第501話 シトリンの願い
※メスト視点です。
――時は、俺たちが旧都に向かっているところまで遡る。
「……では、僕たちは今まで、ノルベルトの改竄魔法にかけられていたというわけですか?」
「そういうことだ」
「…………」
コロッセオに向かう馬車の中、解呪魔法から目が覚めたシトリンは、サザランス公爵様様からこの国の今の姿を聞いて言葉を失う。
その隣で、シトリンより先に話を聞いていた俺は、怒りと後悔に苛まれていた。
今から7年前。インベック家を掌握したノルベルトから脅され、公爵様は家族と引き換えに地位をノルベルトに明け渡した。
だが、それで満足するノルベルトではないと分かっていた公爵様は、家族や使用人達を急いで屋敷から離れさせると、宮廷魔法師副団長ロスペル君に高度な幻想魔法を屋敷にかけさせ、あたかもサザランス公爵邸に家族や使用人全員いるように見せた。
そうすることで、公爵邸を襲撃しに来たノルベルトの刺客達に『サザランス公爵家は、自分達の攻撃によって全員は死んだ』と思わせ、自分たちは陰に隠れて生き延びられると踏んだからだ。
もちろん、そのための事前準備は抜かりなくしなければならないが。
結果、公爵様の予想は的中し、公爵邸を襲撃しに来た刺客達がサザランス公爵家の者を追いかける事態にはならなかった。
そして、ペトロート王国に改竄魔法をかけさせたノルベルトは、サザランス公爵家の手柄を全てをインベック伯爵家にし、国民の記憶からサザランス公爵家と第一王子を消した。
……無効化魔法が付与された魔道具を持つごく一部の国民を除いて。
「……ちなみに、ジャグロット伯爵家は?」
「残念だけど、ノルベルトの影響下にいる。本当は解呪魔法で解放してあげたいけど……ごめん、改竄前の記憶を持っている者達が多いと、ノルベルトが私たちの存在に気づいてしまうと思うから」
「そう、ですか」
沈痛な表情のシトリンと、こみ上げてくる怒りと後悔を抑えようと黙って外を見ている俺を見て、公爵様が深々と頭を下げる。
「シトリン君に、メスト君。私が不甲斐ないばかりに、君たちの大切な記憶を改竄させるような真似をして本当にすまなかった」
「さ、宰相閣下! 頭をお上げください!」
シトリンが慌てて公爵様の頭を上げさせようと腰を上げる。
本当は、俺もシトリンと同じように腰を上げるべきなのだろうが……なぜか体が動かない。
すると、サザランス公爵様の隣にいた国王陛下も深々と頭を下げる。
「私からも謝罪させてくれ。国の長が、一貴族の横暴を許してしまったこと、それにより君たちの大切な記憶を改竄させたこと、本当に申し訳なかった」
「へ、陛下まで!」
国のトップ2人が一介の騎士2人に頭を下げるという状況は、怒りと後悔に支配されていた俺の頭と心を冷静にさせてくれた。
そんな俺の隣で、何かを悟ったシトリンは、深くため息をつくとゆっくり腰を下ろして公爵様に冷たい視線を向ける。
「正直、僕は家族と引き換えに、俺や俺の大切な人達……ひいては、この国そのものを愚か者に差し出したあなたを許せません」
「あぁ、そうだと思う」
「……ですが」
拳を握って震えている公爵様の手を見たシトリンは、再び立ち上がると公爵様の手を優しく包んだ。
「あなた様が本気で悔やんで、この国や家族をノルベルトの手から取り戻そうと長い間、水面下で奔走していたのは、今までの話を聞いて理解しました」
「シトリン君……」
顔を上げたサザランス公爵様に、シトリンが微笑みかける。
「ですから、ノルベルトから全てを取り返したら、生涯をかけて陛下と共にこの国をもっと良くして下さい。それが、僕が思うあなた様に対しての罰であり、あなた様に願う唯一のことです」
シトリンの騎士としての……いや、1国民としての願いに、大きく目を見開いた公爵様が真剣な表情で小さく頷く。
「…………分かった。全てを取り戻した時、私は生涯を懸け、この国の民の幸福と発展のために力を尽くそう」
公爵様の決意に満足気に笑ったシトリンは、そのまま俺の方に視線を移す。
「それで、メストは何か言いたいことはある? その様子だと、まだ言えてないんじゃない?」
シトリンから話を振られ、公爵様から真剣な表情で見つめられた俺は、俺は静かに口を開く。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、引き続きメスト視点のお話です!(笑)
真実を聞いて愕然とするシトリンは、レクシャに未来を託す決断をする。
一方、メストは......
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