第427話 師匠が決めたことなら!
大幅加筆修正に伴い、話数をずらしました
ライドの合図で屋敷を出た一行は、ここからほど近い魔法陣の奪還に向かう。
(ついに、始まってしまったのね)
朝日が出ても尚、薄暗い森の中、ギリギリまで敵に見つからないよう気配を消して歩いている一行には、音を立てることも一切許されない張り詰めた緊張感が漂っていた。
そんな中、一行の後ろにいたカトレアは、宮廷魔法師になってからずっと使っている杖を握り締める。
(帝国で記憶を取り戻して公爵様の協力者になってから、この日に向けて師匠の下で厳しい修行に堪えて力を取り戻した。だから大丈夫。絶対に約束を果たすから!)
いつになく険しい顔をしているカトレアに、苦い顔をしたラピスは小さく息を吐くとカトレアに小声で話しかける。
「カトレア。少し良いか?」
「なによ」
不機嫌そうに向いたカトレアを見て、少しだけ顔を歪ませたラピスが思わず顔を噤む。
(何? いつものラピスらしく無いじゃない)
「ラピス。言いたいことがあるならハッキリ言って。時間の無駄よ」
「あ、あぁ……分かっている」
カトレアに小声で叱責されたラピスは、深く息を吐くといつになく真剣な表情でカトレアを見た。
「カトレア。実は作戦が始まる前、公爵様から報告があって……その」
「何? 言いたいことがあるならハッキリ……」
「『宮廷魔法師団団長ルベル・スコロニフ殿が、ノルベルトの傀儡になった』と報告があった」
「っ!!」
『カトレア! あそこで魔法を撃つなと何度も言っているだろうが!』
『すまないな、カトレア。いつもお転婆宰相家令嬢の相手をさせてしまって』
『カトレア、この間の魔物討伐だが、お前はどう思う?』
『お前が自分の意思であの魔法を撃っていないことも、お前が本当にただ彼と話をしたかっただけだったことも、この前の話と今の話で十二分に理解している』
(改竄魔法を受ける前も、受けた後も、国のために、部下のために、自ら先頭に立って指揮をしてきた強くて優しくて厳しい団長。その方が、まさか本当にノルベルトの傀儡に……)
ルベルがノルベルトの傀儡になる可能性があることは、レクシャから事前に聞かされていた。
それでも、ルベルが本当にノルベルトの傀儡になってしまったことに、カトレアは俯いてただ悔しさに堪えるしかなかった。
すると、カトレアの脳裏に師匠の顔が過る。
「ラピス」
「何だ?」
「師匠は……ロスペル副団長は何か言った?」
(団長に一番お世話になっているのは、他でもない師匠だ。その師匠がこのことを知ってどう思ったのかしら)
ロスペルの弟子であるカトレアは、ルベルに対して並々ならない尊敬を抱いていることを知っていた。
だから、ルベルがノルベルトの傀儡になったと聞いて、ロスペルがどう思ったのか気になった。
「何も言っていなかった。ただ……」
「ただ?」
顔を上げたカトレアに、ラピスはレクシャから聞かされた時のロスペルの反応を思い出す。
「ロスペルは公爵様の作戦通り、ルベル団長が俺たちの前に現れた時は、団長の相手を引き受けることに了承した」
「っ!」
『団長。随分前に言っていた書類はどうなりました?』
『あぁ、それなら今から見る』
『全く……新人教育に力を入れるのは構いませんが、団長として書類仕事もしっかりしてくださいよ』
『分かっているよ、副団長』
在りし日の光景を思い出し、小さく下唇を噛んだカトレア。
(団長が敵に回って、一番悔しいのは師匠のはず。それでも、師匠は全てを取り戻すために団長に対して杖を向ける覚悟を決めたのね)
「さすが、師匠だわ」
複雑な気持ちを抱きながらも、全てを取り戻すために尊敬している人に杖を向ける覚悟を決めたロスペルの話を聞いて、カトレアを改めて覚悟を決める。
「カトレア?」
「ラピス。私たちはあの日、公爵様に上司や同僚を敵に回してでもフリージアを助けると決めた。だから、ここまできてその覚悟を覆すようなことはしない」
(師匠が団長の相手をするって決めたのなら、私は、一番の目的であるフリージアを助ける! それが、弟子である私が師匠に対して唯一出来ることだから!)
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