第463話 見限られた
「危ない!」
「えっ!」
ダリアの危機をいち早く察したフリージアが、レイピアに透明な魔力を纏わせながらダリアの方に駆け出す。
そこでようやく、自分が狙われていると気づいたダリアは困惑のあまり動けなくなる。
そんな彼女に冷たい目を向けていたノルベルトが、傀儡に成り下がった宮廷魔法師に命じる。
「やれ」
「っ!」
(お父様、どうして! どうして、娘の私に!)
ノルベルトの傀儡から火球が放たれ、顔面蒼白で肩を震わせたダリアがノルベルトに懇願しようと口を開こうとした。
その時、ダリアの目の前に木こりの平民が現れ、ダリアと戦っていた時よりも遥かに多く透明な魔力を纏わせたレイピアで眼前に迫った火球を打ち消す。
「どうやら、あなたのお父様がおっしゃっていたことは間違っていないようね」
「あんた!」
レイピアを下ろしたフリージアは、後ろで啞然としているダリアを見る。
「怪我は……まぁ、ないわよね」
涼しい顔のフリージアを見て、我に返ったダリアは慌てて握り締めていた扇子を広げると、顔を隠して小さく鼻を鳴らす。
「フ、フン、平民が貴族を助けるのは当然のことよね!」
傲慢貴族らしい強気な態度で助けてもらった礼を言わないダリアを見て、フリージアは心底呆れた顔で助けた理由を話す。
「……あなた、何を勘違いしているか知らないけど、私はこの国の民として、あなたには犯した罪に対し、法に則った裁きを受けて欲しいから助けたのよ」
「っ!」
(そう、私が助けたのは貴族として犯したことに対しての責任を取って欲しいだけ。例え、彼女に与えられる罰が処刑だとしても)
「なんの裁きをなくあっさり死ぬなんてそんな都合の良いこと、させるわけが無いじゃない」
「あんた、何か言った?」
「いえ、何も。それより……」
ダリアからノルベルトに視線を移したフリージアは、静かに殺気を放ちながらレイピアを構える。
「あなた、平民の私よりも先に、自分の娘を殺す気だったのですか?」
(お飾りだったとはいえ、宰相家令嬢としてこの国で好き勝手させたのだから、娘に対してそれなりに愛情があると思っていた)
フリージアの言葉を聞いて、ダリアは声を震わせながら涙目でノルベルトを見る。
「お父様、嘘ですよね? 本当はこの下民を殺そうと魔法を撃つように命令したけど、そこにいる宮廷魔法師が誤って私の方に魔法を撃ってしまった。そうですよね、お父様?」
「…………」
娘に向けていいはずない冷たい目をダリアに向けたまま黙るノルベルト。
それを見て、ダリアは痺れを切らす。
「何とか言ってください、お父様! さっきの攻撃は平民に対してのもので、私のものではなかったって!」
(嘘よ、嘘よ、嘘よ! お父様が私に対して冷たい視線を向けるのも、あの宮廷魔法師がお父様の命令で最初から私に狙いを定めていたことも! 全部、全部何かの間違いよ!)
貴族として頭の足りないダリアでも分かっていた。
実の父親が、平民に向ける目と同じ冷たい目を自分に向けられた時点で、父親にとって自分が要らない存在になったのだと。
それでも、心は必死に『噓だ!!』と訴える。
何があっても、娘である自分を愛してくれた父親がこんな真似をするはずが無いと。
恐怖で震える両手で扇子を強く握り締め、真っ赤に燃える赤い瞳を潤ませながら縋るように見つめて泣き叫ぶダリアに、ノルベルトは不快そうに小さく鼻を鳴らして答える。
「フン、私の期待に応えられない出来損ないの駒など、我がインベック公爵家の娘ではない」
「おとう、さま……!」
この瞬間、ダリアはノルベルトに見限られた。
家族としても、忠実な部下としても。
父から冷たく突き放されたダリアは、衝撃のあまりその場に座り込んだ。
それを背中越しで見たフリージアは思わず呟く。
「どうやら、改竄魔法という魔法は大切なものさえ改竄してしまう魔法なのね」
(愛した娘すらも、手駒としか思えなくするほどに)
茫然自失のダリアに小さく下唇を噛んだフリージアは、座り込んでいる彼女の腕を取る。
「ほら、立ちなさい! 今は安全な場所に身を隠し……」
「そんなこと、俺が許すわけ無いだろうが!」
特等席からノルベルトが声を荒げた瞬間、ダリアの足元に黒い魔法陣が現れた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
という訳で、まさかの絶縁になりました。
ノルベルトのダリアに対する溺愛ぶりはご存じかと思いますが、ここで娘を見限るとは。
彼にとっていつの間にか娘は手駒の1つとしか思っていなかったのですね。
それが彼がずっと隠し続けた本心なのか、改竄魔法を使い過ぎた副作用なのか。
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




