第476話 僕も行こう(後編)
ノルベルトの改竄魔法により、サザランス公爵家の存在が国民の記憶から消えた日、ジルベールもまた、改竄魔法によって国民から忘れ去られた存在になっていた。
ノルベルトの動きを前々から危険視していたレクシャは、『万が一ノルベルトが動いた場合、王子がノルベルトの手にかかるのでは!?』と考えた。
そこで、レクシャは自分が一番信頼出来るディロイスに事情を説明し、『万が一、何かあれば転移してきたジルベールを保護して欲しい』と無効化魔法が付与された銀色の腕輪を渡すと共にお願いした。
そして、ジルベールにも同じように説明をした上で、『もし何かあれば、ヴィルマン侯爵を頼って欲しい』と銀色の腕輪とロスペルお手製の転移魔法が付与された魔道具と共にお願いをした
その結果、全てを奪われたあの日、危険を察したジルベールは手筈通りに魔道具を使ってディロイスのいる屋敷に逃げ込んだ。
そんな最悪な日から今日までのことを思い返し、小さく拳を握ったジルベールは、後ろで同じように目を閉じて喜びを噛み締めているリュシアンを一瞥する。
すると、ディロイスが立ち上がった。
「殿下、これから私は公爵様のところに向かいます」
その言葉に、ジルベールの中にあった喜びと安堵は風のように消え去った。
(そうだ、ここから本番だ。ここから私は……いや、私達は大切にしていた者を取り戻さないといけないんだ)
ディロイスの言葉でジルベールは決意を固める。
「ですので、殿下はこのままリュシアン君や我が騎士達と共に……」
「では、僕も行こう」
「殿下!!」
「ジルベール!」
ジルベールの言葉に臣下のディロイスと臣下兼親友のリュシアンが思わず声を荒げる。
(お前は、自分が何を言っているのか分かっているのか!?)
今から向かうのは、現宰相がいるコロッセオ。
そんな場所に改竄魔法で存在を消されたジルベールが行けばどうなるか、考えなくても分かる。
友人の身を案じるがあまり名前で呼んでしまったリュシアンと、心配な目を向けるディロイスを見て、ジルベールは毅然とした態度で答える。
「リュシアンに侯爵殿。あなたが私の身を案じているのは分かっている」
「だったら……!」
「けれど、私だって家族をこの手で救いたいのだ。あなた達と同じようにね」
「「っ!!」」
(宰相は私の身を案じて合図があるまで隠れていて欲しいと言ったのだろう。リュシアンを私の護衛役にしたのもそのため。だが、私は家族を助けたい)
ジルベールの真剣な目を見たディロイスは深く溜息をつく。
「……分かりました」
「侯爵様!」
再び声を荒げるリュシアンにディロイスは笑みを零す。
「リュシアン君、ここは従うしかないだろう」
「侯爵様……」
力なく笑うディロイスを見て、苦虫を噛んだリュシアンにジルベールが優しく声をかける。
「それに君だって、自分の手で家族を助けたいでしょ? リュシアン」
「っ!」
(確かに、そうだが……!)
人一倍家族想いのリュシアンの『自分もコロッセオで頑張っている妹を助けたかった!』という気持ちを見抜いていたジルベールは、いたずらっ子の笑みを浮かべながら背中を押す。
(僕だって、自分の手で家族を救いたいしね)
ニコニコと笑うジルベールを見て、リュシアンは観念したように声を荒げた。
「……分かりましたよ!」
「すまないね、リュシアン」
「分かっているなら、最初から言わないでください」
「フフッ、そうだね」
(でも、君だって家族が救えて良いじゃない)
不貞腐れながらもどこか嬉しそうなリュシアンを見て、安堵の溜息をついたジルベール。
その後、今後のことを副団長に任せたディロイスは、持っていた魔道具を使い、リュシアンやジルベールと共にレクシャのいる屋敷に転移した。
そこで、ジルベールは王族が襲撃されているということを知り、『自分の判断は間違っていなかった』と思うのだった。
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