第61話 気がつくメスト
「えっ、ちょっ!?」
糸が切れたように倒れ込んできたメストを慌てて受け止めた木こりは、穏やかに寝息を立てているメストのがっしりとした体格を仰向けの体勢に寝かせると彼の大きな頭を太ももの上に乗せた。
(どうやら、気を失ったみたいね。良かった。でも、この体勢ってもしかしなくても……)
メストの顔を覗き込んだ木こりは、普段の生真面目な表情とはかけ離れた幼さを残す寝顔に思わず頬を染める。
すると、審判役として2人から離れていたシトリンが慌てて駆け寄ってきた。
「メスト! だいじょ……ぶ?」
木こりに膝枕されて寝ているメストを見て、安堵の溜息をついたシトリンは木こりの隣に腰を下ろす。
「気を失っているようだね」
「そうですね」
無表情で淡々と答える木こりを見て、小さく笑みを零したシトリンはメストに視線を戻すと不思議そうに小首を傾げる。
「でも、どうしてメストが倒れたの?」
「さぁ、あまりにも突然でしたので私にも分かりません」
「そう、だよね……」
(彼がメストに何かをしたってことは……)
「言っておきますが、私は至って普通の平民ですので、この方に対してそういう類の魔法は使っていませんし使えませんから」
「うん、分かっているよ」
(まぁ、平民にしては色々と規格外で騎士に対しては冷酷な彼でも、魔法を一切使わず正々堂々と剣一本で勝ったメストに何かをするなんて思えないよね)
木こりから冷たい目を向けられても笑みを崩さなかったシトリンは、小さく溜息つくとゆっくりと立ち上がって辺りを見回す。
「とりあえず、どこか安全なところに移動しよう。昼間とはいえ、魔物が出ないとは限らないから」
「そうですね。それでしたら……」
「うっ、ううっ……」
「メスト!!」
呻き声を上げたメストに、木こりとシトリンが慌てて目を向ける。
すると、気を失って寝ていたメストの目がゆっくりと開いた。
「あれっ? 俺、フェイントをかけて、それで……」
ゆっくりと起き上がったメストに、シトリンは呆れたように溜息をつく。
「おはようメスト。全く、勝負がついた途端、いきなり倒れて本当に心配したんだから」
「そう、だったのか……すまん、心配をかけた。君にも迷惑をかけてしまった。本当にすまなかった」
「いえ、意識が戻っただけでも良かったです」
申し訳なさそうに2人に謝罪をしたメストは、額を抑えると意識が途切れる前のことを思い出そうした。
(勝負があった時、確か俺は何かを思い出そうとして……)
「あれっ? 思い出せない」
「どうしたの、メスト?」
(俺は一体、あの時に何を思い出そうした?)
気絶する直前の記憶が思い出せず、眉間に皺を寄せたメスト。
そんな彼は、隣に腰を下ろしたシトリンが心配そうな顔でこちらを見ていることに気づくと、慌てて首を横に振った。
「いや、何でもない。それよりも、少し寝たお陰で大分回復した」
「そう、それなら良かった」
安堵の笑みを浮かべるシトリンに、改めて『心配をかけた』と痛感したメストは『すまない』と小さく頭を下げると、後ろで黙っている木こりに体を向けた。
「改めて、心配をかけてしまいすみませんでした」
「いえ、大した怪我もなくて良かったです」
無表情で返事をする木こりに、メストはふと目が覚めた時のことを思い出す。
(そういえば俺、彼に膝枕されていたんだよな。でも、どうしてだろう? 俺と同じ男のはずなのに彼の膝枕はとても心地よかったし、何だか懐かしい感じが……)
まじまじと見てくるメストに、一瞬眉を顰めた木こりが小首を傾げているとシトリンが思い切り手を叩く。
「さて、決闘の勝敗はメストに軍配が上がったんだけど……確か、木こり君は『メストを弟子にするかは決闘をしてから判断する』って言っていたよね?」
「そうですね」
(そうだった。あの時に彼は『俺を弟子にするかどうかは決闘をした後に判断する』って言っていた)
手合わせ前の会話を思い出し、思わず生唾を飲み込んだメストは期待と不安が入り混じった表情で木こりを見つめる。
そんな彼を見た木こりは小さく手をあげる。
「そのこと1つ、伺いたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「な、何でしょうか?」
(全く、そんなに緊張しなくてもいいのに)
緊張で顔が強張るメストに一瞬笑みを浮かべた木こりは、無表情に戻すと淡々と問いかける。
「私の知りうる回避技を身につけたとして、あなた様はそれを何に使われるのでしょうか?」
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2/10 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。