電車待ってたらいきなりスマホ奪われてぶん投げられたんだが
人の少ない駅のホームで電車を待ちながらスマホをいじっていると、突然目の前からスマホが消えた。
こちらに誰かの手が伸びてきていたように見えたので目で追ってみると、私のスマホを持ったその手はそのまま振り下ろされ、スマホは線路へと飛んでいった。
何が起こった? 訳が分からない。
あまりに突然の出来事だったので、頭が真っ白になっていた。
「電車が来るぞ」
その声で我に返った。
声の主は、隣に立つサングラスとマスクをつけた男性だった。黒の長袖。こいつだ。スマホを投げた手だ。
「来るぞじゃないだろ! 何するんだあんた!」
何が起きたか理解したと同時に私は怒鳴っていた。
「取りに行かなくていいのか?」
は?
取りに行かなくていいのか、だと?
こいつだよな? こいつがスマホ投げたんだよな? そうだ。どう考えてもこいつだ。見たし。余りにも他人事だから危うく騙されるところだった。
「あんたが取りに行けよ!」
まったくとぼけやがって!
「俺は別にいらないからいいよ」
は? なんだこいつ。
「あんた自分が何やってるか分かってるのか?」
「分かってるよ」
「じゃあ早く取れよ!」
なんなんだこいつは!
「いやだって言ってるだろ。わざわざ危険を冒してまで取りに行きたくないんだよ」
「危険だと!? 誰が投げたと思って⋯⋯」
ふと時計を見ると、電車の到着予定時刻まであと4分だった。
「電車が来るまであと4分あるから早く取りに行ってくれ。上がる時手伝うから」
これ以上は譲れない。
「やだよ、こんな1メートルも下の硬いところなんて」
「いい加減にしろよお前!」
私は男の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「そんなこと言われてもなぁ。降りた時に怪我をするかもしれないし、石がたくさんあるから転ぶかもしれないし。自分で取ってくれよ」
「分かった分かった、もし怪我したら治療費は出すから、取りに行ってくれよ。な?」
「それが人にものを頼む態度かい? 初対面の相手に敬語も使わずに頼んで聞いてもらえると思ってるのか?」
なんだこいつ⋯⋯! いや、ここは我慢だ、我慢。
「わ、分かった⋯⋯すまなかった。いや、すみませんでした。だからどうか、どうかスマホを取りに行ってください」
屈辱だ。なんでこんなやつに。
「うーん、そうだなぁ。うーん。でもなぁ」
「なんだよ、敬語で頼んだじゃないか! 早くしてくれよ! こんなこと言ってる間にも2分経ってるんだぞ!」
「そうかぁ、じゃあもう無理だな」
「は?」
「俺は運動神経が悪いから、2分じゃ取って来られないと思うんだ」
「なんなんだお前!」
一体全体なんなんだこいつは。頭がおかしいのか? そういえばこいつの声、どこかで聞いた事がある気がするぞ。
「もしかしてお前、私の知り合いか? なんの恨みがあってこんなことを⋯⋯」
「早く取りに行かないと粉々だぞ?」
「だからお前のせいだろうが!」
なんなんだ本当に!
「もうあと1分と30秒だ、このままだとあんたのせいで電車が脱線して乗客がたくさん死ぬぞ? あんたのせいで⋯⋯」
脱線!?
それはダメだ、阻止せねば。
こんなやつの相手にしてる場合じゃない!
私はすぐに線路に降り立った。
その瞬間、後ろで男が口を開いた。
「バーカ! こんな駅で電車が脱線するかよ!」
そうだ! こんなホームとホームの間でどうやって脱線するっていうんだ! 気が動転してた。
ならアイツはなんであんな焦らせるようなことを⋯⋯
男の方を振り返ると、奴はサングラスとマスクを外していた。
中学時代、私をいじめていた男だった。
あの頃から頭のおかしなやつだったが、大人になった今でもあんなふうなのか⋯⋯
いや、今はそんな事よりスマホだ! スマホを取りに行かない
駅員さぁーん!