第488話 ロスペルの本音
ロスペルが解呪魔法をかけた瞬間、激しい頭痛に襲われたメストとシトリンは、国王の計らいで、国王が乗っていた馬車にジルベールと一緒に同乗させてもらった。
その後、通信魔法でインホルトに連絡したレクシャは、ロスペルに捕らえた騎士達とリアンを転移魔法で隠れ家の地下にある牢屋に転移させるよう指示した。
それが終わると、2人の騎士が抜けた穴はカトレアとラピスが埋め、サザランス夫妻やディロイスも護衛に加わると、一行はコロッセオに向けて出発した。
「メストのやつ、スゲーな。気絶してもおかしくない頭痛だったのに、気絶しなかったぞ」
御者を務めていた騎士が傀儡になったことで、空いてしまった御者役を急遽務めることになったリュシアンは、手網を引きながら隣に座っているロスペルに話しかける。
「そうだね。さすが、我が妹の婚約者様。とはいえ、少しは心の整理が必要みたいだけど」
「まぁ、あの様子だとそうだろうな」
(なにせ、この世の終わりみたいな顔をしていたのだから)
解呪魔法により全てを思い出して絶望したメストがフェビルに無理矢理馬車に乗せられたことを思い出し、リュシアンが僅かに眉を顰める。
そして、リュシアンはメストと一緒に解呪魔法をかけられ、もれなく気絶したシトリンについて問い質す。
「それで、シトリンはどのくらいで起きてくるんだ?」
「恐らく、コロッセオに着く頃には目が覚めていると思う」
「意外と早いな」
「メストほどじゃないけど、シトリンもフリージアの無効化魔法に触れる機会があったみたいだから」
「そういうことか」
(そう言えば、随分前に『シトリンも何度かフリージアに会ったことがある』って父さんから聞いたな)
ロスペルの話で納得したリュシアンは、隣に向けていた視線を前に戻す。
すると、銀色の杖に視線を落としたロスペルが兄の名前を呼ぶ。
「リュシアン兄さん」
「何だ?」
手綱を持って前を向いているリュシアンに、ロスペルは2人に解呪魔法をかける時に思い出したことを話す。
「僕ね、本当は無効化魔法父上や兄さん……そして、フリージアと同じ無効化魔法が欲しかった。それがダメなら無効化魔法の呪縛を解きたかったんだ」
それは、幼い頃のロスペルが抱いていた叶わぬ願いだった。
「どうした? いきなり」
初めて聞いた話に驚いたリュシアンは、少しだけ重くなった空気を変えようとおどけたように笑って問い質す。
そんな兄の優しい気遣いに、笑みを零したロスペルは話を続ける。
「さっき、解呪魔法をかけた時に思い出した。どうして僕が魔法を極めようと思ったかを。そして、解呪魔法を習得しようと思ったかも」
リュシアンの2つ下であるロスペルは幼い頃、サザランス公爵家の人間として、父レクシャやリュシアンのように無効化魔法を使いたいと思っていた。
しかし、5歳の時に教会で受けた魔力判定で、無効化魔法ではなく母親と同じ風属性魔法が発現したことを知ってしまった。
そのことを両親やリュシアン、そして使用人達も誰もロスペルを責めなかった。
けれど、幼い頃から抱いていた夢が打ち砕かれたロスペルには、絶望のあまり、しばらくの間、家族とあまり話さなかった。
そうして3年の月日が流れ、ようやく『無効化魔法に適性がなかった』という現実を受け入れ、家族ともそれなりに話せるようになった頃、ロスペルのもとにフリージアが魔力判定で無効化魔法が発現したという知らせが届いた。
それは、ロスペルを再び絶望に叩き落とすには十分だった。
「サザランス公爵家で生まれたことにも関わらず、僕だけが無効化魔法が使えない。そのことがとても悔しくて寂しかった」
当時のことを思い出したのか、銀色の杖を握り締めるロスペル。
それを一瞥したリュシアンは静かに諭す。
「だがそれは、お前に限った話じゃない。サザランス公爵家の長い歴史を見れば、お前のように無効化魔法ではなく、属性魔法に適性があった奴だってたくさんいる。それに、サザランスじゃなくても無効化魔法が使える奴だっている」
(例えば、サザランスや帝国の親戚から嫁いだ奴の子どもとか)
「うん。そうやって、あの時も僕を慰めてくれたね」
「あの時?」
「そう、フリージアに無効化魔法が発現したことを知って、僕が不貞腐れていた時だよ」
それは、フリージアが魔力判定を受けてしばらく経った頃。
自分だけ無効化魔法が発現しなかった事実を再び突きつけられたロスペルが、屋敷の庭で1人、本を読みながら魔法の鍛錬をしていた時のこと。
リュシアンと一緒に剣の鍛錬をしていたフリージアがロスペルに駆け寄ってきたのだ。
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