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第6話 チャラ男風後輩の本領発揮

 いつもへらへらとしている綾小路は全く笑っていない。

 宮本を優しく僕から引き剥がして、彼女を静かに静かに問い詰める。


「オレは訊いてるんだけど。なんで泣いてるの? 駿先輩が宮本を泣かせるような真似、するわけがないよね。まさか嘘泣きで周囲から同情を引いて、駿先輩を悪者に仕立て上げようとしてたのかな?」


「……えっ、ちが」


「役者だねぇ。演劇部に入ったらどう? まあ、宮本なんかじゃ駿先輩にも敵わないだろうけどさ」


 軽く僕が貶されてしまった。なぜ。


 ともかく、問題は綾小路だ。

 彼はこんなキャラだっただろうか。執拗い奴だな、とは思っていた。だがここまで豹変し、彼女を責め立てるとは意外中の意外。


 だが……なぜか驚きはしなかった。

 この表情をどこかで見たことがあるような、そんな気がしたからだろうか。


「わ、私はただ、綾小路くんに近寄る悪い虫を振り払おうと思って、えっと」


「悪い虫? 悪い虫は宮本の方だよ。大人しくしていたらいいものを」


 地を這うような低い声を浴びせられ、鋭い目つきで見下ろされた宮本がぶるりと体を震わせ、その場でへたり込んだ。

 僕はただ見ていることしかできない。


「でもっ……でも、私は綾小路くんの一番の友達でしょ!? 席だって隣だし、最初に話しかけてくれたじゃない!」


「駿先輩の居場所を訊いただけ。宮本は知らないって答えたから、別にオレにとって特別でも何でもないよ。もし教えてくれたら少しは興味を持ってあげたかも知れないけどね。それに、席が隣とか何の関係もない」


 バッサリと、本当にバッサリと切り捨てた綾小路は、トドメに一言。


「駿先輩が怖くて泣くくらいなら、二度と近寄るな。……今度はオレに泣かされたいか?」


 決着はついた。

 これは逆襲だ。反論一つできなかった僕に代わって、苛烈な逆襲をしてくれたのだと悟った。




 宮本が涙目で逃げ出し、野次馬も呆気に取られて立ち尽くす傍、綾小路が僕の手を引いてさっさと歩き出す。

 手を取る動きがあまりに自然だったので抵抗することさえ思い浮かばないまま、校舎の中、そして部室へと連れ込まれた。


「ここまで来れば大丈夫だ。ごめんね、オレの自称友達が迷惑かけちゃって。ファンが多い身は辛いよ」


 そんなことを言いながら、へらへらとした笑みを向けてくる。

 この時にはもういつもの彼に戻っていた。


「構う時間も惜しいと思ってたけど、これからはファンたちにはしっかり言い聞かせておこうと思う。だから駿先輩、許してくれる?」


「あ、ああ……うん。それより、なんで学校に戻ってきたんだ? 早々に帰ったんじゃ……」


「ちょっとケータイ忘れちゃってさ。取りに戻ったら、ばったり出会したってわけ」


 どこまで本当なのか怪しい。

 でも、あえて深くは突っ込まないことにした。……元々彼が原因とはいえ、助けてもらったことに変わりはないのだから。


「ありがとう」


「感謝されるようなことじゃないって。むしろ今回は運が良かったけど、次はそうとは限らない。だからさ――駿先輩の連絡先、教えてくれない?」


「えっ」


 目の前に突き出されるスマホ。僕は驚きに固まった。

 思い切り顔を引き攣らせてもお構いなしで、引っ込める気配はゼロである。


「いや、別に」


「いいから。オレは、オレのせいで駿先輩に怖い思いをさせたくないんだよ」


 少女漫画の男キャラかよ、と言いたくなるような甘ったるい言葉をほざく綾小路。

 さすがチャラ男なだけある。うっかり気を抜くと、男の僕まで惚れさせられてしまいそうな威力がある。


 変に感心しながら僕は、一瞬でも感謝してしまったことを心から悔やまずにはいられなかった。


 ……もしかするとここまでの流れを見越して、あえて厄介な女を放置し、問題を起こさせたのかも知れない。

 いや、きっとそうに違いないという確信を得てしまったのだ。


 先ほど見せた怒りの顔すら嘘なのか、想定していても許せなかったのか。

 綾小路の真意は本当にわからない。


 ちなみに連絡先はちゃっかり交換させられた。

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