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なんでもないような時にふと思い浮かぶとりとめのない考え事、ひいては器用な豚汁と色とりどりの目隠しに関係する彼女の話

作者: 高橋 光太


 「目に見えるものが怖い」、そんな変なことをいう人だった。いや変なことではないか、彼女にとっては真実だったのであろう、信じるものは人それぞれ自由だ。


 大学で友人らに彼女と同棲しているのか、嫁か妻かリア充かと聞かれるたびに律儀な僕は居候を一人飼っていると返事していた。彼女はどこに出かけるでもなく僕の部屋に居着き、ただ飯を食らっては寝る怠惰な生活を送っていた。

 時折思いついたかのように、朝食に豚汁を作ることはあった。小学校のころに家庭科の実習で作ったレシピ、そのままの。

 だが彼女は不器用であったので作れるものと言えば豚汁だけだった。

 そして豚汁を作るたび、「どうして豚は鳥になれないのか」と呟いた。人間は何にだってなれるのに、と。

 僕がじっと見つめても気付かずに(うま)に角が生えると牛なのねなんて言っていた彼女のその日の眼隠しは赤色だった。


 彼女の視力は2・0はあった。彼女が他人の前で目隠しを外すことは全くなかった。それを考えると彼女の作る豚汁は器用だったのかもしれない、今ならそう思う。



 最近友人らに嫁どうしたんだ、別れたのか、そう聞かれるたびに律儀な僕は蒸発したんだよと返事した、そう、文字どおりってやつだ。

 雨の日に彼女が突然窓を開けたと思ったら、ふいと消えた。窓が片側だけ結露していて、ああこれが彼女のいう人間は何にでもなれるってやつかと思った。

 その後も帰ってこなかったので彼女の持ち物はすべて捨ててしまった。


 ただ、あの色とりどりの目隠しだけはどういうわけか見つからなかった。


お読みいただきありがとうございました。

※昔書いた小説を再投稿しています。

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