第421話 様変わりした旧都
「まさか、コロッセオに着く前からこんなに疲れるなんて」
カルミアの采配で無事に旧都に入り、再び手枷を付けられたフリージアは、おんぼろ馬車で揺られながら1人、額に手をつきながら思わず溜息をつく。
(それも、お母様の天敵に会うとは)
幼い頃から母ティアーヌとカルミアの諍いを見てきたフリージアは、まだ幼かった頃にカルミアが侮蔑の目を向けながらけなしてきたことを思い出す。
(あの時は幼子頃ながら『バカにされた』と思わず怒ったわ。でも、今なら『宰相家夫人相手になんて不躾なことを言うのだろう』って呆れ果てるわね)
ちなみに、その頃からダリアから一方的に敵視されていたフリージア。
そんな彼女の頭に、門の前に現れたカルミアの格好が過り、再び溜息をつく。
「それにしても、相変わらず品性の欠片もないドレスを着ていたわね。全く、偽りとはいえ、一応、宰相家夫人になのだから、少しは気を使って落ち着いてよね」
(とはいえ、あの娘の母親だからよっぽどのことが無い限り無理よね)
「私が旧都に入った直後、すぐ近くにいた門番の騎士達を誑かしていたし……本当、建国祭なのだから今日くらいは宰相家夫人として貴族の手本となる振る舞いをして欲しいわ」
宰相家の一員としての自覚の無いカルミアの振る舞いに、『他人事だ』と思いつつも頭を抱えていると、不意に窓越しに見える旧都の街並みが目に映った。
「うぐっ!」
(久しぶりに旧都に来たけど、あの頃に比べたら随分と派手な装飾が施されているわね)
窓越しに見える旧都の景色に目をやったフリージアは、思わず顔を歪ませる。
300年前まで王都だったこの場所には、騎士や宮廷魔法師達に飾らせたのであろう金や赤の装飾が施された国旗や垂れ幕があちらこちらに飾られていた。
そして、貴族達や各国要人達が泊まるであろう屋敷には、世界各国から集めたであろう宝石や綺麗に磨かれた魔石が装飾されていた。
(なにこの成金趣味な装飾は! とてもじゃないけど、一国の建国祭とは思えない下品すぎるわよ!)
もちろん、国交を断絶しているペトロート王国に他国からの来賓が来ない。
それでも、建国祭だからと街にはこれでもかと派手に飾られていた。
「これもノルベルトの趣味なのだろうけど……これはあまりにもひどすぎるわ」
(一体どれだけの財力と人員を割いたのかしら。お父様が見たら確実に卒倒するわね)
レクシャが宰相だった頃は、旧都の昔を感じさせる品があって落ち着きのある街並みを活かしつつ、建国祭らしい華やかな装飾が施されていた。
その景色を毎年見て胸を躍らせていたフリージアは、ノルベルト色にド派手に様変わりしてしまった旧都の街並みを見て、ただただ悔しい気持ちを抱くしか出来なかった。
すると、彼女の目に街を歩いている貴族達の格好が映る。
「な、何これ!?」
「おい! うるさいぞ! 下民らしく黙っていろ!」
「す、すみません……」
(いけない、私としたことが思わず声を上げてしまったわ)
貴族令嬢としてはしたない真似をしたフリージアの視線の先には、クラバットの胸元の部分をはだけさせて着崩す令息達と、胸元や肩や背中が大胆に開いている膝丈のドレスに身を包んでいる令嬢達が、近すぎる距離で目がチカチカする街を歩いていた。
(と、とてもじゃないけど、他国の要人にお見せ出来ない。間違いなく笑われてしまう)
フリージアはこの時、ノルベルトの他国嫌いに感謝した。
深いため息をついたフリージアは、疲れた顔で窓の外の景色に再び目をやる。
「まるで、『ノルベルト・インベック』という人間そのものを現しているような街並みね」
(外身は立派で中身は空っぽ。正しく、今のノルベルトそのものね)
「もし、この光景が彼の手に入れたい理想そのものだとしたら、そんな国に……いや、世界に一体どんな価値があるというのかしら?」
無駄に豪華に飾られる旧都の街並みと、貴族らしくない格好で白昼堂々と街を歩く貴族達。
歪で滑稽なその風景に、フリージアはほんの少しだけノルベルトを哀れに思った。
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