第522話 国を統べる者として
レクシャの合図でフリージア達が行動を起こした頃、アリーナの出入口でジルベールは国王やティアーヌと共に戦況を見守っていた。
「父上」
「何だ?」
「私たちはここにいて良いのでしょうか?」
(この国を統べる者として、ここでただ見守っているだけでいいのだろうか?)
ノルベルトに奪われたものを取り戻すため、ある者は剣を振るい、ある者は魔法を放つ。
全てをかけて戦っている彼らに、ジルベールはただただここで見てことしか出来ないのが、途轍もなく歯がゆかった。
そんな息子の悔しそうな顔を見て、僅かに眉を顰めた国王はゆっくりとアリーナに視線を戻す。
「良いもなにも、我々が行ったところで、場をいたずらに混乱させるだけだ。それくらい、賢いお前なら分かっているはずだが」
「そう、ですよね……」
(分かっている。私たちが行ったところで、かえって足手まといになることくらい)
ノルベルトの目的は、ペトロート王国の乗っ取りを足掛けに、自身の改竄魔法で世界征服をすること。
そんな彼の頭の中では今、国王やジルベールはこの世にいないと思っている。
それが、実は2人とも生きているとノルベルトに知られれば、ノルベルトが王族を殺しにかかるのは必然で、レクシャ達はそちらに労力を割かなければならない。
その結果、レクシャ達に余計な負担をかけてしまい、最悪の場合、作戦失敗してノルベルトの思惑通りになってしまう。
今後の王国のためにも……なにより、今戦っているレクシャ達の今までの努力を無に帰さないためにも、ジルベールは2人とここで戦況を見守りしかなかった。
すると、国王が徐に本音を吐露する。
「本当は、私だってレクシャ達と一緒に戦いたい」
「父上?」
先程の言葉を覆すような言葉に、驚いたジルベールはそっと隣を見る。
そこには、普段威厳たっぷりにどっしりと構えている人物とは思えない、悔しそうに顔を歪めている国王がいた。
「本当なら、私だって国の長としてレクシャと共に戦い、この手で穏やかで平和だった頃を国に取り戻したい。それが、この国に出来る……いや、国民に出来るせめてもの罪滅ぼしだから」
「父上……」
『本当は戦いたかった』
それは、一国の主としての心からの本音であり懺悔だった。
己の甘さのせいで、ノルベルトの愚行を許してしまい、何の罪もない『国の宝』と呼ぶべき国民を危険に遭わせしまった。
その懺悔として、国王もレクシャ達と一緒に戦い、自らの手で国を取り戻したかった。
沸々と湧き上がる悔しさを堪えようと、きつく拳を握った国王は、深く息を吐くと真剣な眼差しを喧騒響き渡るアリーナに向ける。
「だが、王の役目は国のために命を賭して戦うことではなく、国に安明と繫栄にもたらすこと。ならば、私はここでお前と共にこの戦いを最後まで見届けなければならない」
(この国は今、300年前の悲劇を繰り返そうとしている。だがまだ、この国は他国に攻め入っていない)
今が唯一残された奇貨だからこそ、国王はジルベールと共にこの場でレクシャ達の戦いぶりを見守る。
それが、国を統べ、国に安明と繁栄をもたらす者が、愚者の暴走を止められなかったことに対しての罰であり、未来を託す者に授ける教訓なのだから。
「いいか、ジルベール。忘れるな。我々が己の欲に負け、国民から見捨てられた瞬間、滅国すると思え。そして、国を支えているのは国民の頑張りであり、我々王族は国民の頑張りの上に立っているだということを」
「分かっています、父上」
この国で最も大切にすべきは王族ではない。
この国を支えている国民全員だ。
そこに平民も貴族も関係ない。
この国を支えている全ての者が、この国の財産であり、大切にすべき者達である。
故に、王族は欲に溺れて権力を振りかざし、国民から見限られてはいけない。
その瞬間、自国は破滅の一途を辿るのだから。
「ジルベール、目に焼き付けろ。愚者を止められなかった愚かな王が起こした過ちを。その過ちのせいで、大勢の国民が苦しんだことを。そして、愚者を止めようと必死で戦う者達の姿を」
「……はい」
ノルベルトを止められなかったのは、レクシャ1人のせいではない。
この国で最も、彼の暴走を未然に止められるはずだった王も、レクシャと同じ罪を背負うのだ。
国の長として君臨する父の重みのある言葉は、ジルベールの心に深く突き刺す。
(いずれ、僕は父上の後を引き継ぐ。ならば、この戦いを教訓にしなければならない。二度と同じ過ちが起きないように。そして、後世に伝えるために)
ギュッと拳を握りしめたジルベールは、アリーナで戦っている者達の無事を祈った。
その時、満身創痍のフリージアをお姫様抱っこしたメストが、リュシアンと共に出入口に戻ってきた。
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