第五章① なんかオレたちが悪者みたいじゃね!?
ツイッター(現X)にて音声動画上げてます
OP「なりたい自分になればいい」
https://x.com/HanashioKikei/status/2015005325829754896?s=20
お手数ですがブラウザでコピペしてお聴きください
街、とはどこから始まるのだろう?
道路の両脇になんとなく店が増えてきて、気が付けば繁華街、特に駅周辺が密集しているという感じじゃなかろうか?
しかしこの世界、誰が造ったかは知らないが、そもそも全てが虚構で成り立っている。当然街もそうだ。だから、街は突然始まる。
「着きましたね」
[サージエンスへようこそ]
道路の上にアーチ型のゲート、上にはそのメッセージがあり、ここがサージエンスなのだと主張している。その道路は、これが目抜通りなのか、対向二車線のかなり広いもの。ただし…舗装はされていない。土埃が上がらないのはさすが虚構といったところか。道沿いには1階を店舗とした2、3階建のビルが立ち並ぶ。中世欧州ベースの世界の割に、街並みは変に現代的だ。その景色、メルリとフルルには物珍しいのだろう
「ほぇぇぇ…」
と謎の声を発しつつ見上げている。
特に歩道があるわけではないので人々は道路の両脇を歩くようになっている。クルマは…通らないな。あまり普及していないのか。
とはいえさすがに『街』と呼ばれるだけある、すれ違う人の多さ。
今、ひとくちに『人』と言ったが、さすがファンタジー世界、あらゆる種類の『人』がいるものだ。ケモノ耳や尻尾を生やしている者も散見でき、且つ誰の彼のということもなしに、共存しているように見られる。どこのどんな世界であっても、見た目や出生なんかで区別されずに生きられれば世の中平和になるのにな。道行く人々を見て思う。
「なぁ、ユーリ。ここの人たちも【設定】を持ってるのか?」
「【設定】が無ければ自己存在の証明ができませんからね。人それぞれですが持ってます。まだ見えないので?」
「ああ…メルリは見えるか?」
「え? あ、はい!」
物珍しい風景を見入ってたところから急に呼ばれて我に返ったか。
「どうでしょう…やってみます!」
メルリは急に黙ると沿道の人々を凝視する。
「ああ、なるほど。見えました」
毎度のことながら『やってみます→できました』のコンボがすごい。うちのメイドに不可能は無いのか?
ただ…そうなると【設定】が見えないのはオレだけ、ということになる。日常生活で困ることはそうそう無いだろうが、ちょっとハブな感じで寂しいところだ。
「そうか…」
落胆が声にも現れていたのだろう、それがメルリにも伝わってしまった、困ったような顔をしている。
しかし
ぎゅむぅ
「ななな、なんだ急に⁈」
「ご主人様!」
メルリがオレの左腕に抱きついた。まただ…オレの左腕は、今柔らかな温もりに包まれ、今天国へ旅立った。そして全身の神経が、左腕の享受する触覚を共有せんとそちらへ意識を集中させる。つまり、今オレは、全ての意識を柔らかな感触に持って行かれているのだ。
「これでどうでしょう?」
ハッ!
今帰ったよ!
で、どうでしょうって…んんっ?
「見える…見えるぞ…」
それは未知の光景だった。
人の周りに…お札のようなものがグルグルと回っている。
なんか雰囲気の近いものを見たことがある気が…あ、そうだ。大きなカプセル内を風で三角くじがグルグル回るヤツ、あるじゃん? あんな感じ。くじの代わりにお札が回っている、みたいな。不思議な光景、だろ?
「ホントですか? わーい、やったー!」
左腕はさらに強く抱え込まれ、天国の階段を上げる。
見えるものなんだな…へぇぇぇ…こんなことになっているのか、【設定】ってヤツは。
これってメルリの能力で見えてるのか? それともオレが能力に覚醒めたか?
その証明は簡単だ。
「メルリ、腕を放してみてくれるか?」
「え? あ、はい…」
左腕が現世に「ただいま!」と戻って来た瞬間、目の前の景色も元の姿に戻った。
「ああ、そうなのか…」
腕を掴まれるくらいで能力を共有できるのか…それは発見ではあるが、自分の能力では無かったことには、やはりショックだ。
「あの…もうよろしいでしょうか…?」
「ん? ああ、ごめん、ありがとう」
「あの! いえ、そうではなく…」
メルリがモジモジしている?
トイレかっ? …いや、その解答では多分マイナス53万点の大減点なハズだ。
なんだ?
メルリの態度が伝えたいこと…主人として、従者の気持ちが分かる男に、オレはなるっ!
…それで…なんだろう…
ん? まさか…?
「こう、か?」
左腕を差し出す。途端、メルリの表情は夜明けの太陽の如くパァッと明るくなり
「はい! 失礼します!」
と、嬉々としてそれに抱きついた。なんだそんなこと…なのか?
「メルリ、そんなにギュッと掴まって、歩きにくくないか?」
「いえ、全然。それに…歩くペースをご主人様が合わせてくれますので…」
え? そうなん? すげーな、無意識にやってるんだ、エスコートレベルが上がったな、オレ。
時に、メルリが腕に掴まると自分のとまる場所が無くなるのか、フルルがオレの肩へやって来た。フルルも随分オレに慣れて来てくれているようだ。
「メルリはカナートのうでにつかまっているとき、とてもしあわせそうなのでして」
耳元でこちょこちょと呟かれた。
「こら、フルルちゃん! 余計なこと言っちゃダメ!」
そのメルリの声は、弾んで楽しそうだ。
それにしてもすれ違う人々の視線を感じる。まぁ仕方ない、メルリはカワイイからな。
「さーて、宿屋にチャックインしときましょー。それから街をちょっと見て回りましょうか」
「うわぁ」
「わーい」
パイセンの一言にメルリもフルルも大喜びだ。
◆
街ともなれば宿屋もホテルっちゅうヤツだ。とはいえご予算の都合上フツーのビジネスホテルて感じのところなので、ロビーからして簡素。
カウンターにて記名。一通り書き終えたところで
「申し訳ございません。少々お待ち願えますか? そちらの席でお掛けになってお待ち下さい」
そう告げた受付のネェちゃんが硬い表情。まぁ、待てと言われれば待つしかないのだが…オレの隣ではメルリとフルルが何やら遊んでいる。メルリはともかくフルルは飽きてグズるかと思ったが杞憂で済みそうだ。
ここでも待合客の視線を感じる。別にメルリもフルルも大きな声を出して遊んでいるわけじゃないのに。そんなに目立つかな、オレたち。
…さて…待つにしても長くないかな?
「お待たせしました」
ようやくお呼びが掛かる…が、先ほどの受付のおねーさんじゃない、おっさんに案内され、建物奥へと進む。ホテルって初めてだから知らんけど、受付で鍵受け取ったら自分で部屋に行くんじゃないのかな? 部屋まで案内してくれるっての?
やがて建物最奥部と思われる場所まで来た。
「こちらの先になります」
とドアを開けられ、促されるまま進んでみれば…
「オラシオン=ハウウェルとその一味だなッ!」
白銀の甲冑を身に付けた騎士にゾロっと囲まれた。
ユーリと顔を見合わせる。
「どういうことだ?」
「さぁ?」
その騎士の群れから一人、前へ出てきた。
「オラシオン=ハウウェル! オマエをニンフの森襲撃、強盗、誘拐、傷害の容疑で逮捕する!」
勇ましい物言い。しかしこの声、女だ。一人甲冑も身に付けず、白い騎士服のまま。群れの長か?
それはさておき、なに言ってんの? コイツ。
「ワタシは白騎士団サージエンス支部団長、オスカレッテ=グランディールだ! 大人しく従えば手荒なマネはしない!」
「待ってください!」
メルリが両手を広げ、オレたちの前に出て立ちはだかる。
「この方たちは違うんです! そんなんじゃないんです!」
「犯罪者を庇い立てするつもりか!?」
「そんな…犯罪者だなんて…」
「メルリ」
肩をポンと叩く。
震えている。
無理もない、訳の分からぬ言い掛かりで囲まれ犯罪者扱い、ともすれば武力を行使されるやもしれぬ状況なのだ。
「ご主人様ぁ…」
振り返ったメルリは目に大粒の涙を溜めている。
あーあ。泣いてんぞ?
あーあ。こりぁ、黙っちゃいられねぇよなぁッ!
「オレがヤる!」
メルリをオレの背中へかくまい、剣を握り、ずいっと一歩前へ出る。
と、その時、今度はオレが肩を叩かれた。
「ユーリ?」
「カナート、やめておきましょう」
ユーリが耳元で囁く。
「ヒィちゃんも」
パイセンがヒミコを押し留める。すでに隣で鯉口切って臨戦態勢だ。
「なんでだ? だってメルリをこんな」
「いえ、その件については僕も腹に据えかねてはいますが、どうも彼らとの間に齟齬があるように思われます。これは一つ、彼らにノってみませんか?」
「ノる?」
ユーリが耳打ちする。
「…なるほど、ね。分かった。従おう」
ニヤリとニヤリ。
多分オレもユーリもこの瞬間、結構悪い顔してるだろうな。
「ユー君、何企んでるのさー」
「それは後ほど」
オレは剣にかけた手を解き、両手を頭の後ろに組む。
「オマエらの指示に従おう! ただし、オレたち二人以外は皆女性だ! それ相応の扱いを要求する!」
「無論だ! それについては騎士の剣に誓い、約束しよう! 聡明な判断、感謝する! この者たちを引っ立てよ!」
ゾロゾロと周りの騎士たちが動き、オレとユーリ、メルリとフルル、さらにパイセンとヒミコ。別々に連行されることとなった。
「ご主人様ァァァァッ!」
メルリの悲痛な叫びが耳に突き刺さる。コイツら…絶対タダじゃおかねぇ…
◆
⬛︎メルリの取り調べ室の模様⬛︎
「どうして分かってくれないんですかぁっ…?」
メルリは涙声で訴える。
「名前が! 違うんですっ!」
「しかしオラシオン=ハウウェルとは彼のことですよね?」
約束を守るべく、取り調べ官には女性があたっている。
「ですから! その名前は奪われて! 今は違う名前を! カナート=オヌマーになってるんです! 何度言えば…」
「名前を奪われるなんてありえませんよ。それに偽名ならいくらでも」
「違うんです! そうじゃないんです! もう…なんで分かってくれないの…?」
膝の上で握りしめフルフルと震える手の甲に涙がハタハタと落ちる。だがメルリは悲しみに泣いているだけではない。彼女の中で【自分自身】と戦っていた。
(お願いっ! 今は、まだダメ。【アナタ】は大人しくしてて! お願いっ!)
⬛︎フルルの取り調べ室の模様⬛︎
こちらは取り調べにあたる者が違っている。警備に騎士が付いているのは当然として、直接取り調べをおこなっているのは司祭の老人だ。
フルルは机の上にでーんとあぐらをかいて腕を組み、ふくれっ面でソッポを向いている。
「手荒にお連れしたことにつきましては陳謝いたします。どれ、どうか、お気持ちをお静めになって、お話を伺わせていただきたいのですが…」
「ムッ!」
フルルは断固聞く耳を持たない構え。
「あぁ、いや困りましたな。ニンフの皆様には古来より常日頃から、森の維持をしていただいて、我々サージエンスの民も、心より感謝をしておりまして、此度の襲撃事件につきましてはサージエンスの民一同、皆心を痛めておりまして」
「フンっ! フ…ふわァァァ…」
ぱたん
ひとつあくびをしたかと思ったら、フルルはその場で眠ってしまった。
「フ、フルル様⁈」
するとモワワっと白い煙が立ち上り、ニンフの神が現れた。
「な、ナハルル様っ!?」
「頭が高いのう」
「は、ハハア!」
司祭だけでなく、警護の騎士もその場にひれ伏した。
「オヌシら、このフルルと共にいた者共を拘束したそうじゃな」
「あ、いえ、それは、容疑が! ニンフの森襲撃の!」
「もちろん、よう調べてから拘束したのじゃろうなぁ?」
「あ、それは、これから」
「痴れ者がぁッ!」
ビシィッ
ニンフの神の一喝とともに、机が、窓が、その場にあるありとあらゆる物がビリビリと震えた。
「ヒィッ!」
「あの者たちは無実であるばかりか、このフルルが傷付いて倒れていたところを救ってくれた恩人じゃ。それをオマエらはッ!」
また何もかもがビリビリと震える。
「それにワシがここにおるのじゃ。なれば、アヤツらに罪など無かろう事くらい分かろうものを!」
「い、いえ、ナハルル様がおわしましたとは我らつゆとも知らず、ご無礼をはたらき」
「能書きはええわい。今申した通り、あの者たちは何の罪もない。ワシをかの元へ案内せい! 今すぐ解放じゃ!」
「ヒィィィ! 仰せにままに!」
「無論、しっかりと詫びてもらえるんじゃろうな?」
「ハァッ! 仰せのままに!」
「約束は守れよ? 果たさねば、この街の民は毎日臭い水を飲み、澱んだ空気を吸うすることになるぞよ?」
「分かっておりますッ! 行くぞ! 今すぐ釈放じゃ!」
◆
皆と離れ離れとなったオレたちは、地下の牢屋に捕えられていた。どうもパイセンとヒミコは場所が違うらしい。それなりの対応って約束は守られ…ているのか?
「さすが牢屋ですね。これ、魔法結界が施工されてますよ?」
壁の向こうから声がする。隣の部屋にぶち込まれたユーリだ。牢屋の構造に嬉々としてない?
「で、どうすんだ? 取り調べとやらはやってもらえないようだぜ?」
「そこは不覚でしたね。女性陣から先に、ってことなんでしょうか?」
「さぁなー…」
メルリ…辛い目に遭わされてはいないだろうか? メルリを泣かすようなことをしたら、絶対ブッ飛ばす。どうしてこんなことに、と後悔するくらいにはヒデェ目に遭わせる。
〈え? ご主人様?〉
参った。オレのメルリ中毒はここまで来たか。幻聴すら聞こえるなんて。
〈これ…ご主人様、の声?〉
マジで幻聴? それにしてはハッキリクッキリなんだが…
メルリ?
〈ハイっ!〉
ウソ…これ、メルリなの?
〈ハイっ! そうです! メルリです!〉
マジか。なんだこれ? どういう理屈かよくわかんねぇけど…
メルリ。今どこだ? どうしている?
〈なんか部屋で…色々聞かれて…答えているのに聞いてもらえなくて…メルリ…ご主人様がそんなこと…って…メルリ…〉
泣いている。メルリが。
許せねぇ。断じて許せねぇっ!
だが囚われの身ではなんともはや。
メルリ。落ち着いて聞くんだ。オレたちもまた囚われの身だが、必ず。必ずお前を助け出す。絶対に、だ。
〈はい… はい…〉
何にも悪いことしてねってのにこの扱い、ヤる以上はヤられる覚悟はあるってこったろうからな。代償はしっかり払ってもらう。
〈はい〉
だから、少し辛いだろうけど、今は耐えてくれ。必ず助け出すからな。
〈はい。グズっ。ありがとうございます。勇気が出ました!〉
上出来だ。
〈ハイっ〉
それじゃ…えっと…これ、どう切るんだ?
〈さぁ…?〉
えー、それじゃ、また。
〈あ、ハイ!〉
…これでいいのか? まぁいい。
「ユーリ!」
「はい」
「そろそろやるぞ」
「フフ…分かりました」
「それで、どうやればいい?」
「【物体転送】を呼び出したら転送元を設定して…って、ああっ!」
「なんだ? どうした?」
「…僕たちの武器が…どこにあるのか分からない…」
「ということはつまり…」
「【物体転送】が使えない、ということに」
なんてこった。先ほどユーリが耳打ちしたのは、武器を没収されても【物体転送】で取り返せる、という話だ。しかしイケメンメガネ理系ウサギ男子ラノベ作家先生様ともあろう方が…
「うーん…ちょっとメルリに聞いてみんわ」
「できるんですか⁈ そんなことが」
「聞くことはできるけど…」
在処まではどうかなぁ?
あー、もしもし、メルリさん?
〈え? あ、はい。お早いお帰りで〉
詳しいことは置いておくとして、没収されたオレたちの荷物、どこにあるか知らない?
〈知ってますよ。今メルリがいる部屋の隣です。運ばれていくのを見ました〉
さすがメルリ! うちのメイドは世界一! で、今どこにいるんだ?
〈この建物の3階、左から3番目の部屋です。ご主人様のお荷物は左から2番目の部屋です〉
分かった! さすがだメルリ!
〈えへへー〉
よし! また後でな!
〈ハイ!〉
「お隣のユーリさん?」
「はい…なんでしょう…?」
声に元気ないな。さすがに大チョンボで気落ちしてる?
「荷物がある部屋が分かった」
「本当ですか!? でも詳細な位置は…」
「構わねぇ。中にあるモン、全部呼び出すぞ!」
「そんなメチャクチャな」
「メチャクチャやってくれてんのはアッチの方だ! ごっそり全部、この『素敵なお部屋』に呼び出すぞ!」
「分かりました。一度に2人分は起動できないので、代わりばんこに」
「分かった」
「では僕から行きます! 【物体転送】、起動!」
ドーン
ドゴーン
牢屋から地面を重いもので叩くような地響きが連続して鳴っている。
「なんだ? なんだ?」
守衛の騎士たちが集まり、驚愕する。
「何をやっているっ⁈」
「よお。自分の荷物をお取り寄せしてんだがねぇ、なかなか…お、来た!」
牢屋の中には書類棚、机、イス、衣紋掛などなど、元の部屋にあったものが片っ端から呼び出され、空中に現れては地面に落ちてくる。
「ユーリはどうよ?」
「まだ…あ、来ました。僕のロングソード!」
「お、お、応援をッ! 応援を呼べッ! コイツら脱獄する気だぞッ!」
「さーて。剣は来たとして、どうやって出ますかな? ユーリさんよ」
「ドカーンとやっちゃいますか?」
「やっちゃいますかぁ、ドカーンと! …では。行くぞ、エックスカリなーッ! 鉄格子をブッ飛ばせぇッ! 【焼き鳥火炎】ッ!」
ゴォッ
ジュゴォォォォォワァァァァァッァ ドォォォォォ…ン
「よーし、進路クリア! オールグリーン!」
通路反対側の部屋が消えてるんだが、気にしない。だって、誰もいなかったもん!
「よいしょっと…随分派手に行きましたね…」
壁も大概壊れているので、ユーリも難なく外へ出られた。
「プラズマのせいだよ。さ、行こうか」
と出口へ向かおうとしたその時。
「待て!」
この声。さっきの白い騎士服の女か?
振り向けば、ヤツがいた。
「脱獄しようとはいい度胸! だが我ら白騎士団、法を破る者を容赦しない!」
「容赦しないってなら、どうしてくれるんだい?」
「力で、止める!」
シャキィ
腰のモノを抜いた。
レイピアってヤツだ。それは突きによる攻撃を主とした刃物。女の腕力じゃ大剣は扱いづらいだろう、必然的な武器選択だが、叩き斬るという攻撃はない。それでもこの女、団長とやらの地位まで駆け上っている。腕前は相当なものと推測できる。ならば…一撃必殺しかないだろう。
「オレはなぁ! 怒ってんだぞ? ワケわかんねぇ理由で拘束されるわ、散り散りで隔離されるわ。…何より…メルリを泣かしやがった! その罪、命以上のモノで償ってもらうッ!」
「我らとてそれが役目。その上、【魔王】一味の為せる【魔術】を使った。なればなおのこと、ここより外へ出すわけにはいかぬ」
「…魔王? 魔術? …何のことだ?」
「トボケるな! 牢の中の物品、壊れた鉄格子。それが何よりの証拠だ!」
「またワケのわかんねェことを…決めた! オマエにはこの上ない恥辱を味わってもらうッ!」
「騎士に敗北を上回る屈辱など存在しない! 遠吠えはワタシを倒してから聞いてやろう!」
「聞かせてやろうじゃねェか、勝利の雄叫びってヤツをよォッ!」
「白騎士団団長オスカレッテ=グランディール! 参るッ!」
シャッ
レイピアが一直線にこちらへ向かってくる。
速い。
あー…こりゃ避けらんねぇ。
なら!
ザクゥゥゥ
「何ィ?」
(この男…避けるどころか前出て受けた…何を考えている…?)
「ク…ゥゥゥウッ! やっぱ痛ェなァッ! だがこれでオマエは逃げらんねェッ!」
刃の刺さる左肩にグッと力を込める。
「クッ、剣が…抜けない!?」
「行くぞ、エックスカリなーッ! 思う存分ブン獲ってこい! 【設定強盗】ァァァッ!」
抜いた剣は横一閃に、続いて上段から袈裟斬りに走る。
「ハァッ… ハァッ… ザマァねェゼ…」
左肩に突き刺さったはずのレイピアの刃が、消えた。
「い…あ…キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
石造りの廊下に女の悲鳴が響き渡る。
そして今、オレの目の前には…下着姿の半裸女が、いる。
「あ、あああ、間に合わなかったわぁ」
地下牢へ駆け降りてきた者がいる。ありゃ司祭か? …あれ? ニンフのバb神様も一緒?
「おーおーおー、派手にやりおったの。カナートよ」
「当たり前だ。メルリを泣かしたヤツに、地獄の底すら生ヌルい!」
「気持ちは分かるが、許してやってくれんかのう? まぁ手違い勘違いってヤツだったんじゃ。詳しくはそこの司祭に話してある。お主らは無実無罪、釈放じゃ。自由の身じゃ」
「チッ。分かったよ。バァさんのメンツもあんだろうからな!」
「そこの若いの! ナハルル様に向かってなんて口を」
「コイツは…まぁいいんじゃ」
続いてバタバタバタと階段を駆け降りてくる音。
「ご、ご主人様ぁっ!」
「おお、メルリ。無事だったか。すまんな、カッコよく助けに行けなかったよ…おおっと」
トフゥ
メルリが駆け寄り、抱きついた。オレは右腕で抱き止める。
「メルリはいいのです。ご主人様が無事なら…ってその傷っ⁈」
「ああ、ちと避け損なった」
「許せませんっ! 誰に…あ…!?」
足元に、ひん剥かれてブライチパンイチになっている女騎士に気付いた。
「どうして…こんなことに…?」
「さーなぁ?」
「カナートよ。抜き取ったその【設定】、どうするつもりじゃ?」
「この女、『騎士に敗北を上回る屈辱など存在しない』とかヌかしやがった。だから、その【騎士】の【設定】ごと、丸々全部抜き出してやったさ。【騎士】でなければ敗北以上の屈辱ってェのがあるからな。それを奥歯でしっかり噛み締めてじっくり味わってくれりゃぁな。何よりオレは他人の設定なんかにゃ興味ねぇ。返してやる…が、その前に…」
今メルリが抱きついているんだ、見えるだろう…よし、見えた!
「まずは…これ、と、これ。潰させてもらう」
グチッ グチッ
剣にまとわりつく【設定】から2つ摘み出し、握り潰す。それらは紙のように、生き物のように、グジグジっと奇妙な音を立てて潰れて消えた。
「そして…2つ。勝者の権限の下、【設定】を書き加えさせてもらう。そして」
ブンッ
エックスカリなーを振り下ろすと、刃身に絡みついていた【設定】は、新たな【設定】を引き連れて
スウゥゥゥゥ…
持ち主の元へ帰って行き、オスカレッテ=グランディールは元の白い騎士服の姿へと戻っていった。
「さすがご主人様! お優しくあられます」
メルリがにっこりと微笑んだその時
スゥゥゥゥゥゥ…
左肩の傷が見るみるうちに治っていく。
「おお、なんと…これは奇跡じゃ。奇跡じゃ」
司祭が拝み始めた。
奇跡なんかじゃない。
これがメルリの【笑顔の魔法】、なんだよ。
◆
ED「しょー⭐︎みー⭐︎せってー」
https://x.com/HanashioKikei/status/2015698683749372310?s=20




