初めての小説
男は呟いた。
「こんな感覚は久しぶりだ。書かずにはいられない。」
その男は手元にあるデジタルタイマーセットして短編の文章を書き始めた。
発端は昨夜の仕事の最中の事であった。
単調極まりない工場での仕事をしている間、ふと閃いたのだ。
「俺ももしかしたら作家になれるかもしれない。そうしたら売れっ子作家になって大金を稼いでこの借金生活から抜け出せるかもしれない。」と、唐突に閃いたのだ。
二十代も後半になって相変わらず底辺のフリーター生活から抜け出せないでいる借金を抱えたこのギャンブル依存症の男はまたもや誇大妄想じみた事を思いついたのであった。
しかし面白い事にこうした夢想に浸りながら仕事をしていると延々と繰り返される工場での単調な作業の退屈も良い具合に紛れる。
客観的に見ればただぼーっと考え事にふけっているかのように見えるその表情の口元が他人からは判らない程度に僅かに微笑んだ。
そうして男は終業時刻まで中学生じみた誇大妄想を続けるのであった。
この男には妙な所があり読書をする際や掃除をする際には必ず時間を計るという癖がある。
男はふとデジタルタイマーに目をやると14分16秒が経過していた。
「時間が経つのが早いな。楽しい事をしている時間ってやっぱり早く感じるんだな。文章を書くのが楽しいんだからきっと作家になって借金返せるはずだ。」
そんな独り言を呟きながらキーボードを叩く男の指先が部屋に心地よい音を響かせていた。
男はそのまま心地良い感情に身を任せながら文章をどんどん書き続けている内にふと気が付くといつの間にかデジタルタイマーの時刻が99分99秒を表示していた。
時間が経つのを忘れる程に男は久しぶりに楽しい気持ちになりながら軽快に文章を書いていたが、肝心な事にオチがない事に気が付いた。
読み手をあっと言わせるようなミステリー小説のようなオチを今まで小説を書いた事もない平凡な才能のこの男が思い浮かぶはずも無く、悶々としたままオチを考え続ける時間が過ぎた。
机の前に座って考え込んでからしばらくの時間が過ぎた。
そして最後の締めくくりの言葉として男はこう書く事にした。
「お母さん、先に死んでごめん」
タイトル通り生まれて初めて小説を書いてみました。
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お読みいただきありがとうございました。




