ひとり
三題噺もどき―さんびゃくななじゅうきゅう。
暗い部屋に、光が差し込む。
「……」
カーテンの隙間から、晴れた空が見えた。
まだ、青色に染まる前の、黄色の混じったような空。
陽が昇り始めたのだろう。
どこからか、電車の音も聞こえてくる。
「……」
空気はきっと澄んでいる。
冷たい風が吹いている。
底冷えするような寒さが支配している。
それでもきっと、陽が昇ってしまえば温かくなるかもしれない。
「……」
小さな隙間から漏れた光ですら、こんなにも明るく、温かく思えるのだから。
それを一身に受け止められるなら、温かさも倍だろう。
光は眩しく思えるかもしれないけれど。
それでも求めてしまうから、光は希望として言われるのだろう。
「……」
わたしには、まぶしすぎる。
「……」
狭い1人暮らしの部屋。
ベッド一台が室内の半分を占めている。
その上に座り込んでいる。
わたし。
「……」
カーテンの隙間から洩れている光は、足元を照らしている。
その光を、ぼうっと見ている。
真っ暗な部屋に現れた光を見ている。
わたし。
「……」
冷蔵庫の中にでもいるかのような。
指先から足の先まで氷のように冷えてしまって。
それでも温まる気にもなれない。
わたし。
「……」
暖かな毛布は、ベッドの下に落ちている。
それを拾う気にはなれない。
動く気もないのだから仕方ない。
わたし。
「……」
ただひたすらに。
自分の手で、自分を抱きしめることに。
心血を注いでいる。
わたし。
「……」
何もしていないくせに。
突然視界が歪む。
鼻の奥がひりつき、のどが絞まる。
わたし。
「……」
素直に泣けもしない。
素直に息もできない。
素直に望むこともできない。
わたし。
「……」
とめようとも思えない。
生きようとも思えない。
望もうとも思えない。
わたし。
「……」
わたし。
わたし。
わたし。
……わたし?
わたしって。
なに?
お題:晴れた空・電車・素直