」


ぼこっ


「アイタッ! 痛ぇな! 何すんだこのババァ!」

 杖で殴られた。

「文句を言うな! じゃがこれで漏れんはずじゃ」

 マジで? 頭がズキズキ痛いんですが。

 それにしてもホントに漏れてないの?

 ああ、メルリは今日もカワイイなぁ。

 と、メルリを見ると…

 真っ赤になって照れてるじゃねぇか!

「ババァ! 治ってねぇよ! 漏れてんぞ!」

「あ、いえ、ご主人様。聞こえはしなかったのですが…その、なんとなく何を言ってるのかは分かってしまって…」

「あ、そう? それならヨシとしておこう」

「全く失礼なヤツじゃ。ともかく、後のことをよろしく頼む。ワシはフルルの中へ戻って行く末を見守るよ。お主、メルリ、と言ったね」

「は、ハイっ!」

「この娘と、フルルと仲良くやっておくれよ」

「分かってます。お友達ですもの」

「友達か…ん? …お主、【もう一人】に手を焼いたら、このフルルに頼るとよい。きっと話をつけてくれるぞ」

「え…? あっ! ハイっ! ありがとうございます!」

「はぁ? ババァ、それどういう」

「さぁて、ワシはフルルの中に戻るとするかのう。それでは皆の衆、フルルをよろしく頼むぞ」

「待てババァ! 話は終わってねぇ!」

 そう言うと、ニンフの神はフルルの中へ戻って行った。

「消えた…」

「くぉんのぉクソババァ! …なんか最後に勿体つけたこと言って消えてったが…何のことだ?」

 とメルリを見るが

「さぁ。なんでしょうね?」

 メルリも曖昧に笑うだけだ。まぁメルリが言わない以上、それはそれとして置いておこう。

「ん…んん…」

 フルルがお目覚めだ。

「あれ…ここ…」

「お目覚め?」

 メルリが優しく声を掛けた。

「?」

 フルルは目をこすり、不思議そうな顔をする。

「フルルちゃんがなかなか起きないので、心配になってみんなで来ちゃいました。よく眠れた?」

「あ、うん…ごめんなさい…でして…」

「いいのよ。寝る子は育つ、って言いますから。そろそろ晩ごはんにしましょうか」

「そうですね。残りの準備は僕がやりましょう」

「あ、でもメルリも」

「メルリさんはフルルさんに付いていてあげてください。では、カナート」

「ん? あ、ああ、乙女の部屋に長居をしてはイカんからな!」

「準備できたら呼びますので。ごゆっくり」



「先程、フルルさんの【設定】を見ようしてできなかったんですが、その理由が分かりました」

 メシの支度の続きをしながら、ユーリが話しかけてきた。

「どういう?」

「先ほどの神様です。ナハルル様、ですね。おそらくあの方がブロックしているのでしょう。『神様内蔵』ともなればレア度も高いでしょうし」

「なるほどな。しかし、神様ってホントにいるんだな」

「我々が以前いた世界でも神様はあちこちにいたわけですから、それが見えるようになった、というだけかもしれません」

「そういうもんか」

「さぁ、できました。夕食にしましょう。皆さんを呼んできていただけますか?」

「おう。お安いご用だ」



 少し早めの夕食を終えてくつろぎのひと時。ちなみに何を食べたのかは、分からん。オレが料理に疎いのではなく…おそらくそういった【設定】がなされていないのだろう。食事のシーンをアニメにでもしたら作画厨がウルサく噛みつくに違いない。違うぞ? 手抜きの作画なんじゃなくって、ホントにそういうモノが目の前にあるのだ。黄緑色の球体=キャベツくらいの認識だ。そう、オレたちは概念を食っている。

「お口に合いましたか?」

 ユーリが聞いてくる。味の感想を求められてもなぁ。何しろ口に入って行くのは概念だからな。

「まぁまぁ、だったかな」

 としか。一皿ごとに【設定】されればまた違うんだろうが、食ったことのない料理名でもまた困るだろう。味を知らなければ理解のしようがない。

「あの…メルリ…がんばります…」

 メルリがしょんぼりしている。

 しまった!

 そうだ、料理はメルリも手伝っているんだった!

「あ、いや、その、美味かったぞ!」

 取ってつけたように感想を言ったところで後の祭り、メルリの悲しみを癒すことはできないのか!

「今日はメルリさんがキッチンの勝手を分かってらっしゃらなかったんで僕がほとんどやりましたが、次からは彼女主体でやっていただけるそうです。なかなか手際良かったんで、期待していいですよ」

 そうなのか。さすがウチのメイドは良いメイド。フォローが効いたのか、メルリの表情も戻った。

「さて、明日の朝食と昼食の支度もしておこうと思うので、メルリさん?」

「はい!」

「準備の方、お手伝いいただけますか?」

「はい。かしこまりました」

「さて、じゃぁオレは部屋に行って先に休んでるわ」

「あ、アタシたちも」

「お疲れ様です。おやすみなさい」

 メルリがみんなににっこりと微笑みかける。ああ、やっぱりカワイイ。うちのメイドは世界一ィィ!

 あ…おお、漏れてなーい!


ED「しょー⭐︎みー⭐︎せってー」


https://youtube.com/shorts/-xdiB2mkXBU

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