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第439話 下民呼ばわり

「クソッ! あの魔法師の女!」

「あと少しで、あの野郎の商売道具が消し炭になるはずだったのに!」



 カトレアが水属性の中級魔法で馬小屋と倉庫を消火すると、集まった村人達から苦言が漏れる。

 それ見て、ラピスが村人達を睨みつけていると、後ろから突風が吹き荒れ、周囲に立ち込めていた煙が消えた。


(さすが、カトレアだな)


 婚約者の有能さを目の当たりにし、内心誇りに思っているとカトレアが戻ってきた。



「カトレア、お疲れ」

「お疲れ、でも倉庫は全焼してしまったわ」



(フリージアがエドガスさんから受け継いだ大切な場所を守れなかった)


 消化した直後に見た真っ黒に焦げた倉庫を思い出し、カトレアは悔しそうに下唇を噛む姿に、後ろを振り返ったラピスが焼けた倉庫と馬小屋、そして母屋を見やるとカトレアを慰める。



「だが、馬小屋と母屋は残っている。だから、まだ大丈夫だ」

「そうね」



(特に母屋にはフリージアの大事な物が詰まっているのだから)


 フリージアが住むこの場所には、母屋と馬小屋と倉庫しかいない。

 けれど、エドガスから引き継いだ場所をフリージアが母屋を大事にしていたのは、彼女からこの場所について説明を受けていたカトレアやラピスは何となく理解していた。


 なにせ、母屋には今は亡きサザランス公爵家の屋敷から持ってきた物がたくさんあり、絶望にいたフリージアを奮い立たせ、今のフリージアにとって大切な人達の別れや再会をした思い出のたくさん詰まった家なのだから。



「それでも罪悪感があるなら、全てが終わったら一緒に謝りに行こう」

「ラピスも?」

「あぁ、俺もあいつの大切なものが守れなかったからな」



 『一緒に謝ろう』と言ってくれる婚約者の言葉に、少しだけ元気が出たカトレアが思わず笑みを零すと、2人の目の前から火球が飛んできた。



「ラピス」

「あぁ、分かっている! 《ウォーターボール》!」



 真剣な表情に戻ったラピスが視線を前に戻した瞬間に青い剣を前に向け、剣先から水球を作り出すと飛んできた火球を打ち消した。



「クソッ、こいつも魔法が使えるのかよ!」



 火球を飛ばしたであろう村人が心底悔しがっている表情とは反対に、静かに剣を下ろしたラピスは、村人が持っているものを見て渋い顔をすると視線だけカトレアの方に向ける。



「カトレア」

「えぇ、丁度思っていた」

「お前達、一体誰なんだ!」



 ラピスと同じく村人を見て険しい顔をしたカトレアは、ラピスの隣に立つと警戒芯を露にしながらこちらを睨みつけている村人達の得物を改めて見やる。


(村人の何人かが、今のペトロート王国で平民が持つことを許されていない剣を持っている。それも、平民が持つにはあまりにも上等な……魔法が付与された特別製を。だとしたら、彼らに剣を与えたのはフリージアを連れ去った騎士に違いない)


 村人が持っていた剣から火球が放たれた瞬間を見ていたカトレアは、村人達に剣を持たせた騎士達を内心恨みつつ、険しい顔を淑女の笑みで隠すとようやく村人の質問に答える。



「ご挨拶が遅れてしまってごめんなさい。私たち、この家に住んでいる人の友人なのですよ」

「ハッ、あの下民に友人なんているはずがないじゃないか」

「はい?」



(同じ平民なのに『下民』呼ばわり。これってもしかしなくても……)


 フリージアを『下民』と蔑み、村人達の前に現れた男……村長の態度に思わず小さく下唇を噛んだカトレア。

 そして、彼がフリージアを『下民』と呼んだ確証を掴みたかったカトレアは、無理矢理改竄魔法にかかっていた頃の自分を呼び覚ますと、少しだけ杖を下ろして高飛車な笑みを村長に向ける。



「あら、あなた方だって同じ下民なのに、どうしてあの子だけ下民なんていうのかしら?」



(ごめんなさい、フリージア。でも、どうしてもあなたを『下民』と呼んだ彼の真意を確かめたかったの)


 王都にいる親友に『平民を『下民』と呼んでごめんなさい』と思いつつ、カトレアは今のペトロート王国の貴族らしい蔑みを含んだ笑みを浮かべながら問い質す。


 カトレアの言葉を聞いて村人達が放つ殺気が増す中、村長が突然余裕の笑みを浮かべると誇らしく両手を広げる。



「それは、俺たちが神から与えられた選ばれし人間だからだよ!」

「「っ!?」」



(やっぱり、騎士達に武器を持たされた彼らもまた、ノルベルトの改竄魔法によって傀儡になる寸前の状態になっていたからなのね!)


 余所者嫌いな彼らが騎士達と共に行動し、騎士達と同じ言葉を放つことになったのは、ノルベルトの放った改竄魔法が考え方すら変えられてしまったからだった。



「カトレア。これは少々面倒くさいことになってきたな」

「えぇ、でも私たちのやるべきことは変わらない」

「そうだな」



 小さく頷いたカトレアとラピスは、前衛と後衛に分かれると魔力を練り始める。

 それを見て、村長は余裕の笑みを浮かべながらカトレアとラピスを指さす。



「お前達は俺たち選ばれし者に仇名した者! つまり、神に仇名した者! だから、俺たちが神に代わり、お前達を滅ぼしてこの呪われた地を焼き尽くしてやる!」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


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