第62話 何のために身につける?
「私の知りうる回避技を身につけたとして、あなた様はそれを何に使われるのでしょうか?」
「あっ」
(そういえば、彼にそのことを言うのを忘れていた!)
本当ならば弟子入りを申し出る際に言うべきことだったが、木こりと剣を交えられることに珍しく舞い上がって言っていなかったことを今になって思い出したメストは申し訳なさそうに顔を俯かせる。
それ見た木こりは、僅かに目を細める。
(彼が私に『弟子入り』を懇願してきた時、私は『どうして私の知りうる回避技を身につけようと思ったのか?』と思った。魔物討伐の時、彼が率先して魔物を葬っていたのを視界の端で捉えていたから尚更)
「先程、手合わせをさせていただいた限りは、あなた様の実力は私の回避技など不要なものだと感じました。だからこそ気になったのです。どうしてそこまでして、私から回避技を教えて欲しいのか? もし、冷やかし目的でしたら……」
「違う!!!!」
(俺は、そんな軽い気持ちで彼に弟子入りを懇願したんじゃない!!)
『冷やかし目的でしたら、弟子入りはお断りさせていただきます』と断りをいれようとした木こりの言葉を大声で遮り、顔を上げたメストの鬼気迫る表情を見て、木こりとシトリンは思わず息を呑む。
すると、2人の表情に気づいたメストが大きく頭を下げる。
「……いきなり大声を出してしまいすみませんでした」
「いえ、私も信念を持って手合わせを望まれたあなた様に、失礼なことを申し上げるところでした」
(危うく、剣一本で勝負した彼の高潔な誠意を土足で踏みにじるところだったわ)
騎士に対して冷たい態度をとる木こりの謝罪に、驚いたメストは軽く咳払いすると真剣な表情で再び頭を下げる。
「本当は、決闘が始まる前に弟子入りの理由を言うべきでした」
「構いません。私も審判役の騎士様に言われて思い出しましたから」
「そ、そうですか……」
無表情の木こりが淡々と答えると、少しだけ肩を落としたメストは気を取り直して背を正す。
「私は決して、冷やかし目的であなた様の類稀な回避技を身につけたいわけではありません」
「では、身につけてどうしたいのですか?」
「俺は……」
(これは、シトリンにも言ったことだが……)
表情を一切変えない木こりに、メストは回避技を身につけたい理由を打ち明ける。
「俺は、あなた様のような国民を守れる騎士になりたいのです」
◇◇◇◇◇
「……私のように、ですか?」
(どうして、私なの?)
予想外の答えに一瞬目を見開いた木こり。
そんな木こりに、メストは深く頷く。
「そうです。一昨日も言いましたが、俺はリースタの時に初めて、あなた様が敵を翻弄しつつ、も周囲の人達に被害が及ばないよう立ち回っている姿に一目惚れしました。そして、先の魔物討伐であなた様は、多くの魔物達の猛攻を躱しながら致命傷を与えている勇ましい姿に、俺もあなた様のように国民を守りたいと強く思ったのです」
「それは……」
アイスブルーの瞳で見つめる彼の噓偽りのない真っ直ぐな言葉に、僅かに頬を染めた木こりが小さく顔を俯かせると強く目を閉じて唇を噛み締める。
(ダメ、勘違いしては。彼が興味を持ったのは、愚かな騎士様達や魔物達と戦っている木こりだから。それだけ……それだけなの)
忘れていた高鳴る気持ちを無理矢理封じ込めた木こりは、小さく息を吐いていつもの無表情になると顔を上げ、いつもより少し冷たい声色で彼を突き放す。
「それでしたら、騎士様は私のようにならない方がよろしいかと」
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