第477話 この国のために
「殿下。あなた様は作戦が成功し、私からの連絡が来るまでヴィルマン侯爵家の屋敷で大人しくしていただくはずでしたが?」
ジルベールの突然の来訪に、レクシャは思わず眉を顰める。
今回の作戦、レクシャが懸念していた1つとして『ジルベールが生きていることがノルベルトに知られること』だった。
(ノルベルトがフリージアを標的にした時点で、奴がサザランス公爵家全員生きていることに気づくのは時間の問題だと思った。だが、殿下が生きていることだけは、奴がまだ知らないことはロスペルとインホルトからの調べで分かっていた)
幸い、ノルベルトは木こりの正体がフリージア・サザランスだったということには気づいたが、サザランス公爵家全員が生きているという可能性には気づかなかった。
それでも、レクシャはノルベルトを自分の手で捕えるまで、ジルベールにはヴィルマン侯爵家で大人しくてもらうつもりだった。
そしてそれは、ジルベールにもヴィルマン侯爵を通して伝えていたはずだった。
そんな彼が今、リュシアンやディロイスと一緒に屋敷に来ていることに、レクシャはただただ不安でしかなかった。
静かに問い質すレクシャの気迫に、『殿下』という言葉に反応して跪いた人間達が息を呑む中、ジルベールは申し訳なさそうな顔でここに来た理由を謝罪と共に説明する。
「すまない、切れ者宰相殿。あなたが、私のことを考えて侯爵家にいるようにお願いしたことは重々分かっている」
「でしたら……!」
「だが、僕はいずれ、父上の意志を受け継ぎ、この国を引っ張る立場になる。ならば、僕は未来の国王のとして……なにより、尊敬する父上の息子として、この手でノルベルトからこの国を救いたいんだ」
ヴィルマン侯爵で借りたであろう銀色の鎧に身を包んだその姿は、次代の王に相応しい威厳に満ちた頼りがいのある凛々しい姿で、周りにいる者を思わず跪かせるほどの風格を漂わせていた。
そんなジルベールの紺碧の瞳に宿る揺るがない意思に、思わずレクシャが僅かに眉を顰めて下唇を噛んだ時、真剣な表情をしていたジルベールが突然、愛好を崩す。
「とは言って、僕がこの国の王になれるかどうかは、国民次第なんだけどね」
「っ!」
その時、レクシャの脳裏に在りし日の記憶が蘇る。
『レクシャ、私はいずれこの国の王になる。そしたら私は、我が国に住む民や我が国を訪れた人達が『住んで良かった。来て良かった』と思えるように全力を尽くす。それが、この国の繁栄に繋がると思うから』
『はい。人望があり清濁併せ吞むということを理解されているあなた様が、そのような民を思う心優しい王になられたら、この国の民の幸せも繁栄は約束されたものでしょう』
『そうか。といっても、私の想いを民が受け入れてくれるかどうか分からないが』
学園の中庭で照れ臭そうに頬を掻きながらレクシャに話したのは現国王だった。
現国王がまだ王太子だった頃、昼下がりの学園の中庭で、同級生であり友人であり未来の臣下であるレクシャに、若かりし頃の国王は照れくさそうに頬を掻きながら国王としての在り方を話していた。
そんな未来を見ていた頃の彼と、目の前で照れ臭そうに頬を掻きながら話すジルベールが重なり、再び目を見開いたレクシャは思わず笑みを零す。
(まさか、あなた様からお父上と同じ言葉を言われるとは思いも寄りませんでした)
ジルベールの言葉に感慨深く思いつつ、静かに片膝をつくと深く頭を垂れる。
「殿下のご意思、しかと受け止めました。なれば、我々は殿下のご意思を尊重致します」
「ありがとう、宰相レクシャ・サザランス公爵」
「礼には及びません。私はただ、宰相として務めを果たすだけです」
深々と頭を下げたレクシャは、静かに立ち上がる。
その時、ロスペルが転移魔法を使い、カトレアやラピス、そしてティアーヌを連れて屋敷に戻ってきた。
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