第四話「魔将ベルメル」
さてと、準備でもしますか…
今日中にある出来事がある…それはフォーネスト領である俺のお披露目会だ。今までは言われても無視してきたが、今回は俺の学園入学の祝いと16歳の誕生日のお祝いが重なった。出席しなければならない。
俺は正装に着替えると部屋を出た。
時刻は六時半を回った。いよいよ俺が挨拶する時間だ。
俺は一際目立つ壇上に立つと、音頭をとる。
「皆様、パーティにお越し頂き、ありがとうございます。ささやかではありますが、お食事を用意させて頂きました。楽しんで頂けると幸いです。それでは、乾杯。」
「「「乾杯!」」」
みんながグラスを天高く上げ、声高々に乾杯と言う。
…
みんなが会話を弾ませる中、俺はゼノンと一緒にバルコニーに出ていた。会場は人が一杯いる…少しコミュ障の俺にはキツイ空間だ。
そういえば…学園に行かなきゃいけなかったな…付き人は…やっぱりアイツだな…
「ゼノン、学園に来てくれるか?」
俺はゼノンの肩を掴み、圧をかける。
するとゼノンはニコッと笑った。
「圧なんてかけなくても行きますよ。だって、貴方は俺を強くしてくれた師匠なんですから。師匠の願いは聞きますよ。」
こいつはホムンクルス以外の正式な部下だ。
扱い方が未だに分かってない…が関係は良好だ。このまま行けばいいが…
「さてと、話は以上だ。お前は戻れ。俺はここで一休みする。」
「分かりました…が、ガノン様やマロン様に聞かれたら教えますよ。」
「はいはい、分かったよ。」
ゼノンはバルコニーから出ていった。
俺は溜め息を吐きながら、飲み物片手に空を見上げる。
…俺の設定により苦しんでいる人がいたら、助ける…成功できているのだろうが…全部を助けるのは無理だろうが…ある程度は助けたい…それが俺がこの世界に産まれ落ちた意味だと思うから。
「ーーー、ちょーー聞いてるの?ーーーちょっと!!!」
叫び声が聞こえ、後ろを振り返る。
すると立っていたのはカンカンに怒っている公爵令嬢…ミラン・パーモンド…パーモンド領の領主の娘…王都に最も近い地域を納めている。
すると、ミランが声高々に伝える。
「貴方、喜びなさい。私の派閥に入れてあげるわ。」
そう言うと、笑い声をあげる。
もう既に有頂天になっている。阿呆か…
「なる訳ないだろ。」
俺はきっぱりと断る。そして、横を通り過ぎようとした…その時だ。
「おい、貴様、ミラン様の誘いを断るのか?」
「お前の家を取り壊すぞ!」
二人の男が制止する…確か奴等は男爵の子息…完全に虎の威を借る狐だ。
俺はソイツらの肩を掴み、微笑む。
「喧しい。永遠にその口を動かせないようにしようか?」
そう吐き捨てると奴等の制止を振り切り、バルコニーから出ていった。
そこに佇んでいたのはポカンとするミランと少し震える男爵の子息だった。
バルコニーから戻ると、ガノン…父上が俺の方へ向かい、ズカズカと歩いてきた。
そして、肩に手を当て、笑顔でこう言う。
「ルイン…お前に挨拶したい人がたくさんいる。行くんだ。」
そう言い、強引に俺を引っ張る。
これは…逃げたら後が厄介だな…
俺が溜め息を再度吐く…その時だ…
「来た…」
予想だにしない最悪な出来事が起こった…
突如として、屋敷の壁が破壊される。
そして、現れるは角が生えた羊の顔をする人間…魔人だ。
確か…ヤギの魔人…名前は…
「…ベルメル、レベル68、十三大魔将の一人。」
嘘だろ…まだストーリーは最序盤だぞ。なのに、何故ここに来た…しかも、どうやって!?
俺が混乱していると、父上が雄叫びを上げる。
「おい、魔人!このガノン・フォーネストが成敗する!」
俺はその雄叫びで動揺が無くなった。今俺にできることは…
俺は時空間魔法を使い、ベルメルの背後をとる。
「ベルメル、背後を取った。死にたくなければ帰れ。」
するとベルメルは驚きながら距離を開け、宙に浮く。
「何ッ!?ワタクシの背後を取るなど…なんて素早さだ。…ですが、魔力はどうでしょうね。」
そう言うとベルメルは目を赤く輝やかせる。
鑑定眼か…そうすると、ベルメルはみるみる顔が青くなる。
「嘘でしょ?魔力6000!?ワタクシの3倍以上…なんという魔力量…しかし…」
するとベルメルは神速の速さで俺との距離を詰めてくる。
そして、目の前まで来るといきなり魔方陣を展開した。
「爆裂魔法ッ!エクスプーーー」
「遅い、右腕破壊だ。」
俺は瞬時に時空間魔法の次元斬を繰り出し、ベルメルの右腕を斬り飛ばす。手を振り下ろすだけだが、手を振り下ろした延長線上に敵がいたならば、斬ってしまう便利な時空間魔法だ。
「グゥゥゥゥゥ…」
ベルメルは唸り声を上げながら考える。
(ワタクシ以上の強さを持っている…完全に格上…なら、することは…)
ベルメルは辺りを見渡す…そして、何かを見つけると口角を上げた。
「おや…逃げ遅れた人間がいましたねぇ!」
そういうと死ぬ気でソイツとの距離を詰める。目を付けられたのはミラン・パーモンドだ。取り巻き達はミランを置いて逃走、ミランだけ残ってしまったらしいな。
そして、ベルメルは正面からミランの首を掴み、俺の方を向く。
なるほどな、ミランを壁役にしたか…
「おい、化け物。お前が暴れたら、このお嬢さんを殺しますよ。」
牙を出しながら脅す…ガノン…父上は剣を向けるのみで動けない。まぁ、レベルが違う。
「辞めて…殺さないで…」
ミランは涙を流すのみ…まぁ、女の泣いてる顔は見たくないし、やりますか…
俺は上に手を上げる…
「おい、動いたら女の命はないと言ったでしょう!」
ベルメルは激怒する…しかし、それも俺の上げてる手を見て、赤く染まった頬は青く染まる…
そう、俺が手に集まっているのは極小の小さい球体だが、強い奴には分かる…魔力密度がハンパない…当たったら、ベルメルは即死するだろう…
「じゃあ、飛ばすから動くなよ…あっ、ちなみに女が死ぬとかどうでもいい…だから、女ごと殺す。」
俺はそう付け加えて…すると、ベルメルはすぐに浮遊し、逃げる。
だが、無理だ…この球体は追尾機能を搭載している。
そして、追尾した球体がベルメルを捉える…その刹那…ベルメルの体が四散した…
俺は倒れゆくミランを咄嗟に支え、その場に座らせる。
そして、父上に指示する。
「父上、この令嬢を連れて安全なところへ…敵はゼノンと俺が全て殺します。」
そう言うと俺は壊れた壁から外に出た。
今回は長めになりました。ゆっくり見てくれると幸いです。