アクマのおサイフ
たまに会う女の子に「お嬢ちゃん」と呼び掛けるだけの兄ちゃんや、公園でガキンチョに「少年!」と呼び掛けたりしているおねーさんなんかは真似してみてね!
ハロウィン、ですね。
みなさん、ハロウィンの起源を御存知ですか? ……知ってる? 知らない?(反応を窺う)
ハロウィンが元々なんだったかを一言で言えば、【ケルトのお盆】でしょうか。
ケルトってぇのは、今でいうところのグレートブリテン島、つまりイギリスですね。あそこに昔あった文明――ほら、ストーンヘンジってありますでしょ。ああいうのがケルト文明なんですな。
んで、「お盆」とは? これは、ケルト文明の人らが、ハロウィンってぇのは「この世と、あの世=魔界が、つながる日」と。つまり、魔界から悪魔がこの世にやってくる、と! そういう日なんですね。だから人々は悪魔や魔女なんかに仮装して、悪魔の仲間だぞとアピールすることで、身を守ろうと考えたワケですな。
そうつまり。ハロウィンの時期は、悪魔との接触がしやすくなる時期なんです。
そこで、ワタクシ。
悪魔を召喚して、契約することに、成功したんですね!
(反応が薄い場合)……いや反応薄いな!? 悪魔よ? 悪魔。
いやもう大変でしたよ~。床に魔法陣書いて(手を合わせたり印を結んだりしながら)、ふんにゃか~はんにゃか~、エロイムエッサイム、どーまんせーまんせぇるすまん、ってね。
そんでまぁ、成功したわけですよ。悪魔が、ボン! って、出てきまして。悪魔と言っても、そんなに恐ろしいもんじゃあありません。少なくとも、見た目は……ね。パッと見は普通の人間みたいでしたよ。指の数がちょっと多かったような気もしたけど。
んでワタクシ、お願いしてみたんです。
「金くれ!!!」って。
したらその悪魔はニヤニヤ笑いながら、『コレヲ貸シテヤル』って。そんで説明したら、また悪魔はボン! って消えたんですけど。
それでまぁ……貸してもらったのが、この(懐からアクマのおサイフを取り出しながら)、アクマのおサイフ、なんですけど。パッと見は、ねぇ?(アクマのおサイフを観察しながら)普通の茶封筒ですよね。そんで中身も……(中を開けて見せながら)ホラ、空ッポなんですよ。
『なんじゃこれは』と。悪魔に訊いたんですよ。そしたらその悪魔の言うことには、『先ズハ金ヲ入レテミナ』って言うんです。ほーん?
そこで取り出しますは……(懐から1000円札を取り出しながら)1000円札!
(1000円札を見せながら)まぁ、普通のお札で……特に変わったところは無い。現金です。
コレをこの……アクマのおサイフに入れるワケです(1000円札をアクマのおサイフに入れる)。
さて……。ここらで簡単な算数でもしてみますか?
5000円は、1000円の、何倍? ……5倍。ですよねぇ。
てことは5000円は? 1000円札が何枚必要? ……5枚。だよねぇ。
でも? 今アクマのおサイフに入れた1000円札は? ……1枚。 うん。
ってぇことは? 5000円にするには? あと何枚足りない? ……4枚。そうだね?
でも~~~?
コレ、アクマのおサイフだからぁ……(1000円札5枚をぴったり重ねて取り出す)。
……「なんも変わってないじゃん」と。そう言いたいんでしょう? わかりますとも。
でも……(取り出した5枚をずらして見せながら)増えてるんですねぇ。
しかも……ホラ! (アクマのおサイフの中を開けて見せながら)やっぱり空ッポなんですよ。
コレが、悪魔の錬金術というヤツですよ……!
さて、このままでもいいんですが……とりあえず、両替しときますか(1000円札5枚をアクマのおサイフに入れる)。
物質的なことを言うのであれば、ペラ紙1枚が、今5枚に増えたワケですよねぇ。それが? また1枚になって? さらに柄も変わると。
できるのか? まぁ、結論から申しますと……(アクマのおサイフから5000円札を取り出しながら)できますと。アクマのおサイフですから。
さてさて、みなさん。こうは思いませんか?
『もっとお金が欲しい』と。えぇそうですよねぇわかります。ワタシだって思いますもん。
そんで、こうも思いませんか? 『5倍ができるなら、2倍くらいワケないんじゃないの』と。まぁそうですよねぇ成程確かに。足し算に直すなら、足す回数は少ない方が当然簡単です。
まぁそんなかくかくしかじかで、コイツを(5000円札をアクマのおサイフに入れながら)入れますと。
――当然のこと訊きましょうか。
5000円が2倍になれば? ……10000円ですよねぇ。
……もう、おわかりですね? えぇまさしくその通りでございます(アクマのおサイフから10000円札を取り出す)。
これが、悪魔の錬金術です。わずかな元手さえ有れば、お金が倍々に増えていく。こんなおサイフを、悪魔は使っていたんですねぇ。
それを、借りられたと。(アクマのおサイフを掲げながら)これはもう、千載一遇のチャンスなワケですよ。
こうなりゃ、もっともっとお金を引っ張り出すっきゃない! そう思いませんか?
2倍も5倍も出来たんです、じゃあ今度は10倍でもしてみますか?
(10000円札をアクマのおサイフに入れる)
まぁ、アクマのおサイフ、ですからねぇ。できるとは思うんですが……如何かな~……?
はいドーン! (ペラ紙を取り出す)
……なんだこれは。はぁ!? (慌てた様子でアクマのおサイフを広げ覗き込みながら)おい、金返せぇ!
はァ~~~……(中を開けて見せながら)やられた! 空だわ!
……とまぁ、こんな感じで。この辺は悪魔、よくもやってくれたなという感じで。
えぇ。つまり、無限にお金が増やせる悪魔の錬金術なんてうまい話はありませんよと。だからそういうのには飛びつくな、と。そういう事なんですね~~~。
~種明かし~
<用意するもの>
・紙幣が入る茶封筒2つ
・10000円札1枚
・5000円札1枚
・1000円札5枚
・なんかそれっぽい文言(「没収」とか)を書き込んだ、紙幣と同じくらいのサイズのペラ紙1枚
・(人を驚かせ楽しませようとする心)
<アクマのおサイフの作り方>
1.片方の茶封筒ののりしろを切り取る。
2.茶封筒と、のりしろの無い茶封筒を貼り合わせる。
3.張り合わせたつなぎ目をマスキングテープなどで隠す。
4.完成!
アクマのおサイフとは、「ポケットが実は2つある袋」です。
<ここで描いた手品の手順>
0.アクマのおサイフの片方のポケットに、1000円札4枚、5000円札1枚、10000円札1枚、ペラ紙の順に入れておく。
1.アクマのおサイフの空の方のポケットを両手で広げて見せ、アクマのおサイフの中が空であることを強調・誤認させる。この時、中身を入れたポケットの方は指を使って隠す。親指除く指4本で持ってあげるイメージ。
2.持っている1000円札1枚を、アクマのおサイフの中身入りポケットの方へ、1000円札4枚と同じ向きで入れ、1000円札5枚をまとめて取り出す。
3.(1と同じ)紙幣の増殖を経ても、アクマのおサイフの中は空のままであると印象付ける。
4.1000円札5枚を、アクマのおサイフの空の方のポケットに入れ、5000円札を取り出す。
5.5000円札を、アクマのおサイフの空だった方のポケットに入れ、10000円札を取り出す。
6.10000円札を、アクマのおサイフの空だった方のポケットに入れ、ペラ紙を取り出す。
7.(1とほぼ同じ)ただし、最初に開けて見せたポケットとは逆のポケットを開いて見せることになる。従って、指で隠すポケットも(アクマのおサイフの向きを変えなければ)逆になるため注意。
まだまだ改善やアレンジの余地がある。
アクマのおサイフのポケットをさらにひとつ増やせば、手順4~5、5~6の間でも中身が空だとアピールするのが楽になるし、ここまで大仰な手品じゃなくていいなら、ペラ紙を紙幣に変えるだけの手品にもできる(本に記載してあったのはこのバージョン)。
また、中身を変えて、5円玉を5円チョコに変えたように見せかけたりできるし、袋を大きくしていけば、もっとかさばるようなものを扱うことも可能だろう。そういう場合は設定もまた考え直す必要があるが……。
なんにせよ、そういうのを考えるのはコレを読んでるアナタなので、あとはお任せします。