第497話 俺と彼女の出会い③
サザランス公爵領の祭りで彼女を見た数日後。
王家主催のお茶会に招待された俺は、父上と共に会場である王城内の庭園を訪れた。
そこで俺は、再び彼女を見かけたのだ。
「あっ」
国王陛下への挨拶のため列に並んでいた時、俺は列の前の方で、サザランス公爵様と並んでいる銀髪の少女が視界に映った。
あの銀髪の女の子、確かリュシアンの妹だったはず。
すると、挨拶を済ませたらしい女の子は、公爵様と共に列から離れるとそのまま俺の横を通った。
その時、少女が俺を見て驚いていた気がした。
「どうしたメスト?」
「いえ、何でもありません」
とりあえず、彼女が来ていたみたいだから、陛下への挨拶を済ませたら探しに行ってみよう。
そう思い、陛下への挨拶を済ませた時、チャンスが訪れた。
「サザランス公爵様、いらしていたのですかね?」
「おぉ! ディロイス! お前も来ていたのか!」
「っ!」
父上が挨拶のために公爵様に声をかけた時、綺麗なドレスに身を包んでこちらを見ていた少女が、俺を見て可愛らしく頬を染めた。
おぉ、あの時の威勢の良い姿も素敵だったが、貴族令嬢らしい姿も素敵だな。
淑女らしい彼女に目を奪われているたて、父上が呆れたように公爵様を咎める。
「公爵様、こちらは公の場なのですからそちらの方で呼ぶのは……」
「あぁ、すまなかった。ヴィルマン侯爵殿」
「ヴィルマン侯爵様?」
公爵様の話を聞いていたらしい少女は、再び俺を見ると可愛らしく小首を傾げる。
どうやら、この少女は俺のことを知らないらしい。
まぁ、無理もないな。
なにせ、彼女が生まれたからサザランス公爵家に遊びに行ったことは一度もないから。
祭りで彼女を見かけた後、少しだけ祭りを楽しんでそのまま馬車で帰ったし。
すると、公爵様に呆れていた父上が少女に視線を映した。
「ところで公爵様。そちらにいらっしゃる可愛らしいお嬢様はもしかして……?」
「あぁ、そうだった。フリージア、ご挨拶を」
「は、はい!」
父親に背中を押された少女は、貴族令嬢らしい笑みを浮かべると綺麗なカーテシーを披露する。
「お初にお目にかかります、ヴィルマン侯爵様にヴィルマン侯爵令息様。サザランス公爵家が娘、フリージア・サザランスでございます」
宰相家令嬢に相応しい洗練された挨拶に、父上から感嘆の声が上がる。
「おぉ、この幼さでこのような丁寧な挨拶が出来るとは! さすが、サザランス公爵家の娘さんですね!」
「恐れ入ります」
確かに、まだあどけなさが残っている顔立ちで、大人顔負けの美しいカーテシーが出来るとは!
さすが宰相家令嬢と言ったところだろうか。
少女の挨拶に言葉を失っていると、俺を見た父上がニヤリと笑った。
「こうなったら、メストも負けてはいられないな」
父上の言葉に思わず眉を顰める。
「父上、こういうのは勝ち負けはありませんよ」
全く、こういうところは直して欲しい。
「だが、自分より年下の子が貴族らしい挨拶を出来るのは悔しいとは思わないのか?」
「まぁ、悔しくないと言えば嘘になりますが……ですが、彼女は公爵令嬢ですから、物心ついた時からそういう教育を受けていたかもしれません」
「それを言うなら、お前だって侯爵令息として幼い頃から教育を受けているじゃないか」
「そうですけど……はぁ、仕方ありません」
面白がる父上に小さくため息を俺は、家庭教師から学んだことを思い出し、少女に向かって微笑むと胸に手を当てて頭を下げた。
「ご無沙汰しております、サザランス公爵様。そして、お初にお目にかかります、サザランス公爵令嬢。ヴィルマン侯爵家子息、メスト・ヴィルマンと申します」
「メスト、様……」
頬を赤らめながら俺の名前を口にする少女の声に、俺は胸の高鳴りを感じた。
そんな俺を見ていたサザランス公爵様が、優しく微笑むと娘にある提案をする。
「フリージア。今度、ヴィルマン侯爵令息に屋敷に来てもらうか?」
「えっ!? ですが、婚約者がいらっしゃったら申し訳ありませんし……」
申し訳なさそうに眉を下げる少女に、父上がすかさず助け舟を出す。
「ハハッ、それならご安心を。この子はまだ婚約者がいませんから。そうだよな、メスト?」
「そうですね」
それにしても、初めて会った俺に気を遣う姿。本当に良い子だ。
彼女が自分の婚約者に出来たらどれだけ……って、いかんいかん! こういうのは、少しずつ距離を縮めていかなければ!
「メスト君はどうだい?」
「えぇ、私は構いませんよ」
むしろ、喜んで行きますとも!
「っ!……では、お言葉に甘えて」
よし、彼女と2人きりで話が出来る!
そして数日後、俺は王都にあるサザランス公爵邸に招かれた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
今回は第447話『彼と私の出会い②』のメスト視点となります!
フリージアを知っていたメストの想いは止まらない!(笑)
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