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第95話 君のことが知りたい

「それじゃあ、ありがたくいただく」

「はい、ごゆっくり」



 カミルに教えてもらいながら風呂掃除を終えたメストは、調理中のカミルに声をかけると、ローテーブルに置いてあった風呂道具を携えて脱衣所に入る。

 それを見たカミルは、メストが服を脱ぐ前に静かに脱衣所のドアを閉めると崩れるようにその場に座り込む。



「はぁぁ~~」



(今日のメスト様、王都で見かける時や鍛錬をしている時の真剣な表情以外の表情を惜しげもなく見せてくれるから、それを見る度に心臓がうるさくてどうにかなりそう。特に、お風呂掃除を頼んだ時に見せた嬉しそうな笑顔なんてもう……!)


 頼み事をした時のメストの微笑みを思い出し、頬を赤らめたカミルはドアに背を預けると深く息を吐く。



「私の心臓、明日まで持つかな?」



( 『たかが一泊二日、どうってこともない』って思いながら準備していたのに……)


 誰もいない部屋の片隅で呟いたカミルは、胸の上に手のひらを置くと再び深く息を吐く。

 そして、気合を入れるように思い切り両頬を叩いて立ち上がると、出来上がったばかりのポテトサラダを2人分の皿に盛り付け始めた。



 ◇◇◇◇◇



「ふぅ~、気持ちいいなぁ~」



 カミルが無心でポテトサラダを皿に盛り付けていた頃、大柄の大人1人が入っても大丈夫な大きな木製の浴槽に溜められたお湯の中に浸かっていたメストは仕事と鍛錬の疲れを癒していた。


(毎日入っている騎士団の共用の一際大きい浴槽に比べれば、1人分用の浴槽は明らかに狭いが……)



「誰にも邪魔されず1人でゆっくりと湯船に浸かるのも悪くないな。いっそ、俺の部屋にも作って欲しい」



(まぁでも、そんなことをしたら副団長が頭を抱えそうだが)



 『自分が自室に風呂を作ったと分かれば、上司である団長やノリの良い先輩方がこぞって真似するに違いない』



 フェビルや第四部隊に所属する先輩騎士達のフットワークの軽さを知っていたメストは、実現不可能な願望を言ってしまった自分に思わず苦笑する。


 そして、雷の魔石で照らされた木目調の天井をゆっくりと見上げると、カミルが迎えに来るまでのこと思い返す。


(逸る気持ちを抑えきれないまま、シトリンと別れてすぐ自室に戻って着替えを済ませ、前日に準備していた手荷物を持って転移の魔道具を使い森に来た。だが、そこにカミルが待っていなかったんだよな)



「まぁ、カミルのことだから、きっと泊りのことを本気にしてなかったのかもしれないが」



(そんなことを考えて苦笑していた時、カミルが来たんだよな。なぜ汗だくになりながら来たのは分からなかったが……それでも、カミルが来てくれた時はとても安心したし、この家に来るまでの間にカミルの愛馬のことも聞けて良かった)


 鍛錬では聞けない話が聞けて、満足げなメストはこの家の大きさを思い返す。



「それにしても、この家って本当に広いよな。外から見て思っていたが、まるで貴族の別荘みたいだ」



(二階建てでリビングも広いし、キッチンや浴室のみならず洗濯機や乾燥機まで完備されている)



「おまけに、二階は個室が4部屋あって……カミルが本当にこの家で1人暮らしをしているのか疑ってしまうくらいだ」



 1人暮らしをしていくには十二分すぎる広さと完璧に整えられた設備に、メストが改めて感心していると、メストの脳裏に鍛錬初日に交わした会話が蘇る。



『本当に、名前が無いのですか?』

『えぇ、私は生まれた時から()()()()で……今も()()()()()この家に住んでいるのです』

『色々あって、ですか?』

『えぇ、色々あってです』



「『色々あって』ってか……それにしては、俺の知っている平民とは明らかに違う」



(レイピアや魔力を使って騎士と渡り合ったり魔物を倒していたりしている時点で、十分俺の知っている平民では無いとは思うが)


 本来、平民が持つことの無い武器と、平民が扱えるはずのない魔力。

 そのどちらも手にしているカミルは、メストの知っている平民とは大きく逸脱していた。



「それに、カミルの他人に対する態度も平民のそれとは一線を画すよな」



(カミルに出会ってから、巡回中に彼の仕事をしている姿を時折、遠くから見かけることがあるが……彼の他人に対する接し方は、まるで()()()()()()()()()()()ようなものだ)


 距離を取りつつも、相手を思いやっているカミルは常に相手を不快にさせないとても丁寧な接し方をしていた。

 その接し方は、まるで貴族を思わせるような洗練されたものだった。



「まぁ、こればっかりはカミルが話してくれるまで待つしかないか」



(出会った頃に比べればカミルとの距離は明らかに縮まった。けれど、彼自身まだ俺に話したくもないだろう。とはいえ正直、彼が俺に話してくれるかどうかは分からない。それでも……)



「俺は、少しでもカミルのことが()()()()



(なにせ、カミルは俺の師匠なんだから)


 木目調の天井に向かって手を伸ばしたメストの切実な願い。


 それが、カミルにとって最も避けたいことであることも知らずに。



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


2/11 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。


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