第526話 ダリアとの決着(前編)
フェビルとロスペルが各々、部下と上司を止めていた頃、カトレア・ラピス・シトリンの3人はノルベルトの傀儡と化したダリアと対峙していた。
「3対1なんて正直、魔物以外にはしたくないんだけど」
「安心してください。今のあの女は魔物と同じくらい凶暴ですから」
「ハハッ、そうだね」
(だったら、遠慮なくミアを傷つけたお返しが出来るね)
乾いた笑いを漏らすシトリンが静かに得物を構えた時、カトレアが2人の騎士に指示を出す。
「ラピスはあの女の魔法を無効化して。私は、あの女にガンガン魔法を叩きつけるわ」
「分かった」
「シトリン様は……」
「遊撃隊として動けばいいかな?」
「はい! よろしくお願いします!」
「了解♪」
(『シトリン様はオフェンスもディフェンスも出来る』って随分前にラピスから聞いたことがあるから、状況に応じて動いて欲しい)
「カトレア」
「何?」
「死ぬなよ」
「当たり前でしょ!」
(あの子のためにも、ここで死ぬわけにはいかないわ!)
砂埃が収まり、ダリアが両手を伸ばして赤い魔法陣を展開した瞬間で、カトレアとアイコンタクトを交わしたラピスとシトリンが動く。
「《ファイヤーブラスト》」
「《ウォーターショット》!」
ダリアの火属性の上級魔法がラピスの水属性の中級魔法と相打ちになり、周囲に水蒸気が立ち込める。
その隙に、ダリアのすぐ傍に駆け寄ったシトリンは、カトレアと同じタイミングで魔法を放つ。
「《ウィンドカッター》!」
(《ウィンドカッター》!)
シトリンの風の刃とカトレアの無詠唱で放たれた風の刃がダリアを捉える。
だが、2つの刃に気づいたダリアが、すぐさま赤い魔法陣を展開する。
「《ファイヤーカッター》!」
「「っ!」」
シトリンとカトレアの放った風の刃は、ダリアの放った火の刃に打ち消された。
(嘘!? あの時、確かにダリアの意識はラピスに向いていた。なのに、どうして分かった!?)
ダリアの人間離れした反応にカトレアが呆気に取られた刹那、カトレアに向かってダリアが再び赤い魔法陣が展開する。
「っ!? カトレア、危ない!」
「えっ、キャッ!」
慌てて駆けてきたラピスが、カトレアを抱き寄せ、そのまま地面に伏せた、ダリアの手から巨大な火球が放たれた。
「大丈夫か、カトレア?」
「あ、ありがとう……って、危ない!」
「っ!」
身を挺して守ってくれたラピスに礼を言ったカトレアは、遠くの方で飛んでくる火球に気づき、飛行魔法の付与された指輪型の魔道具に魔力を流そうとした。
その時、シトリンが風属性の中級魔法、《ウィンドトルネード》を放ち、火球の軌道を強引に逸らした。
「カトレア嬢、ラピス、大丈夫!?」
「はい、大丈夫です」
「シトリン様、ありがとうございます」
「いや、お礼を言うのはこっちだよ。ダリア嬢の攻撃を吹き飛ばしてくれてありがとう」
間一髪で守ってくれた駆け寄ってきたシトリンの言葉に、小さく笑みを零したカトレアは、ダリアから一旦距離を置こうと、先程使い損ねた魔道具を使い、3人一緒に宙に浮かび、そのまま観客席に隠れる。
「ありがとう、カトレア嬢」
「いえ、ここは一度、立て直しておくべきか」
「確かにそうだね」
そう言って、シトリンが観客席から顔を覗こうした瞬間、シトリンめがけて火球が飛んできて、咄嗟に身を屈める。
「副隊長!」
「大丈夫だよ、どこも怪我していないから」
心配するラピスを安心させるように優しく微笑んだシトリンは、壁越しに攻撃が飛んできた方を睨みつける。
「とはいえ、いつまでもここにいるわけにはいかないぬ」
「そうですね。大方、ノルベルトの改竄魔法の影響で常人離れした動きが出来たのでしょう」
「加えて、無詠唱で上級魔法を放つことが出来る。本当、改竄魔法って厄介な魔法ね」
「そうだな」
「だとしたら、さっきと同じ攻撃をしても同じ結果になるね」
「そう、ですね……」
静かに顔を俯かせたカトレアは思案を巡らせる。
(魔力枯渇を狙ったとしても、ノルベルトが生きている限りそれは無理。だとしたら、どうやって無力化すればいいの?)
ダリアを無力化してたくても出来ない状況に、カトレアが思わず下唇を噛んだ時、ふとダリアの攻撃が火属性しか使っていないことに気づく。
(そう言えば、改竄魔法は相手の記憶を改竄出来ても、相手の持つ能力自体を改竄することは出来なかったわね)
随分前にロスペルから聞いた話を思い出したその時、コロッセオの外から何かが爆発する音が聞えてきた。
「な、何だ!?」
「っ!?」
(この魔力、もしかしなくても師匠の魔力! それも、複合魔法を使った時に出る膨大で複雑な魔力だわ!)
突然の爆音にラピスとシトリンが驚く中、風に乗って流れてきた師匠の魔力を感じ取ったカトレアは、状況を打開する作戦を思いつく。
「そうよ、単体での攻撃が通用しないなら、複数にすれば良いじゃない!」
(師匠ほどじゃないけど、私だって……!)
「カトレア?」
「だけど、そうなったらラピスとシトリン様が……」
カトレアが難しい顔をした時、カトレアの手をラピスが優しく包み込む。
「ラピス?」
「カトレア。俺はお前の騎士だ。だから、俺のことを盾でも矛でも使え」
「でも……!」
「大丈夫だ。俺はお前と一緒になるまでは死なない」
「っ!」
ラピスの瞳と言葉に射貫かれ、カトレアが胸をときめかせると、それを隣で見ていたシトリンが優しく微笑みかける。
「カトレア嬢、僕もラピスも今の近衛騎士団ではそれなりに強い方だから安心して」
「シトリン様……」
シトリンの言葉に背中を押され、ギュッと杖を握ったカトレアは、深く息を吐くと2人を見た。
「では、今から作戦を伝えます」
「あぁ、頼む」
「うん、よろしく」
ニコリと笑みを浮かべたカトレアは、2人の騎士に作戦を伝える。
(見てなさい、ダリア。今度こそ、貴方を寝かせてあげる!)
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