第532話 《エクスプロージョン》!!
「ま、まさかあの野郎……!」
(古の魔法陣にあのバカでかい魔法を撃とうとしているのか!?)
2つの魔法陣を展開したロスペルの意図にようやく気づいたノルベルトは、顔を青ざめさせながら起き上がってきた傀儡達に黒色の魔力を注いで命じる。
「お前達! 空に浮いているあの野郎を殺せ!!」
焦った表情で怒号を上げたノルベルトの命に従い、傀儡達がロスペルに向かって魔法陣を展開する。
「そうはさせない!」
(あの子の邪魔は絶対にさせない!)
声を荒げたレクシャが片手剣を傀儡達に向ける。
その後ろで、ノルベルトの動きに気づいたリュシアンとフリージアが出入口から飛び出し、レクシャと同じように傀儡達に得物を向ける。
「「「《直接干渉》!」」」
3人の無効化魔法の使い手による同時詠唱で、傀儡達が展開していた魔法陣が瞬く間に消し去った。
(ありがとう、リュシアンにフリージア。後は……)
背後にいるリュシアンとメストに支えられているフリージアに目線を送ったレクシャは、ロスペルのいる遥か上空を見上げる。
(頼んだぞ、ロスペル)
父の切なる願いが届いたのか、横に杖を構えていたロスペルは杖を縦に構える。
すると、ロスペルの両サイドに現れた緑色と赤色の魔法陣が1つになった。
(今から放つ魔法は、全てを焼き尽くす火属性の超級魔法の《ファイヤインフェルノ》と、あらゆるものを風塵に帰す風属性の超級魔法の《ウィンドテンペスト》が合わさった複合魔法)
「その魔法は、この世界で初めて生み出された複合魔法であり、この世界の半分を破壊しかねない威力があるため、数多の複合魔法の中でも最も魔力を消費する魔法。そのため、複合魔法の中でも最も習得が困難な魔法であり、術者の命すらも奪いかねない危険な魔法と言われている魔法」
(そんな魔法をまさか使う羽目になるなんてね)
思わず苦笑いを零したロスペルは、一瞬の油断も命取りになる危険な魔法の制御を完璧にこなしながら銀色の杖をある方向に向ける。
それを見たノルベルトは思わず叫ぶ。
「や、やめろ! そこは、我が城と先祖が遺した魔法陣がある!」
ロスペルが杖を向けた先。
そこには大昔、当時の魔法師達が魔法を使う時に用いた巨大な古の魔法陣があり、ノルベルトが結界用の魔法陣を通して国民に改竄魔法にかける際に中継地点として使っていた。
また、その魔法陣の上には魔法陣を隠すように屋敷が建てられていた。
それが、現在インベック伯爵家が我が物顔で使っている、かつてのサザランス公爵家の屋敷だった。
(やっと、やっとこれで全てを取り返せる!)
ロスペルの脳裏に過る、あの日、家族と別れた時の光景。
そして、家族や使用人と暮らした思い出の詰まった屋敷が焼かれる瞬間。
(あの時の苦しみを、あの時の悲しみを、何度夢に見たことか!)
夢の中で、フリージアの泣き叫ぶ声を聞くたびに、別れる時に見た家族の悲痛な顔が出てくるたびに、目が覚めたロスペルの胸を何度も抉った。
そして、ノルベルトの改竄魔法により仲間達の記憶から自分の存在が消えた現実が、ロスペルの心を更に抉った。
レクシャの指示とはいえ、ロスペルにとって見習い魔法師の振りをしながら諜報活動をしている日々は『辛い』以外の何物でもなかった。
(毎日仲間達から向けられる蔑みのような視線。そして、弟子からゴミのような目を向けられながら雑用を任せられる日々。これがどれだけ僕の心を痛めたか!)
「でも、それももう終わりだ」
銀の杖を構えたロスペルが高らかに宣言する。
「ノルベルト・インベック!! 僕の全力の魔法で、僕から奪った全てを、僕らから奪った何もかもを返してもらう!!」
(名前も、家族も、友人も、仲間も、立場も、何もかも返してもらう!!)
今、コロッセオの上空にいるのは、常に冷静で団長と共にこの国の宮廷魔法師達を率いる魔法師ではない。
不条理に奪われたものを取り戻したいと切実に願う男だ。
「や、やめろ――!!」
コロッセオに響くノルベルトの悲痛な叫び声を振り払うかのように、ロスペルは銀色の杖に今までために溜め込んだ憎しみや悔しさの感情を込め、古から伝わる巨大魔法の名前を叫ぶ。
「火属性と風属性の超級複合魔法、《エクスプロージョン》!!」
その瞬間、『稀代の天才魔法師』と呼ばれる男の本気の魔法により、この国に残された最後の魔法陣は、屋敷と共に轟音の中で跡形もなく消え去った。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
『ロスペルにエクスプロージョンを撃たせたい!』という前々から思っていた願望がついに実現しました!
これで、この国はノルベルトの呪縛から解放されたのか!?
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)