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バトルバー

1話読んでね

街の繁華街

多くの人が歩き

当たり前の様に何処かでクラクションが鳴っている

最初に待ち合わせの場所に着いたのは僕だった

浮かない顔をしているのが自分でもよく解るくらい重い気持ちになっていた

「しんちゃん」

肩にポンっと叩くように手を置かれた

不思議だけど少し身体が軽くなった気がした

「千景」

彼女の声と顔を観たとき

泣きそうな顔で笑う僕の肩を優しくほぐすように揉んでくれた

「取り敢えずご飯行こ」

と手を引っ張ってくれる

僕は彼女の手にすがるように歩いた

繁華街の飲食店は賑わっている

特に人を呼んでいるのは【バトルバー】と呼ばれるお店

店内では《競戦(ケイセン)》と呼ばれる国営ギャンブルが行われている

人の生死や戦争の勝敗等での枠で盛り上がっていて、この賭金の1部が徴兵や軍隊員の報酬になっている

「なんかバトルバーばっかり、テレビとか無いお店にしよ」

千景は手を引きながらお店を探している

優しさからの気遣いだとすぐに解った

「いや、バトルバー行こう」

僕の言葉に千景がをおちょぼ口になって驚いた

「確かに嫌だけど自分の置かれている状況やこれからの事も知っておかないと本当に簡単に死んじゃうから」

現実に目を向けようと思った

ほんの少しだけだけど千景の存在に僕は前を向けた気がした


手を引いていたはずの千景の手を僕が引っ張って近くのバトルバーへと入る


派手な看板が光っている

中は落ち着いた雰囲気でバーと言うよりお洒落な居酒屋だった


ボックス席に僕達は通され飲み物を注文

席においてあるモニターはタッチパネル式で知らない国の戦争が映り出されている。


まるで映画を映しているようだがこれはリアルだ

これを観ながら飲食するのは流石にどうかと思ったのだが周りはそれを当たり前にしているのか?


おまけに投票やグッズまで販売している。

軍人さんのファンクラブまである


「始めてきたけど…なんか…凄いね」

気持ちが引いた声で言うと千景も無言で頷いていた

届いたドリンクを飲みながら食事の注文をしていたらモニターから速報の音がした


国営放送のアナウンサーが映し出されると今の戦争状況がワイプになった


メガネをかけた堅苦しい男女が頭をさげて速報を入れ替わりながら読み上げる


「本日未明、国選徴兵証の配布が完了しました 軍人200名、民間兵100名です」

「開戦は2週間後の来月1日から、民間兵の訓練は3日後から最寄りの軍事施設で行います」

「繰り返しますーーー」

読み上げられると大きな声と共に店が突き上げられる様な揺れをおこした


「狂ってる」


千景が宙を観ながら呟いた


さっきまで怯えていた僕が冷静になった

「千景…」

「人が命をかけて、死ぬかもしれないのにお祭り騒ぎ!正気じゃない」

急に大きな声をあげて立ち上がる千景の姿に店内が一気に静まった。


眼差しが一同に向くのを感じると少し奥からいガタイのいいオジサンが近付いてきた。


震えながらも千景をかばうように僕はオジサンの前へ行く

「お前らバトルバー初めてか?」

いかつい顔なのに少し可愛い声を出すその姿に少しだけ肩の力が抜ける

「は…はい」

僕が返事をすると千景も後ろで頷いた

「ここにいる奴らが喜んでいると思ったのか?」

思ってたのと違う問いだった

「バトルバーはギャンブラーの集まりじゃねぇんだよ」

何を言いたいんだ?僕があっけに取られるとオジサンは熱く語った

長かったので要約すると

SNSで想いを勝手に呟けて

仕事も好きに選べ、人を性別関係なく愛せる自由な時代に ある日突然、世界から自由を奪われる

バトルフィールド は狭い戦地で行われる為、死亡率が高い

だが個々が断ることが出来ない、逃げられない人達を唯一応援できるのがバトルバー


みんな明日は我が身、少しでも生き延びるように物資や帰ってきた時の報酬になるようにここにいる

と言う話だった

僕の後ろで鳴きすすりが聞こえた

「でも、納得いかない!しんちゃ…わたしの彼が戦地に…」そう言いかけて千景は腰を落とし泣き崩れた

「兄ちゃん赤紙きたのか?」

「はい…」

小さく返事をするとオジサンは上着を脱いだ

刺青の入った身体をよく観ると沢山の傷跡があるのが解った

沢山の傷跡、中にはクレーターみたいな傷跡もある

「2個前の戦争で徴兵された」

驚いてオジサンの顔に目を向ける

「喉元やられて声もこの通りのキューティーボイスだ。傷を観ると思い出すから身体に絵を描いた」

ちょっと笑ってオジサンは言うけれど

笑えなかった

「でもな報奨金のおかげで動かない左腕やこの声でも生活ができるんだ、行きたくもない戦争へ行った奴らへのせめてもの応援場所なんだよココは」

僕は返す言葉が無かった。

確かに行ってる時も帰ってきた時も五体満足とは限らない


お金はあるに越したことはない


「兄ちゃん名前は?」

「慎太郎です」

僕はとっさに答えてしまった。

「フルネームだよ」

「河住慎太郎です」

「河住慎太郎にベットするから生きて帰ってこいよ」

オジサンは怖い顔なのに優しく僕の肩を叩いた

「個人のベットが多ければ報奨金も沢山でるし勝ち金も俺らに入る、Win-Winってやつだ、だから帰ってきて、またココで逢おうや」

オジサンが続けてそう言うと席へと戻って行く


ブワァっと店中から拍手と激励の言葉が僕へと飛んできた

「生きて帰ってこいよ!」

「俺もベットするからな!」


戦争に行くのは僕だけじゃない

行った人もこれから行くかもしれない人達がいる


僕の中で何かが変わったのが解った

さっきまでの重さは消えていた


次々と色々な飲食物が僕の元へ運ばれてきた

お客様やお店からのプレゼントだそうだ


色々踏ん切りは着いてきたが

何かが引っ掛かった

でもどう言葉にして良いか解らなかった。


千景は何も知らないで自分の想いだけで感情的になったことをオジサンに謝っていた

オジサンは可愛い声で笑っていた


ほろ酔いでお腹いっぱいにしてお店を後にした

「なんか色々凄かったね」

僕たちは貴重な経験をしたと話ながらホテルへと向かった

もしかしたらこれが最後かも知れないと思ったら無性にしたくなった


「俺必ず生きて帰ってくるから」

「うん、待ってるよ」

そういって僕達は熱い口づけを交わし抱き合った


その夜は人生で一番激しく抱き合った


2日後

涙を流し大きな声で僕の名前を呼ぶ千景に手を振って管轄の軍事施設へと向かった。







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