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エピローグ

 部屋に入り、今日一日のことを思い返してみた。確かに今日()一日色々あった。毎日色々あり過ぎて頭が追いつかんな。


 …そういえば、まだ解決していないことが一つある。

 もう一人のメルリ、ってやつだ。

 考えてどうにかなるもんでもないだろうが…この世界の取説があるわけでなし。

 何より気になるのは、メルリは気付いているのだろうか? 気付いていないならこのまま黙っていた方がいいのだろうか? 気付いているなら…どうなんだろう? それで良いと本人が思っているならそれで良いが…人知れずそれを悩んでいたりするなら…なんとかしたいところだ。なんとかできるものなら、な。

 でも、どうするんだ?

 聞くのか?

 いつ? どうやって?


 うーん、悶々としてきたぞ。

 そもそもだ。

 おおオレはメルリのあああるじであって、ああああるじである以上、その、めめめメルリのことはなんでも知っていなければならららない。

 そうだ。きっとそうだ。

 おおオレにはそれを聞く権利と義務が、あるんだ、そうに違いない。

 

 だから!


コンコン


「あの、メルリ。まだおお起きてるか? ちょちょちょちょっと話、いいいいかな?」

 夜も夜なので呼び鈴鳴らすのはいかがなものかとノックしたんだが…もう寝ちゃってるならまた明日にでも…

(え? あ、ご主人様? え、あの、ちょっと少しだけお待ちくださいぃ!)

 まだ起きてた。くぐもった声がドアの向こうから。

 オレってば、めっちゃドキドキしてる!

 夜も更けたこんな時間…何時だか知らんけど、女の子の部屋を訪ねるなんて…やべっ、緊張してきた!

(はい。どうぞー)


ガチャ


「失礼しまーす…」

 そっと小さな声で遠慮がちに入る。

「すまん。こんな時間に」

「いえ、ご主人様がいらして下さるなら、いつでも大歓迎です」

 いつもの笑顔でにっこりと迎え入れてくれた。胸の紐タイをほどき取り、胸元までボタンを外している。脱ぐつもりだったのか、脱いでる途中だったのか。

 12歳のメルリが、ちょっと大人びて見えた。

 いやいや。いやいやいや。そそそそそそんなつもりはみみみみ微塵もないぞ?

「あの、どういったご用件で…?」

 そそそそうだ。よよよ用事があったんだよ、用事が!

「あ、申し訳ありません。この部屋、イスはフルルちゃんのベッド代わりに使ってまして…」

 見ればイスの上にクッションを置いて、その上にフルルが寝ている。まぁ確かに同じ布団の中じゃうっかり寝返って潰しちゃったら、ってなりそうだもんな。

「こちらでよろしければ…」

 と誘導されているのが…

 メルリの横!

 ベッドの上!

「は、はい! 座ります!」

「フルルちゃん寝てますから、お静かに。お願いしますね?」

 オレ、完全にテンパってるな…


 オレの体重分、ギシッとベッドが沈む。

 マットレスの振動が収まると、オレの視界にメルリがピタッと収まった。

「どうなさいました?」

 オレの挙動不審ぶりとは逆に、メルリのこの落ち着き様。優しく声をかけ、優しく微笑んでいる。

 ヤベ、いや、その

 そうだよ! 用事があったんだよ!

「その、さっきのこと、なんだが」

「はい」

「あの、盗賊たち、な? あれを倒す時、オレの後ろにメルリがいて、な? その、あの…」

「様子が…違っていました?」

「あ、うん、そうそう、それを言いたかった! あのメルリ、一体何だ?」

「そうですか…見られてしまいましたか…」


ドキ…


 なんだ…なんだそのトーンが落ちた不穏な感じのセリフ…なんだっけ…あ、鶴の恩返し。あれになんか、同じセリフがあったような…って、あれ?

「彼女は…【メルリ】です」

「は?」

「彼女はずっと…ずっと前からメルリの中にいた、もう一人の【メルリ】なんです」

 少し俯いたメルリの横顔を見る。見るが…表情が読めない。笑顔…ではない。泣いて…いるようでもない。まして怒りでもない。なにか遠くを見るような…笑顔も悲しみも混ざった、そんな感じの。

 メルリは静かに続ける。

「彼女のことは…よく分からないんです。話しかけても…応えてくれなくて」

「自分の中で自分に話しかけるの?」

「ふふ。そんな感じ、なんですかね? 同じ一つの身体の中にいるのに、感情とかそういうのも伝わって来ないんですよ。ただいつも寂しそうに見えて…」

「それは…フルルみたいに、神様がいる、みたいな?」

「あはは。そんな崇高なものではないと思いますよ?」

「そうか…」

「自分の中にもう一人誰かがいるって、なかなか理解はしてもらえないでしょうから」

「その、嫌だったりしないか? なにか、その、オレにできることって、あるか?」

「大丈夫ですよ。【メルリ】もメルリですから」

「そ、そうか」

「ご心配かけて申し訳ありません」

 そういってメルリは頭を下げるが

「そんな…謝ることじゃないだろう。悪いことしてるわけじゃないし。それより分かってあげられなかったオレの方がムグッ」

 人差し指で口を塞がれてしまった。

「ダメですよ? ご主人様がそんなんじゃ」

「う、ごめん…」

「メルリは…どうであってもご主人様のおそばにいられることが幸せなんです。だから、ご心配なさらずに。逆に…こんなメルリですが、おそばに…置いていただけますか?」

「当たり前だ。絶対に遠くになんか、行かせやしない!」

《そう…嬉しい…》

「メルリ…」

 メルリがしなだれかかってきた。体重を預けるように。心を、信頼を、全て預けるように。


 …やばいな。

 これ…この体勢。


 すっとメルリの肩を抱いた。メルリは微かに顔を上げ…潤んだ目で真っ直ぐオレを見る。


 …やばい。これは。オレは…吸い寄せられている…


 艶やかな、柔らかそうな唇に…接近する。


 …これは…これって…


「う、うーん…メルリぃ…」


ドキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


 それは…光の速さを超えていたであろう。

 パッと離れ、声の主を見る。

 …フルルの寝言だった。


 あー ぶー なー かっ たーッ!


 ルビコンの一線を超え、コトに及んでしまうとこだったよぉっ?


 そして、気まずい。

「あ、それじゃ、その、あ、明日も、は早いから、この辺で」

「は、はい。そその、おやすみなさい、ご主人様」

「ああああ、おおおおやすみ」


カチャ

パタン…


 やべぇ。心臓が口から出てきそうだ。

 こんなドキドキしちゃって…眠れっかな… 






《イクジナシ》



 翌日。

 今日は朝から晴れわたって、プール日和だ。

「キャァァァァァァァァァァァ」

 悲鳴ではない。今の声は、メルリとフルルがウォータースライダーから滑り降りて来た歓声だ。

 …かれこれ28回目なのだが。



 朝、メルリに起こされることなく目が覚めた。

 昨夜のこと…やっぱり気になってドキドキが止まらず…夜が明けた。というか、夏至が近いせいか、窓の外が明るくなるのが早かったなぁ。

 朝メシはホテルのレストランでビュッフェ形式だそうで…でもなんだかメルリと顔を合わせるのが気まずい気がしてそーっと行くわけだが…

「おはようございます! 御主人様!」

 と、後ろから元気に声を掛けられ、振り向けばメルリ。

 なんだか朝からごきげんなのか、ニッコニコだ。何も昨夜のことはなかったかのように。

 …オレが気にし過ぎ、だった?



「メルリ! もういっかいやるのでしてっ!」

「分かってるよ、フルルちゃんっ! 行くよっ!」

「ハイでしてっ!」

 水着は正解だった。今日は一段と輝いて見える。控え目に言って眩しい。むしろ目のやり場に困る。

「おー、やってるねー」

 パイセンとヒミコが水着に着替えてプールサイドへやってきた。ヒミコは昨日の買い物でメルリに選んでもらったそうだ。

「ヒミコ、似合ってるんじゃないか?」

「ホントに? 嬉しいなぁ。さすがメルリちゃんの見立てだよね」

「ねーねーカナっち。アタシはー?」

「パイセンは…その…いつもとお変わりなく…」

「ちぇー。なんだよー。お世辞くらい言ってくれてもいいじゃんかー」

 だって普段からスク水じゃんか、この人。

「じゃ、行こっか、ヒィちゃん!」

「うん!」

「おーい、メルリちゃーん! フルルちゃーん! 一緒に遊ぼーぜー!」


 一方のオレたちはプールサイドのデッキチェアでぼーっとしていた。まるで水泳の授業の見学だが、目に入るのが野郎の芋洗いじゃ無いところが優雅だな。

「あなたは行かないので?」

「…プール…っていうか、水…苦手なんだ」

「つまり泳げない、と」

「婉曲表現をわかりやすく翻訳しないでくれるか」

「ははは。ラノベは分かりやすさが肝心ですから」

「そうですかい…さすがラノベ作家の先生様だ」

「それにしても酷い煽りでしたね」

「煽り?」

「昨日の、オラシオン=ハウウェルに言ってたヤツですよ。盗賊とは言え、かつての自分の名前相手によくもまぁ」

「ああ、アレね。世の中何が役に立つか分からんもんさ。SNSなんかで煽ってくるヤツ相手に煽り返してたら煽りスキルが上がってたらしい。オレ、不登校だったからさ、それをネタに突っついてくるヤツが内外に色々いたんだよね」

「…そうですか…」

 しばしの間を置き、ユーリがすまなそうに語り始めた。

「カナート…僕はあなたに謝罪しなければなりません」

「ん? 何の話?」

「昨日の件で…あなたが前に出て行った時、ついあなたの姿を目で追ってしまい、メルリさんから目を離してしまった…それであんなことに…」

「ああ…まぁあれはオレも頭に血が上っちまってメルリのことが後回しになっちまったからな。お互いさまだ。こうして無事でいられるんだ、ヨシとしようぜ」

「ありがとうございます」

「そういや、どうやってメルリを歯ブラシブタ野郎から解放したんだ? オレはそん時気を失ってたハズなんだが」

「あれは…こう、気付かれないよう接近して、後ろからズブっと」

 いつの間にかオレの背後にいて、デッキチェアの背もたれ越しに背中を指で押された。

「僕は剣を持ってますが、実際の所、本業は【暗殺者(アサシン)】なんです」

 本当に何も気配を感じなかった。

「ちょっとカッコいいでしょ? ダークヒーローっぽくて」

「…物騒だな…」

「個人差はありますが、【人格設定(コア)】というのは鋭い物で突かれると弾け飛ぶんですよ。あなたのような硬い【人格設定(コア)】は珍しいですけどね」

 そういや初めてユーリと会ったあの酒場で、客が

『いつのまにか【設定】を抜かれるらしいぜ』

『人呼んで『闇斬りのユーリ』…!』

 とか言ってたな。アレはこういうことだったのか。

「敵に回したかねぇな」

「光栄ですね。それで、ここをいつ発ちますか?」

「ご主人様ー!」

「おう!」

 メルリが手を振るので、返してやった。

「…そうだな…メルリたちがウォータースライダーに飽きたら、かな?」

「当分先、ということですか?」

「いくらなんでも水着のお尻が擦り切れたら止めるだろう?」

「あはは。それで【魔王】の件ですが」

「オラシオン=ハウウェルは違ったのか?」

「ええ。白騎士団の取り調べに随伴しましたが、残念ながら」

「そっか。だがユーリのお姉さんを攫った以上、探し出して戦うさ。戦って、【設定】を全部ブン取ってやんよ」

「ブン取って、どうするんです?」

「分からん。オレは、他人の【設定】には興味ないからな」

 間もなく夏至。北欧の夏は、昼が長い。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

いかがでしてでしょうか?

ワタクシ的には…アップに際し読み直してみて、「あれ? やっぱおもしろいじゃん?」ってなったんですが。

まぁ自分が面白いと思ってるものを書いてるんでそりゃそうだ、となりますが。


さて、次回からはこれの続き、「異世界じゃ想いの強さが武器になる2」をお送りします。

無印よりも酷評でしたのよ…

書いた本人はこっちもおもしろいと思ってるんですが、いかがなものか、読者の皆様にお預けします。

それでは「なりたい自分になればいい」を聴きながら、続編でお会いしましょう。


ツイッター(現X)にて音声動画上げてます


OP「なりたい自分になればいい」


https://x.com/HanashioKikei/status/2015005325829754896?s=20


お手数ですがブラウザでコピペしてお聴きください

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