表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/518

第6話 メストの判断

 メストの紳士的な優しい笑みに、少しだけ表情が和らいだ少年は、母親の手を握りながら証言した。



「そこのお兄ちゃんは、僕とママに剣を向けてきたおじさんから庇ってくれたんだよ!」

「おっ、おじ……」

「そうなのか?」



 メストは2人の当事者に視線を向けると、アルジムはダラダラと汗を垂れ流しながら首を大きく横に振る。



「ちっ、違います! 私はただ、そこにいる奴が、親子に剣を向けているところを目撃し……」

「嘘だ! おじさんは僕が鎧にぶつかった時、怖い顔で『土下座して謝れ!』って言っていた!」

「土下座だと!? 貴様、本当にそんなことを強要したんだな!!」

「ちっ、違いますって!」



(平民の女性から事のあらましを聞いていたが……こいつ、本当にそんなことを!!)


 騎士としてあるまじき愚行に、メストは忙しなく首を振るアルジムにつかつかと近寄ると、激しく問い詰め始めた。



「ってことだけど、少年の話って本当?」



 メストがアルジムを問い詰めている隙に、シトリンは優しい笑みで剣を下ろした木こりを問い質す。



「さぁ、あなた方が()()()()()()()()()みてはいかがですか? この街にいる騎士の皆様は、そうして()()()()()していますから」

「そう……」



(『信じたい方を信じて』ねぇ)


 無表情で淡々と答える木こりに、シトリンはそっと息を吐くと烈火のごとく問い詰めている第4部隊隊長に声をかける。





「メスト、そろそろ撤収しようか。後は、事情聴取だってあるからね」

「えっ!? 事情聴取があるのですか!?」



 驚きの声を上げる母親に、シトリンが優しく説明する。



「えぇ、このような()()()なってしまいましたから。近衛騎士団としては、ちゃんと調べないといけません」

「そっ、そうですか……」



(あれっ? どうしてそんな表情をしているの? 『事情聴取』って言葉にも過剰に反応していたし……)


 僅かに顔を青くしながら視線を逸らしている母親に、シトリンが首を傾げているとメストが戻ってきた。



「おかえり、収穫はあった?」

「いいや、全然。とりあえず、騎士団に戻ってからじゃないと始まらないな」

「了解」



 酷く疲れたような顔をしたメストが大きく息を吐くと、すっかり怯えきっているアルジムに鋭い眼光を向ける。



「アルジム!」

「はっ、はい!!」



 メストに名前を呼ばれ、顔面蒼白のアルジムが姿勢を正して騎士としての綺麗な敬礼をする。



「貴様の行いが騎士としてあるまじき行為であることは明白だ。よって、貴様の愚行は団長と副団長に報告する。そして、処罰も団長と副団長に裁定していただく」

「だっ、団長ですか!?」



 メストの口から『団長』いう言葉が出た瞬間、顔面蒼白のアルジムの額から再び滝のような汗が流れ始めた。



「そうだ、隊を率いる者でしかない俺に、貴様の行き過ぎた行いを裁定するのは無理だからな。どうした、何か不都合か?」

「いっ、いえ! ただ、お忙しい団長と副団長に私のような一団員のことで時間を割いて頂かなくてもよろしいかと……」

「貴様こそ何を言っている? 王国騎士が無実の平民に剣を向けたのだぞ? それとも何か? 貴様は平民に対して簡単に刃を向けていいと思っているのか?」

「いっ、いえ……」



 視線を彷徨わせるアルジムに、目が笑っていないシトリンが追い打ちをかけた。



「それに、言ってなかったけど僕たち、実はここに来る前に状況の把握は済ませているんだ。だから、君の愚行はここに来る前に知っていたんだよね」

「だから、同じ騎士である私の話を聞いてくれなかったわけですね」

「はぁ? 何を言っている。お前の話は俺がちゃんと聞いただろが」

「でしたら、私の行いは騎士として正当なものであると理解していただけ……」

「そういうのは、処罰を決める団長と副団長に言ってね。あっ、でも団長と副団長ってこういうのかなり厳しいから、それ相応の覚悟を持って言った方が良いよ」



 シトリンの言葉で戦意喪失して膝から崩れ落ちたアルジムは、落とした大剣を拾って鞘に納めた。

 すると、周囲にいた騎士達にメストが指示を出した。



「悪いが貴様達にも一緒に来てもらう! アルジムと同じく、貴様達も平民に剣を向けたのだからな。そうと分かったら、アルジムを連れてさっさと騎士団に戻れ!」

「「「「「「はっ!!!!!!!」」」」」



 一斉に敬礼をした騎士達は放心状態になったアルジムを回収すると、無駄のない動きで人だかりを掻き分けると、そのまま騎士団本部へと戻った。



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


今日は2話分更新しますので、今夜もう1話更新します。お楽しみ!


12/31 加筆修正しました。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] メスト、冷静に状況を把握して、 身分や騎士に忖度する事無く、 的確な処罰を与えたところが良いですね。 しかしこれで無事に終わるのか? 先の展開が楽しみです!
[良い点] 木こりが騎士に立ち向かう 主役と敵の対比がはっきりしていました [気になる点] もうちょっとセリフを説明っぽくならないように 意識すると良いと思います
[良い点] アルジムに然るべき処罰が下りそうで良いですね。とても見苦しいところにざまぁみなさないとなりますね。ただ、アルジムに限ったことではないのが、この世界の悩ましいところですね。木こりの苦労が絶え…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ