第473話 刺客と援軍
「ん?」
(一体どうした? 急に前が止まったが)
遮蔽物がほぼなく、舗装された道以外は緑が広がっている場所を歩いていた王族一行。
そんな中、馬車の前を歩いていた騎士達の足が止まり、不審に思ったメストが少しだけ眉を顰めると険しい顔をしたシトリンが声をかけてきた。
「メスト、僕が前を見てくる」
「あぁ、頼ん……」
その時、何かに気づいたフェビルが辺り一帯に轟くような大声で指示を出した。
「メスト、シトリン今すぐ剣を構えろ!!」
「「っ!!」
フェビルの声に驚いたメストとシトリンが、咄嗟に鞘から剣を引き抜いて構える。
そして、フェビルの指示に従い、第四部隊全員が王族を守るための戦闘態勢になった直後、鮮やかな緑生い茂る場所に黒くて大きな円がいくつも現れた。
「メスト、もしかして……」
「あぁ、魔物が現れる前兆だ」
(それも、これは意図的に作り出されたもの。だとしたら、犯人は間違いなく……)
周囲に現れた黒い丸に騎士達が殺気立ったその時、メストやシトリン、そしてフェビルにとって聞き馴染みのある男の声が聞こえた。
「アハハハッ! やはり、見破られてしまったか! さすが騎士団長様だ!」
「「っ!!」」
((この声、間違いなく!!))
厳しい表情をメストとシトリンが声の聞こえた方に向けると、そこには下卑た笑みを浮かべたノルベルトの息子リアン・インベックがいた。
だが、メストとシトリンはリアンの背後にいた者達に言葉を失う。
「えっ?」
「なっ!」
(どうして、お前達がそっち側にいるんだ?)
2人の表情を見たリアンが笑みを深める。
「フフッ、どうやら驚いたみたいだね。そうさ! 魔法師としてこの上なく優秀な僕は、魔物だけじゃなく、父上と同じように人を使役出来るようになったんだよ!」
「「っ!!」」
(人を使役……それってつまり、隷属魔法を扱えるようになったということか!?)
使役魔法とは、術者の魔力を対価に動物や虫を一時的に使役する無属性魔法であり、主に冒険者や騎士が山などに入って探索などをする際や、諜報活動での情報収集で使われる。
対して、隷属魔法は文字通り、術者の魔力を対価に術者以外のものを奴隷として従わせる闇魔法であり、改竄魔法と同じく危険視されている。
(この短期間で異なる2つの魔法……それも闇魔法を使えるなんて!)
心底愉しそうに嗤うリアンの後ろで、彼の奴隷として虚ろな目で彼の命令を待っている第四部隊の面々に、メストが悔しそうに下唇を噛んでいると、後ろから頼もしい男の声が聞こえた。
「ハッ、どうせパパの改竄魔法のおこぼれを預かっただけだろう?」
「「団長!!」」
「チッ!」
悔しがるリアンをよそに、メストとシトリンが揃って後ろを振り向くと、威風堂々とした態度のフェビルが立っていた。
2人の表情を見たフェビルは、鎧越しに2人の肩を叩く。
「大丈夫だ。あいつらは死んではいない。だから、あいつらを気絶させて奴の呪縛から解放させるぞ」
「「はい!!」」
フェビルの言葉に背中を押されたメストとシトリンは、厳しい表情のままリアンに視線を戻す。
3人が圧倒的不利な状況に絶望していないと知ったリアンは、一瞬眉を顰めたが周囲の様子を見てニヤリと笑みを浮かべる。
「フン、まぁ、いい。父さんの改竄魔法で僕の駒になった騎士と、僕が召喚した大勢の魔物に囲まれている中、果たしてそこにいる国王を守ることが出来るのかなぁ~? アッヒャヒャヒャヒャ!!」
高笑いをしたリアンに3人が警戒を強めた時、上空から女性の声が降ってきた。
「《ウインドブレス》!」
「「「っ!!」」」
そう言って女性が風属性の中級魔法を使うと、リアンと3人の間に砂埃があがった。
「な、なんだ!?」
突然のことにリアンが戸惑う声が上がると、砂埃の中から複数人の声が聞こえた。
「カトレア嬢。咄嗟の判断、お見事です。あなたの婚約者や私たち家族、そしてジルベール殿下が怪我をせずにすみました」
「ありがとうございます、師匠!」
そう言って、魔法を使った女性……カトレアは、師匠に褒められて嬉しそうに微笑んで一緒に来た人達の様子を確認すると、砂埃が収まったタイミングで周囲に目を向けた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけ、久しぶりのリアン登場!
また、カトレア達の助太刀に来ました!
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)