第513話 複合魔法
耳をつんざく嗤い声をあげるノルベルトに、ロスペルは残念そうに肩をすくめる。
「確かに、我々の思惑がこうも簡単に破られたのはとても残念です」
「師匠……」
悲しそうに笑うロスペルを不安げに見つめるカトレア。
けれど、彼女の師匠はそれで杖を下ろすことはしなかった。
「ですから、少しだけ嫌がらせをしたいと思います」
「は?」
蔑むような視線を向けるノルベルトに、笑みを浮かべたままのロスペルは杖を横に構えると魔力を練り上げる。
すると、杖の両親に緑と黄色の魔法陣が現れた。
「なっ! これってまさか……!」
「えぇ、そのまさかですよ」
リュシアンの介抱していたラピスの驚く声に、笑みを深めたロスペルは銀色の杖を縦に持ち直す。
すると、杖の両端に現れた2つの魔法陣が1つに重なり、ノルベルトに向けられた。
「いきます。《ウインドサンダートルネード》!」
力強くロスペルが詠唱した瞬間、ノルベルト達を囲むように雷の交じり竜巻が吹き荒れた。
「うわっ! なんだこれ!……痛っ! お前達! なんとかしろ!!」
身動きがとれない程の強烈な竜巻に、声を荒げたノルベルトが背後にいる駒に命令する。
そんな彼の滑稽な姿を見て、満足げに笑ったロスペルに、カトレアが目を輝かせながら話しかける。
「師匠! これってもしかして……!」
「風属性の中級魔法と雷属性の中級魔法の複合魔法です。これでしばらくは彼らの足止めが出来ます」
複合魔法。それは、2つ以上の属性魔法を掛け合わせ、1つの魔法として発動する強力な魔法で、魔法への深い知識と膨大な魔力が必要不可欠である。
そのため、数多いる魔法師の中でも、複合魔法を習得している魔法師はごくわずかしかいない。
ちなみに、ペトロート王国の宮廷魔法師団で複合魔法を扱えるのは、ロスペルとカトレアだけである。
(さすが師匠! 2属性の複合魔法を『嫌がらせ』と言って発動させちゃうなんて!)
本来、魔物の討伐用に使われる強力な魔法を足止めに使ってしまうロスペルの容赦の無さと躊躇いの無さに、カトレアが尊敬の念を抱く。
すると、小さく息を吐いたロスペルがカトレアに目を向ける。
「さぁ、今のうちにリュシアン兄さんとシトリンさんにラピス君を連れて、陛下のところに行ってください」
「あっ、そうでした! 分かりました、師匠!」
(師匠の魔法に見蕩れすぎて、すっかり忘れてしまっていたわ)
僅かに目を細めたロスペルを見て、僅かに肩を震わせたカトレアは、慌ててリュシアンに声をかける。
「リュシアン様、立てますか?」
「あぁ、もちろんだ」
「カトレア、俺がリュシアン様の介抱をするから、お前は副隊長と一緒に俺たちの護衛をして欲しい」
「分かったわ」
ふらふらのリュシアンの腕を自分の肩に回したラピスは、リュシアンと一緒に立ち上がる。
それを見届けたカトレアは、呆然としているシトリンに声をかける。
「シトリン様、行きましょう」
だが、シトリンはフェビルの背中を見つめたまま返事をしない。
「シトリン様!!」
すると、大剣を構えたフェビルが背中越しにシトリンに指示を出す。
「シトリン、行け」
「ですが団長……」
「命令だ」
笑みを潜めたフェビルからの『命令』に、僅かに顔を歪めたシトリンは、小さく息を吐くと小さく頷く。
「……分かりました。団長、ご武運を」
「あぁ、任せろ!」
フェビルの見慣れた眩しい笑顔に、思わず苦笑したシトリンは、カトレア達の方を向く。
「ごめん、2人とも、待たせてちゃって」
「いえ、それよりも……」
「うん、リュシアンを連れて陛下のところに行こう」
「「はい!!」」
その時、ロスペルの起こした竜巻が瞬く間に消え去った。
「なっ!!」
「…………」
(嘘でしょ!? 師匠の複合魔法を打ち消されるなんて!)
驚くカトレアとは反対に、無表情で杖を構え続けるロスペル。
すると、竜巻から無傷で出てきたノルベルトが得意げに声を上げた。
「ギャハハハハッ!! この程度のちゃちな魔法で足止め出来ると思ったら大間違いだ!」
「『ちゃちな魔法』ですか」
(少なくともその魔法を打ち破ったのは、あなたではなく団長だよね)
得意げな笑みを浮かべるノルベルトの背後にいる、目にハイライトを失ったルベルをロスペルが睨みつけたその時、アリーナの出入り口から1人の女性が現れた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
ロスペルの新しい魔法を披露したところで次回、第8章終幕です!
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