第4話 チャラ男風後輩の真意は知れず
『好き』にも色々な種類がある。
先輩後輩という関係なのだから、慕われている意味での『好き』もあるし、やけに距離が近いので友人的な意味で『好き』と思われているかも知れない。
憧れや推しという意味での『好き』もなくもない。
でも、当然別の可能性もある。というか綾小路の態度を見て、友愛などという風にはとても思えなかった。そもそも友愛を抱かれるほど親しくないのは確かである。
それなら、まさか。
今の時代、男同士とはいえあり得ないと断じるべきではないだろう。同性に惹かれる人もいるという。それなら最後に誤魔化すようなことを言ったのも納得だ。
ただ、今まで自分がそういう目で見られることを想定していなかった故に、ショックは大きかった。
相当悩んだけれど、簡単に周囲に相談できることでもない。仕方ないので様子見という判断に至っている。
告白なのかどうなのかははっきりとしない。
思い切ってどういう意味かと確かめてみたが、「さあね」とはぐらかされてしまう。
はぐらかされたまま、彼は宣言通り毎日のように屋上へ通って来ては、僕を弄ぶようになった。
「駿先輩。ほら、あーん」
ふわふわな卵焼きを挟んだ箸を僕の方に向ける綾小路に、僕は必死でふるふると首を振る。
彼の弁当の内容が全部僕の好物ばかりなものだから、うっかり誘惑に負けてしまいそうで怖い。
「つれないなぁ。……そんなところも好きなんだけどさ」
なんだそれ。
シチュエーション的にはすごくドキドキするが、相手は男だ。
こんな場面を誰かに見られたら間違いなく誤解される。それでなくても当たり前のような顔で隣に座ってくるものだから、迷惑しているのだ。
――ダメだ。屈するわけにはいかない……。
彼の持参する弁当はどれも手作り。しかも、綾小路自身が作っているのだとか。
最初はてっきり女友達にでも作らせているのだろうと思っていたので、初めて聞いた時は驚いた。
「美味しいよ? 駿先輩にも食べてほしいんだけど、やっぱりダメ?」
「断る。僕は僕の分の弁当を持ってきてるから昼食には困ってないんだ。お願いだから絡んでくるな」
男が好きなら男が好きで、僕よりマシな相手を見つければいいのに。
「ひっど!」
口ではそう言う綾小路だが、僕には彼の真意が全く測れない。
どこまで本気なのか。やはり、ただ揶揄われているだけなのか。
「なんで駿先輩に嫌われちゃってるんだろうなー? オレ、そんな気色悪い?」
グッと背を屈めた綾小路の整い過ぎた顔面がグッと迫ってくる。
彼の吐息に首筋をくすぐられ、身の危険を感じて思わず大きくのけぞった。
絶対に距離感がおかしい。
「なんというか……なんかよくわからん後輩に付き纏われたら、誰だってこうなると思う」
「アハハッ、そっかぁ。オレのこと、知らないのかぁ」
「知るわけないだろうが」
入学してたった数ヶ月の後輩を知り尽くしていたら逆に怖い。
彼と中学が一緒なんてこともない……と思う。いくら一学年下でもこんなキャラが濃い奴と同じ学校なら知っていて当然だろうから。
「オレのこと知ったら好きになってくれる?」
「それは絶対にない」
本当に何なのだろう、この後輩は。
ため息を吐きたい心地になりつつも、僕はもう何も言わなかった。