第493話 宰相家夫人
「さて、みんな行ったし、さっさと片付けちゃいましょう」
そう言って、ティアーヌはカルミアから風の牢獄を出した。
その瞬間、カルミアがティアーヌに向かっつ無詠唱で火属性の中級魔法を放った。
(ギャハハハハッ! これであのクソ女をあの行きよ!)
「本当に浅はかよね、あなたは」
「っ!」
小さく溜息をついたカルミアは、マジックバックから扇子を取り出すと風属性の初級魔法を放ち、カルミアの放った魔法を相殺した。
「ど、どうして……!」
まさか魔法が相殺されるとは思わず、唖然とするカルミアに、ティアーヌが深く溜息をつく。
「だからさっきも言ったじゃない。あなたの魔法がしょぼいからよ」
「しょ、しょぼいって! わ、私は宰相夫人なのよ!」
「は? 何言っているのよ。あなたは、伯爵夫人じゃない」
(なるほど、これが改竄魔法の効果ね。他人の認識を変える魔法なんて……本当、嫌な魔法だこと)
すると、ティアーヌを睨みつけたカルミアが唐突にを罵り始める。
「そもそも、どうしたあんたが生きているのよ! あんたは、私の夫が放った優秀な刺客たちに殺されたんじゃないの!?」
カルミラの言葉に、ティアーヌは思わず吹き出す。
「な、なにがおかしいのよ!!」
「『おかしい』もなにも……そんなの、あんたの夫より、私の夫の方が遥かに優秀だからに決まっているからでしょ?」
「っ!?」
(どうやら、この女の頭の軽さだけは改竄魔法の影響は受けなかったみたいね)
学生時代の同級生であるティアーヌとカルミアは、学園では有名な犬猿の仲だった。
成績は大したこともないの上に、婚約者の有無に関係なく見目麗しい貴族令息に迫り、一夜の悪戯をして貴族令嬢達から顰蹙を買っていた男爵令嬢のカルミア。
対して、成績優秀で品行方正、貴族令嬢の鏡のような淑女の振る舞いで周囲の貴族令嬢や令息達から信頼を得ていた侯爵令嬢のティアーヌ。
そんな2人は学生時代、顔をつき合わせれば何かと嫌味を言いあっていた。
主に、ティアーヌがカルミアを注意していただけなのだが。
そんな自分より爵位が上のティアーヌから毎回注意を受けていたカルミアは、彼女のことが心底気に入らなかった。
そして、その険悪な関係は学園を卒業した今でも続いていた。
ティアーヌに言い負かされ、顔を歪ませるカルミラだったが、ティアーヌのメイド服姿を見て嫌な笑みを零す。
「それにしても、平民になっても生きているなんて……あんた、貴族としてのプライドは無いのかしら? 宰相夫人になった私だったら、恥ずかしくて死んでしまうわ」
カルミラからの容赦ない嘲笑に、ティアーヌも負けじと侮蔑を含んだ嘲笑で言い返す。
「私だって、あなたのような高級娼婦にはなりたくないわ。貴族としてあまりにもみすぼらしいから」
淑女の笑みを浮かべながら罵り合うカルミアとティアーヌ。
2人の間に刹那の沈黙が降りた瞬間、眉を吊り上げたカルミアが、火属性の魔法陣を展開し、ティアーヌに向かって再び放つ。
「《ファイヤーウィップ》!」
火の鞭を放ったカルミアに、風魔法を纏わせたティアーヌが距離を取る。
その瞬間、一気に距離を詰めたカルミアが火の鞭を縦横無尽に放つ。
「アハハハハハッ! いくらあんたでも火の鞭は相殺出来ないわよね!?」
(それも、あんたより鞭を使うのが上手い私のむちなら尚更!)
嬉々とした表情で火の鞭を振るうカルミアに対し、冷静に彼女の鞭を躱しているティアーヌが小さく笑みを浮かべる。
「それにしては、私に一切当たっていないけれど」
「チッ!」
(さて、そろそろ終わりにしないと。孤軍奮闘で頑張っている娘を迎えに行かないといけないし)
大きく跳躍したティアーヌを見て、下卑た笑みを浮かべたカルミアが、火の鞭を持っている手とは反対の手で赤色の魔法陣を展開する。
「アハハハハハッ! これであんたも終わりよ! 《ファイヤーウォール》!!」
ティアーヌの頭上に現れた巨大な炎の壁が、勢いよくティアーヌを地面へ押しつぶす。
「ギャハハハハハッ! これであの女もおしまい……」
「って、そんなわけないでしょうが!!」
「グハッ!」
壁が落ちてくる寸前に壁が出てきた直前、自身に風を纏わせたティアーヌは、壁の上に乗って地面に降りる。
そして、カルミアが高笑いをした瞬間、風を纏わせた鞭で彼女のお腹に一撃を入れ、意識を刈り取った。
「本当、相変わらず爪の甘い女ね」
意識を失って倒れているカルミラに、小さく溜息をついたティアーヌは、ロスペルが持たせてくれた魔道具で彼女の体を拘束すると、メスト達の後を追うようにコロッセオの中へと入った。
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