閑話 フェビル宛の手紙(前編)
皆さま、大変お待たせいたしました!
「それでは、行って参ります」
「あぁ、気をつけて行って来いよ」
駐屯地での訓練開始当日。
騎士団本部の前で第一陣を見届けたフェビルは一瞬悔しそうな顔をすると、すぐさま何事にも無かったような顔でそそくさとその場を去った。
そして、その足で自分専用の執務室に入ると、そのまま特注の椅子に深く腰を掛けて大きく息を吐いた。
グレアの予想通り、最後の最後で宰相閣下の横やりがあったが、ヴィルマン侯爵のご助力の甲斐あって、王都勤めの騎士達の腐った根性を叩き直す機会が出来た。
「王都で出来ることはやった。あとはグレアに任せるとしよう」
それに、第一陣にはメストやシトリンが率いる隊もいる。何だかんだ優秀なあいつらがいるなら、グレアの良い手助けになるだろう。
再び大きく息を吐いたフェビルは、机の一番の下の引き出しに魔力を注ぐと、そこから少しだけ色褪せた横長の白い封筒を取り出した。
何度見ても、この手紙を開ける時は緊張するな。
少しだけ眉間に皺を寄せたフェビルは、封筒から中身を取り出すと何度も見返した手紙に目を通した。
【フェビル・シュタール第二騎士団長殿
突然の手紙、大変失礼した。
そして、君に謝りたい。
『第二騎士団長のままでいい』という君の希望に添えぬまま、君を近衛騎士団長に任命してしまったことを。
そして、この手紙が届く頃には、私は君の知っている私では無くなっていることを。
現場主義の君にとって、このような酷で複雑な立場を強いてしまうのは悔やんでも悔やみきれない。だが、今の私には守る術がなくなってしまった……いや、やつに奪われてしまった。
全ては愚かな私は招いたこと。本当は、すぐにでも天に自らの命を差し出さなければならないのは、重々分かっている。
でも、私は滅びの一途を辿ろうとしている王国を見捨てることは出来ない。
私はこの王国のことを愛しているのだから。
こんな私のことを『身勝手だ』と罵っても思っても構わない。私のことを心底憎んでもいい。
私の身勝手のせいで、君から大事な家族と離れさせるなどを強いてしまったのだから。
それでも、私は国のことを想う1人の民としてあなたに……魔物退治で培った強い絆で結ばれた信頼出来る部下達がいるあなたに国の命運をかけたい。
本当に身勝手だと思う。
でも、今の私にはこれが精一杯なのだ。
本当に情けない。
どうか、私の……いや、この国に本当の『王国の盾』が戻り、この国に再び平穏に戻るまで民のために戦って欲しい。
身勝手なお願いばかりをして本当にすまなかった。
ペトロート王国国王 コンラーク・フォン・ペトロート】
「陛下……」
何かに堪えるように奥歯を噛み締めると、丁寧に手紙を便箋に戻した。
そして、そのまま引き出しに入れると再び魔力を流した。
魔力を流したこの引き出しだけは、俺の魔力だけにしか開かないように細工をしてある。だから、この引き出しの中にあるものは俺以外には見ることは出来ない。
ちなみに、このことはグレアにも言っていない。
「いや、言えるわけがないか」
俺にとってあいつら大切な部下達で、誰よりも失いたくないものだから……
力なく笑ったフェビルは、そっと窓から見える澄み渡る青空に視線を向けた。
「陛下も、俺宛の手紙をしたためている時、このような気持ちで書いていたのだろうか?」
こんなにも苦しい気持ちで、第二騎士団団長だった俺に国の命運を託してくれたのだろうか?
文面から溢れていた後悔の念を思い出したフェビルは、そっと立ち上がるとそのまま閉め切られた窓際に手を添えた。
「陛下、現場主義の俺があなた様のご期待に応えられるような働きが出来るか分かりません。ですが、俺は俺なりのやり方であなた様のご期待に添えられるような働きが出来るよう、誠心誠意勤めていくことを今一度誓います」
『団長!! 早馬で陛下から手紙が!!』
『なにっ!?』
あの日、グレアが血相を欠いて俺のところに届けてくれた手紙に託した願いを無下にしないように。
「それに、俺だって待っていますよ……本当の『王国の盾』の帰還を」
だって俺は、あの人のお陰で今の地位にいるのだから。
「そのために、俺は奴の魔法を無効化する腕輪を身につけ、家族を妻の実家のある帝国に逃れさせ、部下を奴の人質に取られた状態であの方の作戦に協力している」
そう口にしたフェビルは、右手首にある銀色の腕輪に視線を落とすと、今の立場に立つきっかけをくれた偉大な恩人との出会いを思い返した。
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3/24 加筆修正しました。よろしくお願いいたします。