第466話 邪魔だから消す
「えっ?」
(攻撃が止んだ?)
全方位から容赦なく襲ってきた猛攻が突然止み、レイピアに透明な魔力を纏わせていたフリージアは困惑しつつもレイピアを下ろす。
すると、頭上からノルベルトの酷くつまらなそうな声が降ってきた。
「飽きた」
「は?」
砂塵が収まった直後に振ってきた言葉に、思わず眉を顰めたフリージアは上を見上げる。
そこには、国王しか座ることが許されない特等席に座り、頬杖を突きながらコロッセオを見下ろすノルベルトがいた。
「精鋭部隊を交えた大勢の人間で始末できるかと思ったが……どうやら、期待外れだったな」
「あなた、一体何様のつもりですか?」
(他人の命や魔力を道具のように使うあなたは一体何様のつもりなのですか?)
怒気を込めたフリージアの問いに、ノルベルトは不機嫌そうな顔で答える。
「もちろん、この国の……いや、この世界の神様だ。だから、こうして国王の席に座っている。どうせ、この国は我がものになるだからな!」
「どういうことかしら?」
その瞬間、ノルベルトの下品な笑い声がコロッセオに響き渡る。
「ギャハハハハハッ! どうやら、平民に成り下がったから分からないようだな!」
表情を険しくするフリージアに対し、ノルベルトは下卑た笑みを浮かべながら特等席から立ち上がる。
「あのお飾り国王は俺の世界征服の礎になるために消えてもらう……いや、消えてもらったんだよ! それも、この国で一番の強者である第一部隊の奴らと我が息子リアンの手によってな!」
「……つまり、王族護衛専門の近衛騎士に陛下を殺させたってこと?」
「そうだ! そして、騎士達はもうじき、国王の首と共に戻ってくるだろう! あと、あの鬱陶しい近衛騎士達と騎士団長の分もな! ギャハハハハハッ!!」
「…………」
(カトレアの言う通り。やはり、陛下の暗殺を目論んでいたのね)
愉し気に嗤うノルベルトを見て、顔を顰めたフリージアの脳裏に建国祭に交わしたカトレアとの会話が過る。
◇◇◇◇◇
それは建国祭前、フリージアの家に訪れたカトレアとラピスが、フリージアに建国祭での作戦を伝えていた時のこと。
「フリージア、あんたに伝えないといけないことがあった」
「何かしら?」
深刻そうな顔をするカトレアに、首を傾げたフリージアが耳を傾ける。
「ノルベルトはフリージアの処刑と共に、国王陛下の暗殺を企てているわ」
「陛下の暗殺を!?」
思わず目を見開くフリージアに、深刻な表情のカトレアが静かに頷く。
「えぇ、ノルベルトは余興の一環としてあんたを処刑した後、第一部隊と彼の息子リアンによって暗殺された陛下とフェビル団長、そして王族護衛についていた第四部隊全員の首をコロッセオに晒し、自らが王であることを宣言する。その後、国民全員を傀儡にして帝国に攻め入るつもりよ」
「第四部隊……それって、つまり」
「えぇ、シトリン様にメスト様の分もってことよ」
「っ!」
『カミル』
「それは、本当なの?」
「えぇ、師匠が掴んだ情報だから間違いないわ」
「どうして、そこまでして……」
(何の関係もない人をどうしてわざわざ殺すの?)
「『自分の邪魔になるから消す』。それだけよ」
「っ!」
メストの笑顔が失われるかもしれないと分かり、フリージアは瞬く間に顔面蒼白になる。
そんな彼女の両手を大きな手が包み込む。
「ラピス、さん?」
「フリージア嬢、隊長達は強い。だから絶対に死なない……いや、俺たちが絶対に死なせない!」
「ラピスさん……」
いつになく真剣なラピスの言葉に、メストと過ごした日々が脳裏を過り、涙に堪えていたフリージアの表情が一気に晴れやかになる。
すると、ラピスの手の上から白魚の手が乗せられる。
「そうよ。作戦では魔法陣を奪還した直後、私とラピスはすぐさま公爵様や師匠と合流して陛下のところに行ってメスト様達に助太刀する予定よ。だから、絶対に死なせないわ」
そう言うと、カトレアは笑みを零す。
「それに、メスト様が強いことはあんたが一番分かっているじゃない?」
カトレアの問いに、フリージアは静かに頷く。
「えぇ、知っているわ。彼が強いことくらい」
(そうよ、メスト様は強い。それを、私が一番分かっているじゃない)
毎日のようにメストと鍛錬をしていたフリージアは、彼がどれだけ強いから知っていた。
だから、例え第一部隊の精鋭騎士でも、魔獣を召喚するリアン相手でも、メストは絶対に死なないと2人の言葉を聞いて確信した。
フリージアの笑顔を見て、カトレアは笑みを深めると手を強く握る。
「だったら、安心して役目を全うしなさい!」
「うん! カトレア達が来るまで、ノルベルトとダリアは私に任せて!」
(大丈夫、カトレア達が助けに来るなら、絶対にメスト様は死なない)
カトレアとラピスの話を聞いて、フリージアは己に課した役割を全うしようと改めて決意をした。
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